2019.2.26
アメリカの富裕層の教育とは?
富裕層が500万人を優に超え、世界一多いのはアメリカ(米国)ですが、教育もアメリカの富裕層のスタイルが世界の富裕層のスタンダードになりつつある、と言えるかも知れません。私や周囲の知見も踏まえてお話ししますが、アメリカの富裕層子弟の教育では、私学のプリスクール(幼稚園)に始まり、ボーディングスクール(いわゆる”Ten Schools”などの全寮制高校)へ進ませることが珍しくありません。10代半ばから、自制やチームワークを養う教育環境を子供に与える訳です。
その後、アイビーリーグ(北東部の名門8私大:ブラウン、コロンビア、コーネル、ダートマス、ハーバード、ペンシルバニア、プリンストン、イェール)かそれらに比肩する名門大学(スタンフォード、MIT、カーネギーメロン、UCバークレー、UCLA、ミシガン、シカゴ、ノースウェスタンなど)、もしくはセブンシスターズ(北東部の名門7女子大:バーナード、ブリンマー、マウント・ホリヨーク、スミス、ヴァッサー、ウェルズリー、ラドクリフ)のコースが多いです。ラドクリフ大は、1999年にハーバード大に併合されています。
大学卒業までの20年間ほどの教育期間で、アメリカの富裕層は1人当たり2億円程度のコストをかけると考えられます。アメリカの富裕層教育で重視されるのは、正答がない中で課題を把握し解決する力、周囲を巻き込み成果に繋げるチームワーク力・リーダーシップ力、周囲の意見も傾聴しつつ自分軸を作る主体性などで、全人格的な教育を重視することが特徴です。敢えて言えば、0を1にできるアントレプレナーとして周りを巻き込んで成功する人間を作ることこそ、アメリカ富裕層の教育なのです。
中国の富裕層の教育とは?
最近急激に数を増している中国の富裕層ですが、彼らの子弟教育で最も特徴的なことは、漏れなく子供を帰国子女にすることです。家族ぐるみでの海外移住など、幼少期から英語で生活する環境作りを徹底して行います。私の見る限り、台湾の富裕層の子弟教育でも、中国人富裕層のそれと似た傾向が感じられますね。
中国の富裕層の子弟教育コースとしては、海外在住で英語など語学力を徹底して涵養した後、ヨーロッパやアメリカの名門ボーディングスクールへ進ませ、引き続きアメリカのアイビーリーグや、それらに並ぶ名門大学に入学させることが定番化しています。アメリカの名門大学に留学する東アジア系と言えば、現在では中国の富裕層子弟である可能性が相当に高く、勤勉で成績も優秀なことに定評があります。
ちなみに、東京大学の学生の10人に1人は既に中国人留学生と聞きますが、中国の富裕層子弟が含まれる可能性は低いです。中国人富裕層の子弟教育では、アメリカの名門大学への進学が定石で、日本の大学に留学してくるのは中流層です。英語を中心とする語学力、ITリテラシー、投資などお金を扱う力を重視することは、中国の富裕層教育の特徴です。海外でも通用するアントレプレナーを育てることが、中国の富裕層教育の大きな目的となっているのですね。
課題が大きいのは日本の富裕層の教育?
翻って、日本の富裕層教育の実態を見てみましょう。小学校から高校までを名門私立・国立に通わせ、国内の名門国立大・名門私大へ進ませるのが、富裕層の教育でも未だに主流です。それでも、子弟を海外留学(短期の語学留学ではない正規の学部留学)させることは、日本の富裕層教育においても定番になりつつありますね。例えば、大学入学後にアメリカのカリフォルニア州あたりのコミュニティ・カレッジ(公立の2年制大学)に留学して英語力を磨き、その後アイビーリーグなど世界で通用する名門大学に編入する動きも出てきています。
日本に戻って外資系金融業界や総合商社に就職希望であれば、選考で有利になる教育投資とは言えそうです。また、アメリカやカナダ、イギリスなど英語圏への留学だけではなく、最近は香港や台湾など中国語圏に正規留学して教育を受ける富裕層の子弟も珍しくありません。ちなみに、中国語圏のMBA教育の評価は世界的に急上昇しています。私のかつての職場であった某総合商社のMBA留学でも、アイビーリーグなどの伝統的ビジネススクールに加え、中国でトップとされる清華大学などへも社員を送っています。
加えて、一部の富裕層では、小学校・中学校レベルからスイスなど治安や生活環境の良好な海外で教育を受けさせる兆候が見えてきました。富裕層向けの「ファミリー・オフィス」サービスを提供する企業では、スイスの名門ボーディングスクールであるル・ロゼやブリアモンなどと提携して、子供向けの教育・留学支援を行っているところもあるようですね。世界で通用するアントレプレナーになるための素養を国内の教育で身に付けられない実態は、富裕層の子弟教育にとって大きな問題となりつつあるのです。