2017年12月20日 更新

〈小林慎太郎〉“ラブレター代筆”の仕事を通じて触れる、「誰か」の想いと、「誰か」の人生。

“ラブレター”という言葉すら聞くこともなくなった現代において、“ラブレター”の“代筆”という特異な仕事を行う一人の男性。彼のその仕事に対する想いと、彼のもとに寄せられる依頼内容や、そこにあるそれぞれのドラマについておうかがいしました。

2016.7.13

■特別なことはせずとも、「想いを伝える」ことで世界が変わった

「何で“ラブレター代筆”なんてしてるの?」
僕がこの仕事をしていることを伝えると、十人が十人そう尋ねる。正確に答えるのが難しいのと、気恥ずかしさもあり、大体「まあ……、なんとなくです」と答える。間違いではないけれど、正確でもない。もう少しちゃんとした理由がある。

根底にあるのは、他者に対して「想いを伝える」ことをしてこなかった過去の自分に対しての後悔と、「想いを伝えられなかった」過去の人たちに対してのお詫び。
ここでいう“想い”というのは、「ありがとう」「感謝してる」「好きだよ」など、色々なものを指す。

なぜ、想いを伝えてこなかったのか? 確固たる考えがあってのことではなく、ただ単に、あからさまに想いを口に出すのは何だかかっこ悪いと思っていただけのこと。当たり前のことだけれど、想いを口にしないものだから、自分のことを他者に理解してもらうことができず、人間関係も広がらず、殻にこもった日々を送っていた。

しかしながら、歳を重ねていくうちに、それでは駄目だと気付いた。
社会に出れば否が応にも自分の想いを伝えなくてはならない場面があるし、想いを伝えるべき相手が、いつまでも自分の目の前にいるわけではないことも知った。

そのことに気づいてからは、話したり、書いたりして、自分の想いをなるべく率直に伝えるようにした。そうしたら、世界が開けた。人間関係も変わり、目に映る景色も変わった。何か特別なことをしなくても、想いを伝えるだけで世界が変わることを知った。

ラブレターの代筆という仕事を通して、かつての自分のように、想いを伝えることに躊躇をしている人の後押しをしたい。それがこの仕事の根底にある想い。

■切実な想いと向き合う日々

ラブレター代筆を始めてみたものの、どんな依頼が来るのか想像もつかなかったし、そもそも、ラブレター代筆なんて依頼をして来る人いるのだろうか……、と我ながら疑っていた。
依頼が来るとしても、十代・二十代の若い女の子が、イケメン男子を落とすために何となくノリで依頼して来るのでは、と思っていた。

ただ、実際は違っていた。最初の依頼はホームページを立ち上げてから1カ月ほど経った頃。「文面は自分で考えるので字だけ書いてほしい」というものだった。自分が想定していた“代筆”とは異なったため面食らってしまったが、お話をうかがうと、身体が少し不自由なため字を上手に書くことができない。だから代わりに書いてほしい、ということだった。

依頼者から送られてきたとても短い文章を手紙に書き写しながら、「これでお金を頂いてしまっていいのだろうか……」と思うと同時に、「半端な気持ちでやってはいけない仕事かもな」と思った。

その後も、ぽつぽつと仕事の依頼はあった。
思った通り、半端な気持ちではできないことがすぐにわかった。
依頼者は皆、切実な状況の中で、切実な想いを抱えている方ばかりだった。
ラブレターを渡すことで、離婚をした奥様との復縁を実現させたい、という依頼。奥様を亡くされ失意の日々を過ごしていた中、コンビニで働く女性の明るさに救われ、感謝の想いをラブレターを通して伝えたいという七十代の男性。重病を患われた奥様への感謝とお詫びの手紙。数年前にフラれ、今でも想いを断ち切ることができない彼氏への手紙。不遇な日々を過ごす自分を励ますための、自分自身への手紙。

「告白」「謝罪」「感謝」。そこには、様々な形のラブレターがあり、様々な形のドラマがある。

伝えずにはいられない強い想いの裏側には、吐き出さずにはいられない強い悲しさがある。この仕事を通して、僕は学んだ。

■この仕事が、今の僕にできる、最大限のこと

代筆をしている僕が言うことではないかもしれないけれど、代筆という作業自体は、この仕事においてそこまで大きな価値ではないと思っている。

僕は、依頼者が東京近郊にお住まいの場合は、基本、直接お会いして、ラブレターに込めたい想いやその背景を依頼者の口から訊くようにしている。直接訊いたほうが正確にヒアリングできるというのもあるし、直接お会いすることで、依頼者の人となりを知り、また、依頼者の熱量を知りたいと思うから。

直接話をする中で気づいたのが、どんなに困難な状況に置かれている依頼者でも、ラブレターを渡したい相手のことや、その人に対しての想いを語る時は、とても幸せそうな表情をしているということ。そして、話し終えたあとは、伝えたかった自身の考えや想いを誰かに伝えきったことで、安堵の表情を浮かべているということ。

そんな経験から、この仕事の価値は、想いを代筆することよりも、周りの人には吐露することができない切実な想いに耳を傾けてあげること、そして、「想いを伝えてもいいんだよ」と後押しをしてあげること、そういったことにあるのではないかと最近では思うようになってきた。

この仕事を始めてから約2年。始めた当初に比べて随分と依頼件数も増え、使命感も感じている。ただ、正直なところ、僕がいつまでこの仕事をしているかはわからない。
他のことがやりたくなるかもしれないし、プレッシャーに負けて逃げ出してしまうかもしれない。

でも、できる限りは続けていきたいと思う。

「想いを伝える」ことで世界は変わる。
そのことをできるだけ多くの人に知ってもらいたいと思うし、それが今の僕にできる、ちっぽけだけれど、最大限のこと、だと思うから。

BOOK

『ラブレターを代筆する日々を過ごす「僕」と、依頼をするどこかの「誰か」の話。』

小林慎太郎さん

1979 年東京都生まれ。立教大学社会学部卒。IT企業にて会社員として働くかたわら、自身の言葉や文字で想いを伝えることに対して苦手意識を持っている人を支援するため、ラブレター代筆、プレゼンテーション指導、スピーチライティングなどをサービスとして提供する<デンシンワークス>(dsworks.jp)を運営。
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