2019.1.8
そんな彼が、知人の作家が書くならという事ではじめて投資について語った記録が本書『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』です。その中には「ジェイコム株誤発注事件」で瞬く間に6億円稼いだエピソード、ライブドアショックで5億円を失ったエピソードなど刺激的な話が並びますが、ただ自慢に終始する武勇伝本とは異なり、ある種クレイジーなcisという男性の人生観・投資哲学が形成されるまでを綴ったノンフィクションでもあります。
ではデイトレードに興味がある人はもちろん、cisさんのキャラクターに興味を持った人も楽しめる本書の中身に迫りたいと思います。
トレードとはお金の奪い合いゲーム!
本書はcisさんが相場においてどう考え、どう行動し、どう勝ってきたかについてまとめた本ですが、特筆すべきは彼が相場をゲームのひとつととらえて楽しんでいることです。詳しい内容は4章以降にまとめられていますが、彼は子供の頃、駄菓子屋の当たり付きお菓子を買うことで「期待値」を考えることに魅了され、以降ギャンブルやゲームに没頭します。
「ストリートファイターⅡ」でコマンド入力の動作と反射神経を鍛え、レベルを上げることの重要性や相手を知る事前準備の大切さをオンラインゲームで学んだのだそうです。ゲームを禁止するような教育熱心な家庭には耳が痛い話ですが、投資家cisの成功はゲームとギャンブルの存在無くしてあり得なかったのです。さて、相場をゲームとして見る彼の投資哲学とはいかなるものなのでしょうか?
上がり続ける株は上がり、下がり続ける株は下がる。
稀に例外もありますが、彼の株式購入のルールは拍子抜けするほどシンプル。「上がっている株を買い、下がっている株は買わない。そして買った株が下がったら売る。」というもの。株価が下がっているときに「そろそろ上がるはずだ」と踏んで購入することを「逆張り」と言いますが、それは「いずれ反転してバランスが取れるはず」という自分が勝手に抱いたイメージに当てはめようとしているだけのこと。今現在買われていることで株価は上がり、売られることで下がっているという明確な事実よりも優先すべきではないというのが彼の考えです。
実はトレーダーを始めた当初は彼もその原則に気が付かず、「少し下がったところで買いたい」「割安なタイミングで買いたい」と策を練っていましたが、負け続けてなけなしの資金を1000万円近く失ったそうです。しかし、ネットで出会った仲間と交流する中でルールを確立してからというもの、彼の投資は一気に上向いたのだといいます。
失敗を認めることから逃げてはならない!「損切り」の極意とは?
1,000円で買った株が900円や800円になり、1,000円に戻るのを期待して待っていると下がり続けて200円や100円になり爆死。デイトレーダーにとっては避けられない失敗ですが、cisさん曰く「株で一番大切なのは迅速な損切り。失敗から逃げてはダメで、失敗は当然としていかに最小にとどめるか。」
買ったのは間違いだったと自分の敗北を認めるのはツラい作業ですが、「損切り」の見極めを素早く行うことで彼は230億円という途方もない資産を築くことができたといいます。さらに彼が凄いのは、買った株が下がり損切りした後、あざ笑うかのように上がり出した場合、その株を「上昇株」とみなして買うという判断を平気で行えるところ。
自分が売った値段よりも高い値段で再び株を買おうというのは、「損切り」も間違いだったと2重で認める事。心理的にはかなり抵抗がありますが、相場の潮目に沿って売買するという原則に従うことを優先しているのです。
投資の会社を作らない理由!
資産230億円もあるなら投資の会社を作ればいいと言われることもあるcisさん。実は過去に一度だけ、大学の友人5人を雇って会社を立ち上げたことがあるのだそうです。「自身が株の売買を教えれば、半分ぐらいは億を稼げるのでは?」と考えての会社設立。
そして自身の理論を詰め込んだプリントを作っては講義して、いざスタートを切ったところ…なんと、同じように教えたはずの5人は全く異なる売買をしたのです。2年間やってみた結果、5人のうち1人は1千万円以上のプラス収支だったものの他の人はほぼ全滅。彼らに月々35万円の給料を払っていた分、約4200万円そっくりマイナスという散々な結末を迎えたのでした。
お金が絡むと人は合理的な判断をすることが難しくなり、本能が勝ってしまう。一筋縄ではいかない難しさに気づいたそうです。
私自身、当面はデイトレードに挑戦することはないと思いますが、合理的でクレイジーな面を持つcisさんの話は非常に魅力的でした。「230億円持っている人はどんな人生を歩んでいるのか?」そんな興味本位で読んでも満足できる一冊だと思います。