ブロックチェーンは、管理職も社長も「会社」もなくす

野口悠紀雄ブロックチェーン基調講演
「分散自立型社会」という言葉があります。
今コンピュータが人間の職を代替するということがいろいろ話題になっています。この場合に言われていることは、AIが人間の職を代替するということです。もちろん重要な問題なんですが、AIはどういう仕事を代替するかというと、労働者としての仕事です。
2018.12.5

「分散型自立社会」とはどんな社会?

「分散自立型社会」という言葉があります。
今コンピュータが人間の職を代替するということがいろいろ話題になっています。この場合に言われていることは、AIが人間の職を代替するということです。もちろん重要な問題なんですが、AIはどういう仕事を代替するかというと、労働者としての仕事です。

例えば、AIで自動車の自動運転が可能になります。
今運転しているのはドライバー、労働者です。その仕事をコンピュータが代替するわけですね。したがってAIが実現する自動化というのは、労働者の仕事をコンピュータが奪うということです。

このことをこの図では、左から右への変化として書いてあります。
左側の仕組みは労働者がいる組織、今の組織です。
それをAIが労働者の仕事を自動化して、労働者がいない組織を作る。
それが左から右への移行です。これがよく議論されます。これはもちろん重要な問題なんです。ところが、多くの人はコンピュータが奪うのは、労働者の仕事だろうとしか思っていません。私は管理者、私は経営者だから私は大丈夫だと思っている人が多いんです。
でもそうじゃないってことです。

コンピュータは管理者、あるいは経営者としての仕事を代替するんです。
ビットコインのことをもう一度思い出してください。ビットコインには労働者がいます。これはさっきのプルーフオブワークをやっているコンピュータです。あれは労働者の仕事です。計算作業をやっているんです。では、管理者がいるかというと、管理者がいません。これはブロックチェーンが自動化したんです。
つまりブロックチェーンは管理者ないしは経営者としての仕事を代替したということになります。

それはこの図では上から下の変化として書いてあることです。これは先ほどの労働者の仕事の代替とは違います。経営者管理者としての仕事を代替することです。

それはすでにビットコインという形で、原始的な形では登場しているし、先ほど分散市場とかシェアリングエコノミーだとかそういうところにも需要ができると言いました。ということは管理者ないしは経営者としての仕事を代替する、そのような変化もすでに起きているという事です。

無人会社「DAO」

では、両方起きたらどうなるか。労働者としての仕事をAIが代替し、管理者としての仕事をブロックチェーンが代替したらどうなるか。そうしたら右下の組織になります。これは完全に自動化された会社です。その前に言い忘れましたが、上から下に来た、下の組織のことをDAOといいます。DAOというのはdecentralized autonomous organization。分散化された自主的な組織、つまり管理者がいない組織です。それと労働者の代替をすれば右下に行く。完全自動化会社です。これは今は存在しませんが、近い将来に登場する可能性があります。

一番可能性があるのはタクシー会社でしょう。

つまりAIによってドライバーの仕事が自動化されれば、タクシーは無人のタクシーになります。その無人のタクシーをどう管理するか、例えばガソリンはどこのガソリンスタンドにいって幾らまで入れていいか、夜はどこの駐車場に駐車するとか、等々のことを決める必要があります。これは管理者としての仕事です。でもそれはブロックチェーンで自動化できるんです。そうするとこのタクシー会社は完全に無人になります。そういう組織は近いうちに登場する可能性があります。それはタクシー会社だけではありません。そういうことが現実の可能性として将来に見えているということです。

そこで大問題。一体人間は何をするのか、ということです。

そこで大問題。一体人間は何をするのか、ということです。

人間は何もすることがなくなっちゃうのか。これが大変重要な問題です。今日はそれについて十分お話しする時間がありませんが、私は人間がする仕事は必ず残ると思います。それだけではなくて、コンピュータが労働者、管理者としての仕事を代替することによって、価値が上がる仕事っていうのが必ず存在するんです。そういう仕事が何かっていうのは、皆さんがいろいろお仕事なさっているその分野によって違うと思いますが、必ずあるはずなんです。それを生み出していくっていう事が大変重要だと思います。

1つの例だけを簡単に挙げるとすれば、オーナーシェフがやってるレストランを考えてみてください。このオーナーシェフは労働者としての仕事をやっています。料理を作るっていう仕事です。それだけじゃなくて管理者としての仕事もやっています。使用人を使うとか、仕入れ先と仕入れの交渉をするとか、税務申告をする等々の仕事。これが管理者としての仕事です。この管理者としての仕事はブロックチェーンで自動化できるんです。では労働者としての仕
事、これもAIで代替できるものがあります。実際今IBMのワトソンっていうAIはレシピを作っていますから代替できる。でもそれだけかっていうと私はそうじゃないと思います。確かにワトソンのレシピは良いけれども、私はあなたの作った料理が食べたいんだっていう客は必ずいるはずなんです。そういう客は必ずいるはずなんです。そういう仕事の価値は上がるんです。しかも、そのシェフは、今までの管理者としての仕事とかそういうことから解放されるんです。全く自分のやりたい仕事だけに専念することができる。そしてその仕事の価値が上がる。こういうことが必ずあるはずです。今のは1つの例ですが、皆さんがなさってる仕事のいろいろな分野でそういうことがあると思います。

具体的にどういう仕事がそういう仕事なのか。それを生み出されていくことが大変重要な課題になると思います。是非皆さんはそういうことを生み出していっていただきたい。それによって豊かな未来を作っていただきたい。これが今日私が皆さんにお願いしたいことです。どうもご清聴ありがとうございました。