2017年12月7日 更新

「お金の扱い方が変わると人生が変わる」第5章[第9話]

元銀行員の男が起業をして、一時は成功の夢をつかみかけたが失敗する。男はなぜ自分が失敗したのか、その理由を、ジョーカーと名乗る怪しげな老人から教わっていく。"ファイナンシャルアカデミー代表"泉正人が贈る、お金と人間の再生の物語。

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2017.8.25
 老人は少し優しげな口調で語りかけてきた。僕には信用がないと言ったことを少し申し訳なく思っているのかもしれない 。
「お金とはどこから生まれてくると思う?」
「さあ……、教科書的な正解を言うなら、中央銀行が刷って、国全体に行き渡るようにしているんじゃないですか?」
「でも、この国のどこに日本銀行からタダでお金をもらったという人がいるんだい?」
「それは……」
「お金は人を映す鏡だと言った理由は、そこだよ! 経済システム的には道筋があるんだろうが、君にお金を渡してくれたのは、実生活でつながりのあった会社やお店のマネージャー、お客、友達、の誰かだろう。

君にお金を運んできてくれるのは、 絶対に自分以外の他人なんだよ。

金利は、君の信用度をあらわしているという一例にすぎない。
つまり、他人が君のことをどう見ているかが君の財布にあらわれる、ということさ」
 僕は深いため息をついた。まったく絶望的な話だ。
 この老人は、本当に僕のことを知っているのだろうか?
 僕は意を決して、老人に打ち明けた。
「すいません。ご老人。今まで黙っていましたが、僕には三〇〇〇万円近い借金があります。事業で失敗したのです」
「そうかね」
老人はまるでなんでもないことのように僕が言ったことを受け流した。
「借金はそれ自体は悪ではない。もし、君が年収三〇〇〇万円であれば、私は何の意見もしないだろう」
「……年収三〇〇〇万円。 一時はそれが夢じゃない時もありましたが、今はまったくの無収入です。こないだまで僕に残っていたのは、店の設備や器材ですが、それも処分してお金に換えたので、今の僕は本当に一文無しです」
「さっき、ミルクティーを買ったお金で終わりかい?」
「……はい」
「ははは。君は愉快な人間だな」
「それなら、お聞きしますが、ご老人なら一 〇〇円で何をしましたか? 一〇〇円じゃ、他に何にもできないじゃありませんか」
「お金は万能じゃないさ。まずはその幻想から離れないと、お金の本質を理解できない。一〇〇円を元にと考えるから、思考が狭まるんだ。さっき、お金は君を映す鏡だと言ったが、その逆ではない。つまり、一〇〇円が君じゃないし、借金三〇〇〇万円が君でもない。
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 有名な話だが、ある大学でやったユニークな講義がある。わずか五ドルを使って、いくらまでのお金を稼げるかという実習講義だ。学生たちは知恵を絞って、さまざまな商売を考えた。五ドルで廃品を買ってきて、リサイクルして売るというアイデアもあった。五ドルで安い整備用品を買って、自転車メンテナンスのサービスをするというアイデアもあった。だが、一番の売り上げをあげたものは、学生たちの時間を売るというアイデアだった。授業が始まる前の五分間の時間を企業に売ったんだ。その大学には優秀な学生が揃っていたから、優秀な学生に入社してもらいたい企業はこぞってその時間を買って、学生たちに自分の企業の素晴らしさをアピールしたというわけさ。
 元手はゼロ。五ドルという枠組みにとらわれなかった学生の勝ちというわけさ。
 見たところ、君はまだ若い。そして、人にはできない経験をいくつかしたようだ。その経験を誰かに売りつけることもできる」
「事業家の失敗の経験なんて、誰が買うんですか?」
「それなら、その経験を元に本でも書けばいい。ベストセラーになれば、印税が入ってくるだろう。失敗した経験というのは貴重だからね」
 この老人と話していると、不思議とそんなことが可能な気になってくる。
 だが、よく考えてみると、そのアイディアはダメだった。
 自分でも失敗の原因はわかっていないのだ。運が悪かったとしか、僕には思えなかった。ひとりの男の不幸話を誰が好きこのんで読むというのか。

「お金は万能ではないが、 お金の扱い方が変わると人生が変わる。

 さっき私は、君に信用とお金について話そうとした。ひとつの例は金利だ。
 でも、それだけじゃないんだ。
 それにはまず、お金の成り立ちから話した方が、わかりやすいだろう。
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泉 正人 泉 正人