最近、ダイエットに関する記事、ダイエット効果を伝えるフィットネス企業のCM、食品CMなど見かけない日はありません。耳に残るCM、記憶に残るキーワードなど様々な手法で消費者の心を揺さぶります。季節的にダイエットを意識する人が多くなるこの時期ならでは毎年の恒例とも言えますが、海に行くわけでもないのに腰周りに浮き輪を常備している方、ひ弱な二の腕の骨を守るために肉厚にして蓄えている方などは、ダイエットという言葉には心に響く人は多いはずです。
さて、このように多くのCMを見かけるのは、人によく見られたいという他者承認欲求や、自分の理想通りになりたいという自己承認欲求などの人間の欲求に訴えた民間企業の営業戦略だけではありません。実は、国もダイエット=健康を促進しているということが深く関係しているということを皆さんはご存知でしょうか。
我が国の2012年度の国民医療費は39兆2000億円と6年連続で過去最高を記録しており、今後も増加の一途を辿ることがほぼ確実しされています。一説では、2025年には60兆円に達すると試算されており、維持が困難であることはだれの目にも明らかです。
政府はこのようは状況を受けて、つい先日2015年5月27日に「医療保険制度改革関連法」を参院本会議で賛成多数で可決・成立させました。目的は、高齢化で今後ますます運営が厳しくなる医療保険制度を持続させるために、入院中の食事代、大病院受診の定額負担など、患者の負担を増やし歳出を抑えるためのものです。
ただ、この医療保障制度改革関連法案だけでは、増え続ける国民医療費には焼け石に水状態です。そこで政府は、医科診療医療費の約3分の1(9.8兆円)にあたる生活習慣病関連の費用を削減することに着目しました。なんと生活習慣病由来の費用だけで約10兆円もあるのですね。政府と厚労省はこの費用を抑えるために、二つの作戦を実行してきました。
政府の第一作戦は、この4月に消費者庁の新たな政策としてスタートしました。「機能性表示制度」の開始です。この制度は、もともとは国民医療費の削減ための政策ではなく、安倍政権の成長戦略の一環として検討されスタートした制度でした。これまで食品について効果や機能を表示する制度は、特定保健用食品(特保)といわれている栄養機能食品だけに限られるものでした。皆さんは、“糖の吸収を穏やかにする”などの表記をご覧になったことがあるかと思います。これは特保の表記です。一方、新たな機能性表示制度は、企業にとって許可を得るまで莫大な時間と費用がかかるなどの高いハードルを取り除くもので、国の責任ではなく企業が科学的な根拠を基に自らの責任で食品機能を表示でき、商品の多様化や商品化までの時間短縮が期待できます。
特保との表記の違いは、“高い、低い、低下、上昇”などの程度を表現することはできませんが、“〜をサポートする”などの表記は許可されています。最近では、その制度を利用した“脂肪や糖の吸収を抑える効果のノンアルコールビール”など様々な機能を訴求した商品が出てきました。これだけの表記があれば、消費者が飛びつくには十分です。政府はこれで、企業の成長をサポートし法人税収増を狙いながら、同時に増え続ける生活習慣病の関連費用を減少させるという、一石二鳥の効果を狙っているようです。
政府の第二作戦は、健康増進・予防関連産業の育成です。2014年に開かれた経産省の協議会で「スポーツクラブでの運動指導」「自己採血による簡易検査」「通院患者への病院食の配食サービス」などを、医療の外に置いて、産業として育成していく方針を「中間とりまとめ」として出しています。ここでは、2020年度に向けた具体的な数値目標も設置されており、産業化関連の目標として、「健康増進・予防、生活支援関連産業の市場規模を2011年から2.5倍の10兆円」という壮大なものがあります。つまりフィットネスクラブなどの産業育成です。政府はこの産業育成で、健康な成人を増やし9.8兆円に及ぶ生活習慣病関連費用を大幅に削減したい狙いです。
このような政府肝いりのフィットネス産業であることから、様々な企業が熱視線を送り、各企業が勢いを増しているように思われます。
皆さんが最近気になるCMや健康食品にはこのような背景があるのですね。増え続ける医療費を抑えたい政府、増え続ける脂肪を減らしたい人々、この両者のニーズがバッチリ重なり、私の頭の中では例のCMが流れるのです。♪♪♪♪♪♪。当面この音楽と見事に鍛えられた腹筋が頭から離れそうにありません……。