2017年10月15日 更新

「物事は両面から見ることが大切だ」第8章[第15話]

元銀行員の男が起業をして、一時は成功の夢をつかみかけたが失敗する。男はなぜ自分が失敗したのか、その理由を、ジョーカーと名乗る怪しげな老人から教わっていく。"ファイナンシャルアカデミー代表"泉正人が贈る、お金と人間の再生の物語。

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2017.10.6
 近くにある大きな会社が終業したのだろうか。一斉に僕らの前を通り過ぎて、駅に向かう一団があった。もう街は暗かったので、どんな人間も黒く見えるが、彼らは全員が地味な色合いのスーツを着ていたので、さしずめ黒スーツ軍団という印象だった。だけど、それぞれに帰る家があり、家族があるということを想像したら、また印象も変わる。
 小学生くらいの女の子が母親に連れられて、デパートから出てくると、新しく買ってもらったスカートがよほど嬉しいのか、広場の近くで、何回も身体を回転させて、スカートがひらひらと風に遊ぶ様子を楽しんでいる。母親もその姿を見て満足気だが、先を急ぐのか、彼女の手を引いてさっさと行ってしまった。
 僕は、視界から彼女がいなくなると、すこし寂しく感じた。彼女が近くにいる間、つい話を中断していたが、何も言わずに黙っているところをみると、老人も同じ気持ちだったようだ。僕らは彼女がいた余韻を感じたまま、話を再開した。
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「僕の心は半分決まったと言いましたが、やはり心配は家族のことでした。 
 すでに七年前に結婚をしていて、ひとり娘もいました」
「家族を支えていたのは君の稼ぎだったんだろう」
「はい、妻は出産と同時に仕事もやめて、専業主婦をしていました。子どもが成長したら、仕事に復帰してもよかったんですが、娘の身体が弱くて……娘の面倒を見るために家にいました。万が一でも失敗をして、彼女たちを路頭に迷わせるわけにはいきません。だから、銀行を退行することに躊躇したのです」
「まあ、それは考え方ひとつだろう。銀行そのものは安定しているかもしれないが、 銀行員が安定した職業ではないことは、知っているよ。
 男の場合は、家族がいるから頑張れる。銀行員じゃなくなったとしても、君の頑張りひとつで何とかなるもんだ」
「でも、家族の負担が増えるのはやはり心配だったので、僕は大谷に条件を出したのです」
「どんな、条件を出したんだい?」
「無借金で始めること、です」
「無借金で始めるには、自己資金を相当額出し合ったということだね」
「はい、五〇〇万円ずつ、出し合いました」
 老人は、こめかみのあたりを掻きながら、すこし時間を置いた後、言葉を選んで僕にこう言った。
「では、君は無借金で始めれば、安心だと思ってたんだね。そうはうまくいかなかったようだが」
「………」
「借金というのは、ほんとうに不思議なものでね。人によっては、どんどんした方がいいと言う人もいるし、借金そのものを毛嫌いする人もいる。でも、

会社がつぶれたり、個人が自己破産する原因は借金だと思われているが、

実際は手元にお金がなくなることが原因だ

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 これは経営をしている人間にとっては当たり前のことなんだが、一般の人間は、借金のせいにして思考停止してしまう。借金をしたのがそもそも悪いんだ、と考えてしまう。だが、借金のおかげで倒産することを免れてる会社も山のようにある。
日本人は借金を嫌うあまり、お金の性質について学ぶ機会を失っている。借金ほどいい教材はないのにな」
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泉 正人 泉 正人
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