「金」が今、資産保有の手段として富裕層から見直されている理由

「金(ゴールド)」には、無国籍、無債務、希少価値、商品と通貨の二面性、無利息という特徴があります。無利息は本来はデメリットですが、マイナス金利の日本やヨーロッパでは、逆転してメリットになっています。

2019.12.26

資産としての「金(ゴールド)」の特徴

世界の富裕層は必ずと言っていいほど「金(ゴールド)」を保有しています。それも長期にわたり保有しています。金価格の値上がりで利益を得るのが目的ではないので、購入時の価格はあまり気にしません。
資産として金は次のような特徴があります。
1 金は国籍がない「無国籍」
2 誰も債務を負わない「無債務」
3 金には「希少価値」がある
4 「商品」にも「通貨」にもなる二面性
5 保有しても利息がつかない「無利息」
1~5のどれも富裕層が金を保有する理由になっています。「無国籍」の資産ならたとえ発行国が滅亡しても不都合が起きる心配はありません。「無債務」なので、財政破たんした国の国債や倒産した企業の社債で起きる「デフォルト(債務不履行)」で資産を失ってしまう心配もありません。
「希少価値」は将来も安泰です。人類は地表近くにあり安いコストで採掘できる金をほとんど掘り尽くたと言われています。金は「商品」にも「通貨」にもなる二面性があるおかげで、戦争や内戦が起きても金のアクセサリーを身につけて逃げて国境を超えれば、避難先の国の貴金属店でその国の通貨に交換し当面の生活資金を得ることができます。
「無利息」は本来デメリットですが、現在の金融情勢ではメリットに逆転しています。

「無利息」の金でもマイナス金利よりまし

金は「無利息」で金利0.00%。プラスマイナスゼロです。それを先進各国の長期金利(10年物の国債利回り)と比べてみましょう。
日本   マイナス0.11%
英国   プラス0.67%
ドイツ  マイナス0.38%
フランス マイナス0.06%
イタリア プラス1.20%
アメリカ プラス1.77%
カナダ  プラス1.43%
(2019年11月27日現在)
世界の富裕層の資産を集めているスイスもマイナス0.67%です。
日本、ドイツ、フランスの長期金利のマイナスは、日本銀行や、ユーロ圏の欧州中央銀行(ECB)が「マイナス金利政策」をとっているために、そうなっています。
長期金利のマイナスとは、10年物国債を買うと満期の日に利息がつくどころか元本が目減りして償還され、元本が保障されません。そんな国債は敬遠され、他の金融商品に資産が逃げるのがふつうです。どこに逃げるのでしょう? その有力な逃避先が「金」です。
無利息でもマイナス金利で目減りするよりましだからです。金と長期国債の金利が逆転して金のほうが利率が良くなり、金のデメリットがメリットに逆転した、というわけです。
マイナス金利を「まれにみる異常事態」と言う人もいますが、それにしては長すぎます。日本銀行は2016年2月のマイナス金利政策の実施開始以来3年半以上も続けています。
銀行預金の利率はマイナスではありませんが、欧米の大手銀行は預金者から「口座維持手数料」を取っていて、差し引くとドイツやフランスやスイスの銀行預金は実質マイナス金利です。日本の大手銀行も預金者から口座維持手数料を徴収することを検討しています。現状でもし実施されたら、日本の銀行預金も実質マイナス金利になります。

マイナス金利の向こうに悪性インフレを見る

マイナス金利のもとでは、長期保有したい資産は国債や預金から金に移したくなります。資産が金に流れ込むと、その価格が上がります。国際指標のロンドン金現物価格(1トロイオンス=31.1グラム/米ドル建て)は、日銀のマイナス金利政策が始まる前月の2016年1月平均は1,097ドルでしたが、2019年10月平均は1,494ドルで、ほぼ右肩上がりで36.2%上昇しました。特に2019年の5~9月の4カ月で1,283ドルから1,510ドルへ17.7%も上昇しています。その時期、ヨーロッパ経済を引っ張るドイツの長期金利が低下し、マイナス金利になりました。 とはいえ、それはマイナス金利からの一時的な逃避だけで説明できません。その背景にある政府、中央銀行の金融政策への不信感もあります。マイナス金利に至る量的緩和政策は国内経済へのマネーの供給量を増やすので、インフレの芽を育てているからです。それも資産が目減りして経済の混乱を招くような悪性インフレで、いつかはそれが来るという懸念がふくれあがります。 金を買う背景は、長期保有で資産を保全し、戦争やインフレのような経済の混乱のリスクに備える意図があります。富裕層は現在の「マイナス金利」の向こうに、経済が混乱して自らの資産がどんどん目減りする「悪性インフレ」という、もっと恐ろしいものをイメージして金を買っているのです。
寺尾淳(Jun Terao)

寺尾淳(Jun Terao)

本名同じ。経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、現在は「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)などネットメディアを中心に経済・経営、株式投資等に関する執筆活動を続けている。
]]>