2019年11月14日 更新

厳しい船出のECB・ラガルド新体制

2019年10月31日をもってECB のマリオ・ドラギ総裁が退任しました。ドラギ総裁は8年間の任期において、マイナス金利や量的緩和といった政策を積極的に採用しました。その結果として、主要政策金利は1.5%から0%へ、中銀預金金利は0.75%からマイナス0.5%へと引き下げられ、ECBの保有資産は4.7兆ユーロへと2倍に膨れ上がりました。

2019年10月31日をもってECB のマリオ・ドラギ総裁が退任しました。ドラギ総裁は8年間の任期において、マイナス金利や量的緩和といった政策を積極的に採用しました。その結果として、主要政策金利は1.5%から0%へ、中銀預金金利は0.75%からマイナス0.5%へと引き下げられ、ECBの保有資産は4.7兆ユーロへと2倍に膨れ上がりました。

ドラギ総裁が退任。その功績と積み残し課題

ドラギ総裁の功績は2012年に欧州債務危機の封じ込めに成功したことですが、現状ではいくつかの大きな問題を抱えたままでいます。1つの問題は、2%の物価目標が依然として達成できていないということです。ECBは日銀と同様に、無謀ともいえる緩和の拡大を推し進めてきましたが、物価は意図したようには上がっていません。ECBの見通しによれば、2021年の物価は1.5%にとどまるとのことで、緩和が終わる見込みは立っていないのです。

2つめの問題は、足元では積極的な緩和策の副作用が目立ってきているということです。マイナス金利政策は金利水準を引き下げる効果を持っていますが、銀行の収益が悪化するのが避けられないため、銀行の融資基準がいっそう厳しくなり、ベンチャー企業などへの融資が難しくなってしまいます。現実に、欧州の主要銀行が今年に入って5万人規模のリストラを打ち出しているものの、それによって収益が継続的に改善する見込みは立っていません。

3つめの問題は、理事会でハト派とタカ派の相互不信がかつてないほど深まってしまったということです。9月の理事会ではドラギ総裁の反対派をねじふせる強引な手法によって、量的緩和の再開とマイナス金利の深掘りを決定することができたものの、これまでドラギ総裁に近かったフランス中銀のビルロワドガロー総裁が反対に回ったばかりか、ドイツ出身のラウテンシュレーガー専務理事が辞表を提出する事態にまで発展していたのです。

新総裁ラガルド氏は緩和路線を継続か

ドラギ総裁は最後の10月の理事会後の記者会見では、足元では景気の減速が進み、物価上昇率も低下気味な現状を受けて、「9月に決めた緩和の拡大策は正しい判断だった」と主張したうえで、「財政で余裕がある国がすぐに動くべきだ」という考えを改めて示しました。金融政策の限界が露呈しているなかで、ドイツなど財政が健全な国々に対して財政出動をするように再三にわたって促していたのです。

11月1日に新しく総裁に就任したラガルド元IMF専務理事は、ドラギ総裁が敷いた緩和路線を継続する方針のようです。しかし、マイナス金利の引き下げ余地が小さいのに加えて、再開する量的緩和も1年ほどで国債の買い入れ上限(各国の発行額の3分の1)に達してしまう可能性が高い状況にあります。おまけに、理事会が根深い対立を抱えたままでは、市場との対話も難しくなってしまうでしょう。

物価上昇2%という目標設定は妥当なのか?

ECBが緩和を推し進める背景には、日本の長期にわたったデフレがあります。今のECBの最大の課題は、低インフレを放置すれば物価は上がらないという見方が一般的になり、物価はさらに上がらなくなるという悪循環を避けたいということです。しかし、私の見解では、ECBの2%の物価目標は間違っています。国によって経済状況や人口構成が異なるのですから、米国と同じ2%の目標を設定する方針は改めるべきでしょう。

日本の低インフレ(またはデフレ)は1990年代から始まった少子化に伴う労働力人口の減少が主な原因であるので、出生率が2.0を軒並み割り込んで久しい欧州各国で2%を超えたインフレが進むことは考えられません。ドイツやフランスを中心に、好況か不況かを問わず、物価の伸びが縮小していくのは避けられない流れであるのです。ラガルド新体制は厳しい船出を迫られるなか、金融政策が限界を露わにする前に、財政の協力を引き出すのが最初の課題になっていくでしょう。

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