ロジカルシンキングもポジティブシンキングも薄い知性だ

カルチャー
「人工知能に仕事を奪われる」「お金の常識が変わる」――。そんなニュースをみて、自分の生き方に不安や迷いを抱えている方も少なくないでしょう。そこで今回は、これからの社会で人生を切り開いていく武器となる、ある”力”について書かれた本を取り上げます。
2018.3.12
著者は、テレビのコメンテーターでもおなじみの齋藤孝氏。タイトルは『知性の磨き方』。そう、著者は本書で、”知性”こそ「現代社会を生き抜いて行く上で必要不可欠な力である」と述べているのです。
ところであなたは、「知性のある人」と聞いて、どのような人を思い浮かべるでしょうか。学生時代に勉強ができた人?そのなかでも論理思考が求められる、数学が得意だった人?それとも研究者や大学教授など、いわゆるインテリと呼ばれる職業の人でしょうか?
実は、どれも正解ではありません。なぜなら、ここで著者の言う知性とは、抽象的な問題だけでなく、日常生活やビジネス、そして社会も含めた、現実の複雑で困難な問題にも対処するための力だからです。

SNSで可視化される個人の知性レベル

原因を見極め、最善の選択肢を探り、解決に導くこと。著者は知性の働きをこのように語っています。
たとえば、人間関係や仕事上でのさまざまなトラブル。そこから生じるストレスからメンタルをコントロールするのも、知性の力です。
あるいはネット上に蔓延する玉石混交の情報や、冒頭に挙げたような、私たちの不安をあおるニュース。こうした情報に踊らされたり、操られたりしないために必要なのも知性です。
そして今や、個々人の知性のレベルは、ツイッターやフェイスブックなど、SNSのちょっとした投稿やコメントを通して、あからさまに公にされるようになっています。現代は、誰もが知性を求められる時代、といっても過言ではないでしょう。

検索やロジカルシンキングでは通用しない

なかには、「わからないことがあれば、ググれば良い」と考える人もいるかもしれません。しかし、知識と知性は別物です。しかも、ピンポイントの検索をいくら繰り返したところで、そこには知性を形づくる上で欠かせない、深さや厚みが生まれません。
また、ロジカルシンキングやポジティブシンキングについても、著者は「薄い知性」と呼んで一蹴します。
なぜなら、小手先の合理性や、世の中をポジティブなものだけで構成しようとする器の小さな思考では、一刻を争うような、”ここ一番”の判断には通用しないから。真の知性とは、ときに矛盾や清濁を併せ呑むような、タフでダイナミックなものなのです。
では一体、どのようにすれば私たちは知性を会得し、磨くことができるのでしょうか。

知性を磨く最善の方法

著者が推奨する方法は、本を丁寧に読むこと。といっても、本なら何でも良いという訳ではありません。
実際に知性を武器にして、困難な課題に取り組んだ人物が遺した本を読むこと。そして、その人物が、課題に対してどのように考え、どうのように行動したか追体験すること。それを繰り返すことによって、自分が困難に直面したときにも、彼らの経験を手本にしながら、自らの頭で考えられるようになるのだと著者は言います。
本書では、そのロールモデルとして、夏目漱石、福沢諭吉、西郷隆盛ら、近代日本の礎を築いた人物たちが、それぞれの人生や社会の困難に立ち向かっていったエピソードとともに紹介されています。注目すべきは、彼らほどの人物でさえ、一朝一夕にして知性を鍛えたわけではないということです。

馬ではなく、牛になる

留学先のロンドンの下宿部屋で、精神に変調をきたしながら、膨大な英語文献と格闘した夏目漱石。島流しされた沖永良部島で、肉体と魂に刻みつけるように儒学書を読み込んだ西郷隆盛。後に偉業を為す彼らには、人知れず、読書と思索に没頭した時代があったのです。
夏目漱石は死の直前、弟子の芥川龍之介と久米正雄に宛てた手紙で、次のようなアドバイスを贈っています。
「牛になる事はどうしても必要です。われわれはとかく馬になりたがるが、牛にはなかなかなりきれないです。(…)根気ずくでお出なさい。世の中は根気の前に頭を下げる事を知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えてくれません。」(齋藤孝『知性の磨き方』53ページより)
馬の軽快さではなく、牛のように根気強く悪戦苦闘すること。お手軽なノウハウが溢れている現代だからこそ、肝に銘じておきたい言葉です。