アマゾン社ニューヨーク進出断念 地元民・政治家の反対理由は?

経済

なぜ、米アマゾン社は第2本社にニューヨークを選び、そして、3カ月後その計画を撤回することになったのか。資本主義の象徴、米アマゾン対ニューヨーク労働者階級層の戦いは、アメリカの政治、経済、社会問題、それぞれの現状の縮図として全米で注目の的となりました。

2019.3.6

アマゾンの目的は優秀な人材の確保

米アマゾン社は2017年の秋にシアトル本社の他に「第2本社」を設立する計画を発表しました。 「第2本社」の設立では50,000人の雇用を提供し、約50億ドルの建設費を投入することで地域経済活性への貢献となることから、見返りに税控除やその他優遇措置を求めました。
約1年間、238都市で誘致合戦が繰り広げられましたが、2018年の秋に1か所ではなく、ニューヨーク市ロングアイランドシティーとワシントン近郊のアーリントンの2か所に分けて設立するとしました。 結局、経済活性が本当に必要な都市ではなく、優秀人材を確保しやすい大都市を選んだのです。 ところが、2月14日、アマゾンはニューヨークでの設立計画を撤回すると発表しました。
ニューヨーク州知事のクオモ氏、市長デブラシオ氏をはじめ、70%のニューヨーク市民がアマゾンの計画を歓迎しているにも関わらず、ロングアイランドシティの地元の住民や議員から猛反対されてしまったのです。

アマゾンが生活格差を悪化させる可能性

注目すべき地元の反対理由は、アマゾンの設立によりロングアイランドシティでここ数年問題となっている「Gentrification(ジェントリフィケーション)」が悪化してしまうという点です。 ロングアイランドシティは昔から、移民や労働者階級が多いのですが、ブルックリン同様、マンハッタンから近いと言うことで、急激に高級化が進められています。
日本のバブル期の地上げのように、家賃も上がり、昔から住んでいる人々は物価上昇についていけず引っ越す羽目になるGentrificationという現象が起こっているのです。 この現象は大手企業の設立や都市部の高級化よって起こっている世界的な社会問題の1つでもあります。
今回アマゾンは第2本社で新たに雇用する社員の平均年収は約15万ドル(約1,650万円)と公言しており、この給料から考えれば、いくら25,000人の雇用が提供されるとは言え、比較的教育水準の低い地元の人々にとっては縁のない話です。
それどころか新たに雇用されるアッパーミドルクラスが移住してくることで、物価が上昇し地元労働者階級の生活が益々苦しくなってしまうことが懸念されます。

社会主義ブームが超資本主義に勝つ

今回の反対運動のリーダーは、クイーンズを地元とする最年少の民主党女性下院議員のアレクサンドリア・オカシオ・コルテス(略してAOC)です。
2016年大統領予備選で民主社会主義者のバーニー・サンダーがミレニアルズから絶大な人気を集めて以来、アメリカのミレニアルズの間で資本主義に疑問を持ち、社会主義への関心が高まっています。29歳のAOCは民主社会主義の台頭を象徴する今最も注目されている政治家です。
アマゾンは物流センターでの過酷な労働環境が世界的に問題視されているため、世間の風当たりも強く、特にAOCのような民主社会主義者にとっては許しがたい敵となっています。 アマゾン側も、ニューヨーク市内にある物流センターの労働組合の結成を断固として認めず、地元市民に対しても歩み寄ることもしませんでした。
そんなアマゾンの高飛車な態度が益々溝を深めることなり、高利益を上げているアマゾンが30億ドルもの税控除を受けるなど、欲が深すぎる、他に使い道はあるという反対側の言い分が勢力を増す社会主義傾向に合わせる地元民主党議員たちからも支持をうけ、結局アマゾンは計画を撤回したのです。
しかし、クオモ知事は同じ民主党であるもののAOCらを「進歩派」と呼び、この結果を「自分の政治人生の中で最悪の悲劇だ」といい、「30億ドルの税控除はギフトなんかではなく、やがて約270億ドルが市の税収入として戻ってくる」「何と無知なんだ!」と厳しい批判の声を上げました(ニューヨーク・タイムズ)。
一方、同じく民主党のデブラシオ市長は、当初アマゾンを歓迎していたものの、突然、アマゾンの撤退は「1%(金持ち)が全てをコントロールしようとする一例だった」と、アマゾンを非難しました。しかし、彼の豹変ぶりには、2020年の大統領選挙戦を考慮しているのではないかという見方もあるようです(ニューヨーク・タイムズ)。
今回の結果については賛否両論です。確かに、ニューヨーク市全体の長期的な経済効果を考えれば、大きな損失だったと言えるでしょう。しかし、この経済効果の恩恵を受けられるのはミドルクラス以上であり、恩恵どころか被害を受けるのは結局は貧困層になってしまうのだというのが、「進歩派」の考えなのでしょう。
参考記事:
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