〈堀古英司〉「リスクを取った人にお金が降ってくる」。アメリカ金融界で20年以上戦ってきた男の結論

インタビュー

「お金とは、努力とリスクテイクの結晶。(堀古英司)」

ホリコ・キャピタル・マネジメントLLC最高運用責任者。ニューヨークに住み、生き馬の目を抜くと言われるアメリカの金融界でヘッジファンドのファンドマネジャーとして活躍し続けている。堀古が肌身に感じた、アメリカ人の金融感覚とは。

アメリカ金融のルーツはユダヤにあった

日本人とアメリカ人の「お金の捉え方、考え方」になぜここまで差がついてしまったのかというお話からしたいと思います。日本にはそれほど宗教はないといわれていますが、もともとは儒教の影響を受けて、「士農工商」という制度があったとされ、そのなかで商売人は一番下でした。当時はそもそも、「金融」に関して世間の見る目もそれほど良くないし、金融に対する教育もされていませんでした。

アメリカも例外ではありません。アメリカにはキリスト教徒が圧倒的に多いですが、中世キリスト教では人にお金を貸して儲ける「金融」を禁じていました。ニューヨークはいま世界の金融の中心ですが、なぜここまで金融が育ってきたかというと、この地で「金融」を仕事にしたユダヤの人がいたからです。

当時のユダヤ人たちは迫害を受けていたため、「金融」で生きていくしかなかった。だから、ゴールドマン・サックスとか、ソロモンブラザーズとか、ウォール街の一流の銀行や証券会社のツールは、ユダヤ系が多いんです。

日本では、人前でお金のことを話すことはすごく下品なことと思われてきましたが、これはアメリカでも同じなんです。

資本主義が優れたシステムである理由

いま世界を見渡してみると、世界経済のシステムは8割がた資本主義です。日本は非常に社会主義的の色彩が強い資本主義です。フランスはもっと社会主義の側面が強い。先進国の中ではアメリカが一番純粋な資本主義に近いといっていいでしょう。

何でいま資本主義が世界の大勢を占めてきているかというと、資本主義というシステムが一番、人間の生活水準を上げるのに優れているからです。なぜかというと、たくさんの人が集まって生活して経済が繁栄するには、まず治安が維持されていないといけない。皆さんが生きていくにあたって、いきなり殺されたり、物を盗られたり、ということがないようにしないといけない。ですから、まず国防は国が発展するための大前提です。それから、警察・治安のシステム。そして、外交や国や市役所などでやっている事務も必要です。教育や医療も必要ですね。

ところが、日本はここしばらく、ほとんど経済成長をしていない状態です。財政赤字も大きくなっています。国民が資本主義の中で生きていくにあたって、必要最低限な公的サービスとベネフィットを維持していくためには、経済成長も必要ですし、生まれた果実の中から税金を払っていかないと成り立たなくなってしまいます。

空からお金が降ってくる法則

世界経済を見渡すと、あることが得意な国があれば、それが不得意な国もあります。土地が余っている国なら農業が得意だし、日本みたいに製造業が得意な国や産油国もあり、それぞれが自分の得意分野に特化し、分業することで国際経済が成り立っているわけです。

そして、こういった分業がなぜ成り立つかというと、貨幣(お金)があって、それを仲介にして、交換が成り立っているからです。それぞれが自分の得意なところを活かして、それをお金に交換していくというのが経済の基本的な流れなのです。

では、この資本主義のシステムの中で、どういう人のところにお金が降ってくるのでしょうか。今までの経験から、次の2つのことをやっている人のところに、お金は空から降ってくる法則があると感じています。

人がやりたがらないこと、できないことを探す

それは何かというと、まず第1に、人がやりたがらないこと、人ができないことをやることです。

人間は弱いものです。しんどい時は働きたくないし、できればサボりたい。でも、そんなことをしていたら、お金は生まれません。資本主義では、頑張った人・努力した人のところにお金が行くようになっているのです。アメリカがその象徴です。頑張った人・努力した人、経済の発展に貢献するようなものを発明した人、そういう人のところに莫大なお金が流れるシステムになっています。

よく「自分のやりたいことをやれ」と「好きなことをやれ」という人がいますが、私は全く反対です。やりたいこと、好きなことというのはかなりの確率で他の人にもできるので、結果、競争相手は非常に多くなります。ですから、「人がやりたがらないこと」とか「人ができないこと」を見つけていただきたいです。

リスクを取った人に、お金が降ってくる

第2に挙げられるのは、「リスクをとった人に、お金が降ってくる」ということです。

金融機関が利益を得られるのは、リスクを取っているからです。皆さん、銀行に預金していると思いますが、銀行が融資をしている相手先が潰れたからといって、皆さんの預金がなくなることは通常ありません。ということは、金融機関が保険のような役割を果たし、リスクを取ってくれているわけです。だから安心して貯蓄ができる。

あと、株主ですね。日本では株主の重要性がほとんど理解されてないといつも悲しくなります。リーマン・ショックの後、日本の株価は3分の1ほどになりました。では、誰があの時リスクを取ったのかというと、株主です。もし、株主資本が全部尽きて会社が清算されてしまったら、従業員も全員解雇になったかもしれません。そこで株主がクッションの役割を果たしてくれたから、従業員は解雇にならなかったし、金融システムも保たれた。株主の役割というのは、少なくともアメリカではそのように認識されています。資本主義社会において、株主というのはリスクを負うという非常に重要な役割を果たしているんです。

人は誰しもリスクを取ることを嫌う

保険会社もそうです。自分に何かあったときに子どもが困らないようにと生命保険に入って保険料を払い、何かあった時には保険金が下ります。このシステムがあるから、保険料を払うことでいろいろなリスクがカバーされているわけですよね。もし保険というシステムがなかったら、何千万円というお金を日頃からとっておかなければならなくなります。当然、消費に使うお金がなくなってしまいます。

世の中の景気がドーンと落ち込むのは、「リセッション」といって、消費が落ち込み、貯蓄率が上がったときです。リーマン・ショックの時に、AIGという世界最大の保険会社が潰れそうになりましたけど、まさにこのパターンです。世界中の人がこの世界最大の保険会社の保険に入って「安心」と思っていたけれど、潰れるかもしれないと思ったので一気に貯蓄率が上がり、消費がされなくなり、世界中がマイナス成長になったわけです。

人は誰しもリスクを取ることを嫌います。当然、十分なご褒美をもらえないと、リスクはとらない。生命保険会社であったら、「人間が死ぬ」という100%起こることに対して保険金を支払うわけですから、必ずそのリスクに見合う以上の保険料を報酬としてもらっているはずです。でないと、ビジネスとして成立しません。

株主も同じです。リスクを取って投資するのは怖いけれど、そのリスクを我慢することによって、例えば、リーマン・ショックを経てもし今まで待っていたら、株価は3倍程度になっているわけです。

「人間は弱いものだからこそ、努力した者、頑張った人のところにお金がいく」。そして、「リスクを取った人のところにお金がいく」。アメリカの長者番付のトップクラスに出てくる人たちはこの二つを理解し、必ずやっているんです。

お金とは、努力とリスクテイクの結晶。(堀古英司)

堀古英司さん

ホリコ・キャピタル・マネジメントL L C 最高運用責任者

東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)為替資金部ドル・円ディーラー、部長代理、同ニューヨーク支店バイス・プレジデントを歴任した後、ニューヨークにてファンドマネジャーとしてヘッジファンドの運用に携わる。関西学院大学経済学部卒、ニューヨーク大学大学院(ビジネススクール)にて金融を専攻、経営学修士(MBA)。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」をはじめ、テレビやラジオに多数出演。著書に『リスクを取らないリスク』(クロスメディア・パブリッシング)。

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