2023年12月28日 更新

【原油先物大暴落】目を背けず波乱相場の中からヒントを探す

2月下旬から激しさを増す投資環境。長らく強気相場が継続していたことからすきを突かれたと感じた投資家も多かったはずです。だからこそダメージも大きいはず。しかも、質の悪いメディアはこの波乱相場をできるだけドラマ仕立てにしてあおりますが、投資家たるものここは冷静にfactfulnessで判断すべきです。市場がザワついている時こそヒントを冷静に探り備えることが大切です。

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2020.3.9

原油価格にヒントあり

この波乱相場でなくても常に投資において大きな影響を与えている原油価格ですが、今回の波乱相場の中でスクスクと芽生えているのが原油安リスクです。当面はWTIのNY原油先物価格動向に注意を払うことが肝心です。
先日、3月6日にOPECと非加盟国、いわゆるOPECプラスの会合が開かれましたが、残念ながら決裂となりました。目指していた合意内容は、日量150万バレルの追加減産。2018年1月以降、原油価格の安定を目指し協調減産を続けてきましたが、今回の原油価格の下落したことからさらに追加でOPEC加盟国が100万バレル、OPEC非加盟国が50万バレルの減産合意を目指していました。
しかし、ロシアを交えたOPECとの事前協議がやけに長引いていたことから、もしや決裂かといった憶測が流れていましたが、今年に入ってからの原油価格が大幅下落していたため最終的には減産合意に至るものと期待的な観測が流れていました。
しかしながら、蓋を開けてみるとOPECと非加盟国の思惑の相違から一転して決裂。そう来たかぁと市場関係者の声が聞こえてきそうです。この結果を受け3月6日のNYの原油先物価格は大幅下落。今後、供給過剰が継続するとの見通しから1バレル当たりで前日比4.62ドル安の41.28ドル、なんと約10%程度急落しました。
今回、新型コロナウイルスの震源地である中国の経済活動が急減速し、現在は日本を始め世界各国まで経済活動の減速懸念が台頭しています。そのため、需給バランスが崩れ原油価格が下がりやすい状況でした。あるシンクタンクのレポートによると、中国での新型コロナの終息が6月まで続くとするとすると日量300万バレルもの需要が喪失されるとありました。中国だけで300万バレルの需要減少ということは、OPECが仮に今回合意しても供給過多のなることは明らかでした。
それでも、原産大国のロシアは追加減産に対してこの会合前から難色を示していまし波乱含みでした。懸念通りにロシアは最後まで追加減産に対して首を縦に振りませんでした。しかも、最悪なことに3月末までを期限としていた現在の協調減産体制も延長しないことになり、2018年1月からの約2年間に渡る協調減産体制までもが解消される見通しになりました。ロシア側は即座に、4月1日からOPEC加盟国、非加盟国はともに何の制限も受けないとコメントし、増産に色気を見せています。つまり、今後は各国が独自の判断で生産量を決定する状況になることが決まった瞬間でした。
原産国は自分の利益確保を最優先します。まさに、自国ファースト。トランプ大統領並です。そのため、すでに色々な憶測が流れはじめています。一部報道によると、ロシアと合意に至らなかった原産国の盟主であるサウジアラビアは、ロシアとの対決色を強め4月1日以降に日量1,000万バレルを上回る増産を早速計画しているとされています(この情報は一次情報ではありませんが、今後に大きな影響力を持つことから把握しておくべき内容だと思います)。
さらに状況次第では、過去最大の日量1200万バレルまで増やすことも検討しているということです。つまり、サウジアラビアは、減産どころか4月に現行の日量約970万バレルから1,000万バレルまで増産し、状況次第では1,200万バレルまで増やすという怒りの強硬策を検討しているというものです。
足並みの乱れた今、どの国もが増産体制に踏み切る可能性があります。

ただでさえ新型コロナウイルスの影響による原油需要の減少で原油価格が大幅に下る見通しが、サウジの増産強硬策を号砲に増産競争となり原油価格がさらに下がる可能性があります。

原油価格低下はマイナスのスパイラルへの誘い

では、原油価格が下がるとどのような影響があるのでしょうか。原油価格の低下は、原材料費のコスト低下につながるメリットもありますが、今回の原油価格の低下は株価を押し下げる可能性の方が強そうです。

1つ目が、サウジアラビアを筆頭にした世界各国のソブリン・ウエルス・ファンドが原油価格の下落、つまり原油売却による収益減により、ファンド内の資産売却を急速に進めることが懸念されます。
世界のソブリン・ウエルス・ファンドの資産規模を合計すると数百兆円にのぼり、しかもその多くがエネルギーを主たる収益源とするファンドです。そのファンドは、世界中に投資対象を広げており、もちろんその中には多くの株式が含まれています。日本へももれなく投資資金が流入してきています。さて、この原油価格の下落による収入源をカバーするために、ファンドは致し方なく株式などを売却し資金を確保します。特にサウジアラビアは原油価格が70ドルを下回ると財政収入が赤字になり、その赤字を埋めるために株価の売り圧力は強まります。その売却により、株価のボラティリティが高まり、さらにはリスクパリティの均衡が崩れにボラティリティの高い株式がさらに売却されるというスパイラルに突入するリスクが懸念されます。これが1つ目の株価に対するマイナス要因です。
2つ目は、米国のシェールオイル企業について懸念が台頭する可能性があることです。約6年前の2014年にも原油安が起こりましたが、その原油安は、今回と同じようにOPECが意図的に行ったものでした。その時のOPECの目的は、原油価格を安く誘導し、米国が原産国として台頭することを阻止することでした。作戦としては、シェールオイルの損益分岐点を下回るまで原油価格を下げることで、シェール企業を破綻に追い込むことです(諸説ありますが)。そして、米国の原油生産を断念させこれからもOPECが主導権を握ることを目指していました。当時は、米国のシェール企業もかなり苦境に立たされましたが、それと同じぐらいOPEC加盟国も収入源で苦しむことになり、16年3月には26.05ドルまで原油相場は急落したところでお互いにギブアップ。痛み分けとなりました。
しかし、今回、大きく原油価格が下がるようであればシェール企業のデフォルト懸念による金融市場の混乱が懸念されるかもしれません。シェール企業は、概ね信用格付が低くハイイールド社債を大量に発行し資金調達を行い採掘をすすめています。このハイイールド債券は、クレジット(信用)リスクが安定していれば投資家が資金を投入してくれますが、信用リスクが一転して低下し始めると投資家離れは急激に進みます。さらに、デフォルト懸念が他方にも大きな影響を与えることでリスクオフが進みます。それによりリスク回避によるマイナスのスパイラルに突入する可能性があります。しかも、このクレジットに関する不安が引き金となり今まで新型コロナに対する景気減速不安が信用不安へと性質を変えることから大変懸念すべきことです。

FRBの緊急利下げの真相は

ところで、3月3日の行われたFRBの金融利下げは、新型コロナによる景気減速に対する策ではなく、クレジット市場におけるスプレッドの拡大(国債のイールドとハイイールド債券のイールド)が徐々に生じており、デフォルトリスクの上昇から資金流失するようなクレジットリスクに対する予備策と見るアナリストが増えています。
今後、原油価格は50ドルを大きく下回る低空飛行を続けた場合、このような2つのリスクが台頭する可能性が高まります。しかも、この原油下落リスクは、財政政策や金融政策ではコントロール難しく、しかも米国の介入でどうにかなりにくい世界です。さらに、今回の新型コロナの問題点は、経済活動の自粛が求められる需要抑制型のケースです。財政出動や金融緩和が効果を発揮しやすいのは需要を喚起する局面とは全く異なります。自粛は、需要を抑えることになるため政策期待が徐々に剥落していることが市場の不安心理を煽ります。

今回の波乱相場が4月以降の1〜3月期の企業業績するまでは少し落ち着くと思い始めた市場は、今回のOPECプラスの決裂でクレジット市場、株式の需給調整の波乱要因を3月以降抱えてしまいました。逆に原油価格の安定してくればプラス材料です。でも、なんとなくまだまだ気を抜けない日が続きそうな気がしますが。
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渋谷 豊 渋谷 豊
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