ブロックチェーンエンジニアの「未知なるもの」の学び方<赤澤直樹>

インタビュー

赤澤さんは26歳という若さで、文系ビジネスパーソンでもブロックチェーンプログラミングがゼロから学べると話題の『Pythonで動かして学ぶ!あたらしいブロックチェーンの教科書』を上梓しました。

赤澤さんは、高校では理系クラスを選択していたにも関わらず、大学ではフランス語学科を専攻、その一方でフリーランスエンジニアとしてAIやビッグデータ活用のプロジェクトに参画します。大学院では経営学の領域で研究を進めながら、エンジニアとして企業から様々な案件を受注していました。そして、今は講師としてブロックチェーンについて教鞭を執っています。自分なりの手法で新しい概念を習得するのが得意という「未知なるものの学び方」のプロフェッショナルともいうべき人物です。

興味があることはとにかく学んでみて実際に手を動かす

STAGE編集部:ブロックチェーンの論文は、英語で書かれてるんですよね?もともとは苦手だったという。

赤澤:そうですね、全部英語です。後で振り返ってみると、学んできた英語が生かされた場面でもありましたね。他にも、英語ができるようになっていたおかげで経験できたことは色々あって、GitHubという技術系のプラットフォームがあり、そこにブロックチェーン開発のソースコードが公開されているのですが、そこでは世界中の優秀な技術者がみんなで開発していたり、全て英語ではありますが「ここでこんなバグが起きました」みたいな議論が繰り広げられていて。その様子を見るのがすごく楽しいんです。NASAのプロジェクトチームのドキュメンタリーを観た時と同じような感動に似た気持ちが湧いてきました。

STAGE編集部:ちなみに、その当時ブロックチェーンの情報は世の中にあまりなかった時代だと思うのですが、どのように学んだのでしょう?

赤澤:たとえば、GitHubのソースコードを見て、何をやっているかというのを理解したり、推測したり。そこから真似て、自分なりにブロックチェーンを作ってみたり、マイニングしてみたり。そういうことを繰り返しやっていきました。最初は推理みたいなのが多かったと思います。「これがこうなっているということは、こう書いてみたらどうだろう?」とか。それで実際にプログラムを書いてみて検証していったという感じですね。このようなことを繰り返していくことで、概念で理解していた「前のブロックの内容を次のブロックに」ということがつまりはどういうことなのか、それが本当に体感できて理解できたと思います。それはすごく大きな前進でした。やっぱり「実際に手を動かす」がここでもポイントだったと思います。

高報酬であやしい仕事?「ブロックチェーンの教科書作ってくれる人募集!」

STAGE編集部:そうしてブロックチェーンに魅了され現在のお仕事に至る、という感じでしょうか?

赤澤:ところがそうでもなくて。当時、ブロックチェーンはもちろん興味の対象ではあったのですが、最初はそれを仕事にするとなるとあまり現実味がなくて。というのも、ブロックチェーンって言い換えればインフラであって道路工事のようなイメージなので、「様々な企業が自社のシステムをコスト、時間、労力をかけてまでインフラを取り替えるだろうか?」つまり、そんな仕事はないんじゃないかな、エンジニアや研究者の遊び道具かな、ぐらいに思っていたんです。そのような中、ブロックチェーン関連のプロジェクトをどっぷり3つほど経験してみると、各企業も真剣にブロックチェーン開発に取り組もうとしていることが分かってきて、時代も変わりつつあるということが肌で感じられるようにもなっていきました。

そしてある時、ブロックチェーン関連の仕事を探していたら「ブロックチェーンの教科書を作ってくれる人募集」という求人を見つけたんです。仕事内容もユニークだし、報酬もなかなか良くて(笑)それが今のFLOCブロックチェーン大学校との出会いでした。

応募をするために書類を出したら「一度オフィスでお会いしましょう」という返事が来て。住所を見ると東京で「広島東京間の交通費もお支払いします」ということだったので、「あ、これはちゃんとした会社だ」と安心して(笑)、観光がてら東京に行くことにしました。

ブロックチェーンスクールの講師として登壇!そして書籍の執筆!!

STAGE編集部:そこからは、ひたすらブロックチェーンの教科書を作る日々という感じでしょうか?

赤澤:まずは、その時点でできていた教科書を確認しながら、書いてある内容、ソースコードのブラッシュアップをしていくということをしていきました。ちなみに当初は、教科書づくりの仕事もしながら、フリーランスとして受けている他企業のプロジェクトも並行して進めていて、その他の案件が炎上したりと目まぐるしい日々だったのですが、そのような中で、今度はFLOC代表の泉から「赤澤さん、講師ってできますか?」と打診があり。発表なども苦手ではなかったので「できますよ」という返事をして、準備をして、講義をしました。すると受講生からの評判が良く「次回もお願いします」という話になり、教科書制作、講師と、カバー範囲はどんどん広がっていきました。

実はその頃はまだ広島にいて、気づけば毎週東京に移動する日々になっていたある日、「『あたらしい教科書』というシリーズで、ブロックチェーンをテーマに本を出す話があるのですが書きませんか?」という話が出てきて、執筆協力することが決まったという流れなんです。その後、自分の将来を見据える中で、東京に出てFLOCの事業に100%参画していくことを決意しました。

新しいものを学ぶ時のコツは「飛び込んで溺れてみる」そして「メタ化」

STAGE編集部:さて先日、初の執筆協力した著書『Pythonで動かして学ぶ!あたらしいブロックチェーンの教科書』を出されたばかりの赤澤さんですが、著書を拝見すると具体的なハウツー以外に「新しいものを学ぶ時のコツ」を様々な角度から伝えていらっしゃるなと感じました。そのコツについて、ぜひ詳しくお聞かせください。

赤澤:二つあると思っているのですが、一つは何度か話に出てきている「とにかくやってみること」、言いかえれば「飛び込んで溺れかけてみる」ことです。細かいところまでわかっていない、100%理解できていない、そういった状態だと不安になる人もいるかもしれません。でも飛び込んでみるんです(笑) 実際に手を動かしてみると知識のインプットだけでは理解できなかったことが「こういうことなのかも」と感覚的に理解できますし、習得のスピードが断然早いです。テクノロジーに限らずですが、今は様々な物事のアップデートのめちゃくちゃ早い時代です。全てを理解してから、ではなく、行動しながら理解していく、ということを肝に銘じる必要があると感じています。

新しいものを学ぶ時のコツのもう一つは「メタ化」です。「メタ化」とは事象を一歩引いて眺めて抽象化することです。言葉としては少し難しいかもしれませんが、自分が考える「メタ化」とは、対面している事象をちょっと俯瞰してみて、これってつまり〇〇だな、〇〇によく似ているな、と発想することだと思ってもらえれば良いです。たとえばブロックチェーンにP2P(Peer-to-peer)という技術があります。これは「対等な立場のネットワーク」なんですが、技術を単体で理解しようと思うとなかなか難解です。ですが、P2Pという技術は、そもそも人間が社会を作っていくプロセスを真似て作った技術なので、一人一人の人間が相互関係を作り、それがコミュニティに成長し、やがて社会となる……、みたいな感じで人間社会に置き換えて考えてみると圧倒的に理解しやすいんです。

特に新しいテクノロジーなどは無機質でとっつきにくいと思われることも多いですが、それを考えて作ってきたのは人間に他ならないわけです。どういう経緯があって、必要性があってそれが作られてきたのかという歴史や背景に目を向けてみると、理解は深まっていくと思います。自分の経験で言うと「メタ化」をする上で、文系理系両方を学んできたことがとても役に立っています。たとえば、理系の事象の理解に、社会学や哲学をあてはめてみるとか。「自分は理系だから理系の知識だけを深めるんだ」と限定しすぎることなく、色々な分野のことを学びながら、多角的に捉える力を養うことで、理解の奥行きは深まっていくと考えています。

STAGE編集部:最後に、インタビューを振り返って「未知なるものの学び方」またそのための生き方のヒントについてまとめるといかがでしょうか?

赤澤:これまで行動や選択するときに自分が大切にしてきたことについて、ポイントを絞ると5つかなと思います。

  1. 自分の可能性を自分で決めつけすぎない(人生どうなるかわからないからあえて文理融合)
  2. 苦手にあえて挑戦してみる(苦手な言語系を専攻したことで、可動領域が広がった)
  3. 一般的なものでもその方法が最善か一旦立ち止まって考えてみる(みんながやっているから飲食のアルバイトではなく、もう少し何か違った方法がないかを考えた)
  4. 実際にプールに入って溺れてみる(とにかく手を動かす。やってみて初めてわかることがたくさんある)
  5. 知識の幅を広げる(技術の話に社会学をあてはめてみたりすることで、単体で理解するより、理解は確実に深まる)

これらのポイントは、理系・文系、エンジニア・非エンジニア、老若男女問わず、日々意識できることかなと思います。自分のこれまでの人生が読者のみなさんのヒントになればうれしいです。

赤澤 直樹(Naoki Akazawa)

FLOCブロックチェーン大学校講師 ブロックチェーンエンジニア。 フリーランスとしてシステム開発やAI開発、データ解析に従事する中で分散システム、特にブロックチェーン技術の奥深さに魅了される。教育を通じて、共に活躍できるブロックチェーンエンジニアを輩出するべく、株式会社FLOCに参画。講師や各種執筆、中上級者向けの新規教育コンテンツ制作に加え、広島大学大学院博士課程後期で研究活動も行う。執筆協力に『Pythonで動かして学ぶ!あたらしいブロックチェーンの教科書』(翔泳社)

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