〈植松 努〉前編「やったことがないこと」へのチャレンジを繰り返せば、お金を超える価値がたまっていく

インタビュー

北海道・赤平町で世界最先端の宇宙ロケット開発事業を行い、「NASAよりも宇宙に近い町工場」と呼ばれる植松電機の代表取締役社長、植松努さん。2017年2月5日に開催された「お金の教養フェスティバル2017」の講演から、熱いメッセージを贈ります。

ロケットを買えるお金はなくても、自分で作ることは自由だ

僕は今、北海道・赤平町にある植松電機という会社を経営しています。僕は小さい頃から飛行機やロケットが大好きでした。好きになったきっかけは、僕が大好きだったじいちゃんでした。

僕が3歳の頃、アメリカのアポロ宇宙船が月に着陸したニュースがテレビで流れました。僕はその映像は覚えていませんが、隣で一緒に見ていたじいちゃんが大喜びする笑顔は忘れません。その笑顔がまた見たくて、本屋さんで飛行機やロケットの本を手に取ったら、じいちゃんが喜んで頭を撫でてくれました。嬉しくてそんなことを繰り返しているうちに、本当に心から飛行機やロケットが好きになって、50歳になった今、ロケットを作って宇宙に飛ばしています。

僕は自分でロケットを買えるほどのお金は持っていません。でも、ロケットを作ることはできるし、いつでも作っていい自由を持っています。

「一瞬で消えるお金より、知恵と経験を貯めなさい」という教え

僕はお金とは自分の中にたまったパワーを形に変えたものだと思っています。お金を稼ぐことそのものを目的だとは考えていません。なぜならお金の価値は一瞬にして消える危うさを持っているからです。

そのことを実体験として聞かせてくれたのはばあちゃんでした。戦前の樺太で自動車の会社を作って成功し、豊かに暮らしていたという僕のばあちゃんですが、1945年の旧ソビエト軍侵攻によって突然、住み慣れた地が「サハリン」と呼ばれるようになり、一生懸命貯金したはずのお金がすべて紙屑になったそうです。「いいか。お金は貯めたって一晩で消えることがある。貯金などせずに、自分の知恵と経験になるように使って体の中にためなさい」と小さな僕に教えてくれました。この言葉が、僕のお金に対する価値観のベースを作ったと思います。

以来、僕は自分に知恵をつけようと本屋さんに足繁く通うようになりました。そして出会った運命の一冊が『よく飛ぶ紙飛行機集』というもの。ハサミで切ってノリで貼って作るグライダーの型紙がたくさん載っている本で、夢中になって作りました。できあがった紙飛行機を試しに学校の体育館で飛ばしてみたら、一直線にスーッと飛んでいって向こうの壁に当たりました。びっくりしました。周りで見ていた友だちもびっくりしていました。

実は僕は子どもの頃から片方の目だけ視力が極端に悪く、距離がうまくつかめません。それが理由で球技がへたくそで体育の時間にはとてもコンプレックスを感じていました。「お前、すごいな!教えてくれよ」と友だちが寄ってきた時は、初めて人に頼ってもらえたことが嬉しくて、小さな自信がつきました。小さな自信は「好きなことをもっとやりたい」という気持ちをより高めて、僕は飛行機の設計についても本で勉強し、全部覚えてしまいました。ひっ算をすっ飛ばして電卓での計算方法を覚えてしまったので、学校の算数のテストでは0点をとりました。

紙飛行機の作り方なら100点を取れる自信がありましたが、ついぞそんな問題はテストに出ることなく、中学、高校時代は「赤点の帝王」と呼ばれました。周りの大人からはさんざん「くだらないことやっていないで、受験勉強しなさい」と言われましたが、やめなくて本当によかったと心から思います。運よく大学に合格した後、僕は試験のための勉強をする必要はなくなりました。大学で学べる内容はすでに自学で身につけていたことだったからです。

「好き」という気持ちがなければ、エジソンもイチローも生まれなかった

「好き」という気持ちは偉大です。好きなことのためならば、人はどこまでも頑張れる。どこまでも身につくし、覚えられるんです。好きという気持ちを大事にしたからエジソンは発明王になったし、イチローは日米を代表する野球選手になれたし、J・K・ローリングは『ハリーポッター』シリーズを生み出せたのでしょう。僕も、好きなことを諦めずに続けたから、宇宙に向けてロケットを飛ばせるようになりました。

人は好きなことなら努力できる。そして、共通話題があるから仲間が増える。仲間が増えたら力が増えて輪っかになり、輪っかが大きくなれば、可能性が大きくなるんです。そして、歴史に影響を与える何かを生み出すかもしれない。そんな素晴らしい可能性を、誰でも等しく持っていることを忘れてはいけないと思います。

そして、この素晴らしい可能性を誰も誰からも奪ってはいけないと思います。人の可能性を奪う最たる悪は殺人ですが、言葉でも人の可能性を奪うことは簡単にできます。とても簡単な短い言葉です。「どうせ無理」という言葉です。この言葉を受け入れた途端、人は思考停止に陥ります。何も考えなくていいし、何も努力しなくてよくなるから、めちゃめちゃラクになります。ラクになりますが、自信も可能性も失います。

どんなにすごい能力を備えている人でも、自信を失ってしまったら何もできない。「自分なんて」と思い詰めてしまったら、心が弱って生活保護を受ける人生にもなり兼ねない。能力を活かせないことは、社会にとっても本当にもったいない損失です。人は生きていくためには、どうしても自信が必要なんです。

迷う道にこそ進め。躊躇の先に大きな喜びが待っている

自信や可能性を身につける方法はただ一つ。「やったことがないことをやってみる」という経験だけです。好きなことを突き詰めて素直に「やってみたい」と思ったことを、どうやったら実現するか自分の頭で考えて、やってみる。やったことがないから不安も当然生まれますし、躊躇もするでしょう。でも、その躊躇の先に大きな喜びが待っています。お金では決して買えない大きな大きな喜びです。一生懸命開発したロケットを打ち上げて成功するたびに、僕はその喜びを噛みしめています。

やり方が分からない時には誰かに聞きたくなりますが、聞く相手を間違えてはいけません。「やったことがないことをやってみる」という経験がない人にアドバイスを求めても、「どうせ無理」と否定されるだけです。アドバイスの本来の意味とは、「add」、つまり、情報を「追加する」ものであるはずなのに、否定されてはそもそもアドバイスと言えません。アドバイスを受ける時は、自分でやりたいことを成し遂げたことのある経験者に聞くべきだと思います。

「1人の力ではとてもできない」という時には、ぜひ他の人を頼ってみてください。僕も昔はそうでしたが、日本では小さい頃からとかく「ちゃんとしなさい」と言われ続け、他人に迷惑をかけてはいけない、弱みを見せてはいけないという意識が先に働いてしまいます。でも、逆です。人は一人では足りないからこそ助け合うことができる。

僕のロケットを飛ばす夢を実現できたのは、北海道大学で安全なロケット開発の研究をしていた永田晴紀先生に悩みを打ち明け、頼る行動をしたからです。永田先生もまた、研究を進めるための機会を求めていました。僕と永田先生は足りない部分を補い合ったからこそ、夢を実現できたのです。社会や会社は、人と人が力を出し合って1人ではできないことを成し遂げるための場所なんだろうと僕は思っています。だからこそ、弱さや悩みはどんどん打ち明けたほうがいい。しゃべり続ければ、きっとわかってくれる人がいるし、一緒に考えてくれる人にきっと出会える。それが夢を実現する近道だと思います。

「お金とは、体の中に蓄積されているマンパワー。(植松 努)」

植松 努さん

株式会社植松電機 代表取締役、株式会社カムイスペースワークス 代表取締役

1966年北海道生まれ。北見工業大学応用機械工学科卒業後、菱友計算に入社し、航空機設計を手掛ける。94年に家業である植松電機に入社し、産業廃棄物の除鉄・選鉄に使う電磁石の開発に成功。2006年、カムイスペースワークスを設立し、代表取締役に就任。世界でも稀な安全性の高い燃料を使ったロケットを開発し、打ち上げに成功。JAXAをはじめとする国内外の機関との共同プロジェクトも多数行っている。著書に『思うは招く』(宝島社)など。

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