2019.4.25
年間約500校のペースで増えている「廃校」
「平成」は、子どもの数が減少し続けた時代でした。文部科学省によると、1989年(平成元年)に約960万人だった小学生は、2017年(平成29年)には約644万人に、約561万人だった中学生は約約333万人に減りました。それに伴い全国で学校の統廃合が進み、2002年度から2015年度までの14年間に全国で6811校が廃校になり、毎年約500校が新たに廃校になっています。2015年度までの14年間に廃校になって施設が現存する5,943校のうち75.9%は、すでに別の用途で活用されているか用途決定済みですが、残りの「用途未定」を1校でも減らそうと、文部科学省では2010年から「みんなの廃校」プロジェクトで廃校の建物の再活用支援を進めています。
廃校が何に生まれ変わるかというと、自治体自ら公民館、福祉施設、観光施設などに転用する他は、農産物加工場、製材所、水産加工場などの農林水産業関連施設への転用が目立ちますが、教室をそのまま利用して大学、短大、専門学校など「別の学校」への転用、製造業の工場や研究所などへの転用、IT関連企業のコールセンターやサテライトオフィスや研修施設への転用、民間の観光施設や宿泊施設への転用などもあります。
そして、起業家やスタートアップ企業にインキュベーション施設やシェアオフィスを格安で貸し、地域に新産業の種をまこうという試みも、全国各地で行われています。
世田谷区、愛知県新城市、高知県土佐町の例
廃校を起業支援施設に活用している例として、東京都世田谷区(大都市)、愛知県新城市(地方都市)、高知県土佐町(農山漁村)の3つのケースをご紹介します。いずれも光ファイバーケーブルなど、ビジネスに必要なインフラはほぼ整っています。
「世田谷ものづくり学校」
東急田園都市線池尻大橋駅(渋谷の隣駅)近く。廃校になった中学校の校舎を利用し、創業まもないクリエイターを対象に廉価なオフィスの提供、コワーキングスペースの設置など創業支援を行っています。元教室を、デザイン、建築、映像、食、アート、ファッションなど、さまざまな分野のクリエイターがオフィスとして活用しています。
https://setagaya-school.net/
新城市「つげのヴィレッジ」
新東名高速道路の浜松いなさICから13キロ、浜松駅から約30キロという立地です。廃校になった小学校の教室を一室ごとに区切り、オフィスや作業場として使用を希望する起業家への貸し出しを3年前から始めています。
https://www.iju-join.jp/cgi-bin/recruit.php/2/detail/562
土佐町「シェアオフィス相川」
高知空港から自動車で約1時間、四国の水がめ、早明浦ダム近くの山間部にある小学校の廃校跡。創業希望者やSOHO事業者にシェアオフィス、会議室の貸出を行っています。Webシステム開発、就農・移住支援、インターネットメディアの企業が入居しました。
http://www.town.tosa.kochi.jp/publics/index/298/
廃校利用の最大のメリットはやはり安さ?
「みんなの廃校」プロジェクトを推進する文部科学省は、廃校活用のメリットとして次のような点を挙げています。
<ハード面>
・教室ごとに間仕切られた空間は使い勝手がいい
・既存建物利用により設備投資を軽減できる
・大きいスペースを利用して高い生産性を確保
・既存施設を利用することで事業への早期着手が可能
・教室ごとに間仕切られた空間は使い勝手がいい
・既存建物利用により設備投資を軽減できる
・大きいスペースを利用して高い生産性を確保
・既存施設を利用することで事業への早期着手が可能
<ソフト面>
・静かな環境で業務効率化
・通勤時の混雑がない(地方)
・地区交流の重要な接点
・思い出の場所がよみがえることで地域の活気もよみがえる
・廃校という話題性、メディアからの注目
・静かな環境で業務効率化
・通勤時の混雑がない(地方)
・地区交流の重要な接点
・思い出の場所がよみがえることで地域の活気もよみがえる
・廃校という話題性、メディアからの注目
特に初期費用(イニシャルコスト)の安さは起業家、スタートアップ企業にとっては魅力的でしょう。たとえばご紹介した世田谷ものづくり学校は月額1万5,000円~、つげのヴィレッジは月額1万7,000円~、シェアオフィス相川は1教室あたり年額30万円~(1平方メートルあたり年額7,268円)となっています。
学校跡の廃校は、その地域の人たちにとっては愛着のある建物で、誰でもその場所を知っています。新産業の種をまいて雇用創出にもつながる期待のある創業・起業拠点としての利用を歓迎していない地域はほとんどありません。地元のサポートを受けながら育った大学発ならぬ「廃校発ベンチャー」が今後、日本で台頭してくるかもしれません。