この秋のマーケットにおけるリスクの芽

「額歴」がぐんぐん上がる経済ホットレ
多くの投資家はとても直感的な判断を行うことがあります。株価が連騰していると異常に強気になり、一方で連日の下げを受ければただただ意気消沈するばかり。そうならないためにも日頃から今はさほど大きく取り上げられていないけれどいずれマーケットで話題の中心になるようなマーケットの芽を事前に把握しておく習慣を身に付けていれば不足の事態でもしっかりとした判断ができます。
2019.9.20

欧州リスク

9月12日に開かれた欧州中央銀行(ECB)の理事会で約3年半ぶりの金融緩和が決まりました。ECBのドラギ総裁は景気成長率と物価上昇率を回復させるためにECB内でも慎重論が多かった緩和的政策ですが回復を最優先し再開することを決断したようです。
さて、その政策の中心は、1)マイナス利下の深堀り、2)量的緩和政策の再開の2点です。また、これらの政策の継続については、具体的な期間を設けずに物価の達成が見込めるまで緩和を継続するものとして、内容的にはかなり市場フレンドリーなハト派だったとして市場は好感しました。
ちなみに欧州経済はというと経済成長率は19年は1.1%、20年は1.2%とかなり低成長です。また、物価上昇率は、19年が1.2%、20年が1.0%とこちらも低い上昇率でECBの目標である1%からは大きく乖離しています。現在の欧州経済っを一言でいえば、数字で明らかなように米中貿易戦争とブレグジットによる先行き不透明感で景況感が減速しスランプ状態だと言えます。つまり、今回の緩和策は正当な対策といえます。
さて、久々に炸裂したドラギマジックですが、株価市場は発表後上昇していることから好意的に捉えているようです。また、為替相場では教科書的な動きとしてユール安が進行しています。ECB理事会後のユーロは、対ドルで2年ぶり安値、円とスイス・フランに対しても同じく約2年ぶりの安値とユーロ安が進行しました。これは金利低下により他通貨との金利差が拡大したためであり今後もこのユーロ安の動向は継続する可能性が高いと市場関係者はみています。
このように市場ではおおむね歓迎ムードで迎えられたドラギマジックですが、ユーロ安についてはひやひやしながら見ている人がいます。FRB議長のパウエル氏はその一人ではないかと思います。今回、ECBの主目的は、ユーロ圏の物価安定と経済成長であり、少なくともユーロ安を進め輸出企業を支援することが第一の目的ではないことは間違いなさそうです。しかし、トランプ大統領がそのようにとらえてくれるでしょうか。以前もECBの政策に対してコメントしている通り、今回も「通貨安誘導だ!」と人差し指を立てつつ、興奮気味にコメントをいかにもしそうです。少なくとも今後ますますトランプ米大統領のドル安誘導への要求が高まることは間違いなさそうです。
その結果、今秋に2つの問題点が台頭する可能性があります。

1)米国市場に大幅な利下げが織り込まれすぎるリスク

当然ながら今後もトランプ大統領はパウエルFRB議長に大幅利下げを催促するでしょう。その結果、パウエル議長が利下げを行うであろうと金融緩和を前提とした強気相場が継続すればそこにリスクの芽が育つ可能性があります。9月のFOMCでは利下げを行うことはかなり織り込まれているものの、今後も継続的にトランプ大統領のリクエストに沿って大幅利下げを行っていく見通しは不確実です。このような思惑にバイアスがかかりすぎると市場予想に反したイベントが発生すると突然大きなショックが市場を襲うことは今までも多くりましたので、投資家にとっては今後はますます前触れのない株価の急落などに注意が必要といえそうです。

2)米国VSユーロのバトル再燃

ECBの緩和政策によりユーロ安のトレンドが継続した場合、米国がEUに対して関税などの報復措置を拡大する可能性があります。ユーロ圏に対してより攻撃的になれば、米中貿易戦争のみならず世界貿易大戦に広がる可能性があることに注意が必要です。

原油動向

原油動向に大きな影響を与える出来事が起こりました。9月15日にサウジアラビアの石油施設が攻撃を受け大規模な被害が出ています。現時点では首謀者や犯人は判明していませんが、今後、地政学リスクが最高潮に高まる可能性があり経済的にも大きな悪影響が及ぶことが懸念されています。だだし、現時点でははっきりとした情報は共有されていないので冷静に判断しましょう。
さて、この事件を受けて原油価格が急上昇しています。16日には国際的な指標として知られている北海ブレントの原油先物価格が1バレル71.95ドルと前週末より11.73ドル(19%)も上昇。同じく有名な指標である米国のWTIも1バレル63ドル台前半と先週末より15%上昇するなど原油価格が大幅に上昇し経済への悪影響が懸念されています。ちなみに原油の供給量が減ると需給関係が崩れ、需要が上回り価格が高騰するという流れです。
ところで、原油価格が上昇すると経済へのマイナスインパクトがあるのは広く知らていますが、私は現時点であまり注目されていないけれど、現在の環境を考えるといずれ注目されるリスクが2点あると考えています。それが以下の2点です。

1)原油高によりECBの政策が揺らぐ可能性

EU圏は原油輸入国で構成されています。原油価格が行き過ぎた高値になったとき、経済活動や企業業績に悪影響が及ぶ経済圏です。そのため、原油価格が高値になった場合、伝統的に緩やかなユーロ高を選好し原油の輸入コストを抑える政策を行ってきました。しかし、現在の金融政策は緩和政策。つまり潜在的にはユーロ安といえます。今のままではユーロ安が継続する可能性が高く、原油の輸入コスト増のマイナ
ス影響をもろに受けることになります。もしこのシナリオ通りになるといずれ金融緩和策の見直しを迫られる可能性があり、現在の緩和政策継続を前提とした強気相場にショックが走る可能性があります。

2)シェールオイル企業の株式やハイ・イールド社債の価格高騰

この事件を受けトランプ大統領は、今後も価格の高騰が続くようであれば戦略的備蓄を放出する可能性があると即日コメントを発表しました。だた、それでも今後も高値が長続きする可能性はあります。そうなると経済へのマイナス影響は懸念されつつも、一方でシェールオイル関連企業の株価や社債価格が上昇する可能性があります。それは、原油価格が上昇することでシェール関連企業の好業績が見込まれるからです。その結果、非エネルギー関連企業の業績は悪化するもののエネルギー関連企業の好業績と相殺されS&P500などは意外にも底堅く推移するかもしれません。しかしこれは、一時的である可能性に注意が必要です。長期的に見て原油価格の高騰は企業業績に悪影響を与えることは間違いなく、また、ハイイールド社債の価格高騰で各アセットクラスの益利回りに歪みが発生し、最終的にはすべての資産が適正価格から乖離した資産バブルを起こす可能性があります。

このようにリスクの芽を常に存在しています。リーマンショックや欧州危機などにもリスクの芽は存在していました。そしてそれは誰にでも知り得た情報に紛れていました。相場が強気になっているときこそリスク管理を徹底していきましょう。

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渋谷 豊

ファイナンシャルアカデミー総研代表 、ファイナンシャルアカデミー取締役

シティバンク、ソシエテ・ジェネラルのプライベートバンク部門で約13年に渡り富裕層向けサービスを経験し、独立系の資産運用会社で約2年間、資産運用業務に携わる。現在は、ファイナンシャルアカデミーで取締役を務める傍ら、富裕層向けサービスと海外勤務の経験などを活かした、グルーバル経済に関する分析・情報の発信や様々なコンサルティング・アドバイスを行っている。慶応義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。
ファイナンシャルアカデミーグループ総研 http://fagri.jp/
ファイナンシャルアカデミー http://www.f-academy.jp/

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