日米通商交渉で避けるべきは円高容認

FFRでは関税の話が中心になると思いますが、実はそれと同等に避けるべきことは円高容認です。円高の影響を軽く見る向きもありますが本当にそうでしょうか。

2018.8.16

円高による本当の影響

このFFRの通商交渉に為替交渉が行われる可能性もはらんでいます。当然、米国としては「円安で利益を溜め込んでいる日本企業」はけしからんとして円高を要求して来ることが予想されます。
2019年度の業績予想の前提となる為替レートを開示した188社のうち、2018年4月──2019年3月の想定為替レートが105円とした企業が53%と一番多く、もし、このFFRの交渉において、安易に円安政策の政策変更を迫られた場合、その結果、もし円高が進行し100円方向に進むようであれば、さらに上場企業の利益が減ることが予想されます。
さて、このように円高に対して警戒をお伝えしても、「日本の貿易依存度は実は低い」「だから円高による企業業績への影響は微々たるものだ」として楽観する向きもありますが、それではあまりにも無防備です。
このような楽観派は、日本の対GDPにしめる輸出依存度は17%と米国12%の比べると高いものの、一方で、ユーロ圏28%、中国19%と比較すると輸出依存度は低く、いまや昔ほど円高は怖くないという理由を掲げています。
しかし、本当でしょうか。この依存度だけに着目して判断するのは大変危険だと言えます。近年、日本の上場企業の海外売上は増加が継続しており、2018年時点では、総売上の50%以上を海外売上で占めています。その割合は、米国および中国を大幅に上回るとされ、海外の景気後退の影響を最も受けやすい先進国と言われています。つまり、FFRによる影響だけではなく、ひとたび、先にスタートした米中貿易戦争による世界的な景気後退がおころうものならば、日本経済に大きなマイナス影響があることは避けて通れなさそうです。
さて、投資では、大きな転換点に打ちのめされないようにすることが一番大切です。その転換点を探るには、歴史にヒントを求めることが一番大切になります。それは、「歴史は必ず繰り返すから」です。そこで、今回参考にする時代は1930年代。今置かれている状況に類似しており最も適していると思われます。
1930年はテールリスクが起こりました。各国が国内産業保護に走り、だれもが関税を引き上げ、「ブロック経済」が世界的に広がった経済史に汚点を残した時期です。もし今回、この1930年と同じように「新ブロック経済」が世界に広まるとすれば、世界経済は甚大な影響を受けます。
OECDの調査によれば、主要各国の関税が一律10%引き上げられた場合、日本のGDP成長率は1.7%押し下げられるとされています。また、関税が10%引き上げられ、さらにドル円が100円まで円高になった場合、日本の上場企業のEPS(一株利益)は約20%弱押し下げられるとされています。このようなことから、米中貿易戦争の推移とFFRの交渉結果を投資家として真剣に捉えて準備をしておく必要があります。
ただし、現段階では政策当局者がこのようなシナリオを回避するインセンティブも非常に強いため、このような最悪のシナリオはあくまでテールリスクだといえます。
しかし、他人事ではなく、当事者意識を持ってこの交渉の推移を見守るべきだと思います。それは、もしテールリスクが起こらなくても、投資家として一つの歴史の証言者となりえること、そして、その経験がいずれかの投資判断に活かすことができます。
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