2020年、通信大手の5Gと同時にはじまる「ローカル5G」とは

経済

2019年は「5G元年」と言われましたが、日本でも2020年春に通信大手の5Gサービスが始まります。それとほぼ同時にもうひとつの5G「ローカル5G」も商用サービスを始める予定です。地域限定、施設限定で、自治体や企業が自前で基地局を置いて開設します。

2020.1.3

2020年、日本で「5G」「ローカル5G」が商用サービス開始

2019年、アメリカ、韓国では4月、中国では11月に大手通信キャリアが5G(第5世代移動通信システム)の商用サービスを開始し、「5G元年」と呼ばれました。日本でも5月に通信大手各社に周波数が割り当てられ、2020年春に商用サービスが始まる予定です。
第4世代の4G・LTEに代わって登場する5Gは、「超高速・大容量」「超低遅延」「多数同時接続」という大きな特徴があり、それが自動車の自動運転や、あらゆるモノがネットにつながる「IoT(Internet of Things/モノのインターネット)」に適しているので、産業界では大きな期待を集めています。5Gは2025年までに全世界で11億回線、人口カバー率34%に達するとみられています(総務省「平成30年版情報通信白書」)。
日本で5月に5Gの周波数割り当てを受けたのは、NTTドコモ、au(KDDI/沖縄セルラー)、ソフトバンクモバイル、楽天モバイルの4事業者でした。その際に総務省は「人の居住地に限らず着実な全国展開」「5Gの特性をいかした多様なサービス」「十分なセキュリティ対策」などの条件をつけました。
しかし、5Gの免許を与えるのはこの4事業者だけではありません。総務省は別に「ローカル5G」事業者にも免許を与える方針で、早ければ2020年前半にもローカル5Gの商用サービスが始まるとみられています。
その「ローカル5G」とは、何でしょうか?
これは名前にローカルとつくように「地域限定」「施設限定」の5Gです。たとえばコンビニには全国ブランド以外に北海道の「セイコーマート」のようなローカルブランドがありますが、もっと小さい単位、たとえば「札幌市豊平区内限定5G」「札幌ドーム限定5G」「工場内限定5G」ができて、ドコモやauやソフトバンクや楽天の5Gと並び立つような、そんなイメージです。 総務省は4事業者に「3.7GHz帯」「4.5GHz帯」「28GHz帯」の3つの周波数帯を割り当てましたが、4.5GHz帯と28GHz帯では「ローカル5G用」の帯域も用意し、申請があれば調整の上で割り当てる方針です。ローカル5Gの事業者として自治体、公共施設、商業施設、ビル、企業、学校、病院、ケーブルテレビ会社などを想定しています。

「最先端のITでまちおこし」ローカル5Gで5Gを先取りし

全国展開する通信大手は5G用基地局を設置しています。総務省から人の居住にかかわらず全国津々浦々への設置を求められ、野生動物しか住まない山岳地帯や原野にも、小笠原や沖縄の無人島にも設置します。国立公園レンジャーや学術調査隊や沖の漁船が5GでIoT機器を使えるようにするためです。
そのため基地局網の整備にかなりの費用がかかり、4事業者合計で1兆6,000億円以上です。一度では無理なので、大都市圏→中小都市圏→農村・漁村→無人地帯という順番で5Gが普及するでしょう。
「2025年の人口カバー率34%」とは、その時点で66%の人が5Gのサービス開始を待ち、さらに無人地帯も基地局設置待ち、ということです。
ローカル5Gには、そんな5G利用開始までの時間差を埋める役割が期待されています。人口密度の低い農村・漁村は通信大手による5G基地局設置が後回しにされそうですが、IT企業の誘致、人口増、まちおこしを狙っている自治体は、「それまで待てない。自分たちで何とかしよう」とローカル5Gの開設に名乗りをあげることが考えられます。5G基地局があるのが役場や主要な建物数カ所程度でも「5Gが使える」ことは、周辺の自治体に対して優位に立てるポイントになります。

ローカル5Gにメリットあり、工場でも、商業施設でも

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都市圏の公共施設やビルや工場や商業施設でも、ローカル5Gにはまた別のメリットがあります。それは基地局が建物の中に設置されていたら「ミリ波の直進性」の影響を受けにくくなることです。
総務省が用意した5G用周波数帯は、「センチ波」の3.7GHz帯、4.5GHz帯と、「ミリ波」の28GHz帯がありますが、通信大手が欲しがったのはセンチ波で、ミリ波は敬遠されました。なぜなら、ミリ波は電波の直進性が強いので建物のコンクリート壁ではね返されたり、窓のない廊下やトイレに届かない、工場や倉庫や店舗では機械類、貨物、商品で反射されて使えない場所が出る恐れがあるからです。電話が「圏外」なら場所を移動すればいいのですが、5GでIoTを利用する機械や貨物や商品は容易には動かせません。また、ミリ波では雨や霧や人体内の水分も電波の障害になるという実験結果もあります。
しかし、建物の中にローカル5Gの基地局が設置されると、山頂やタワーやビルの屋上に設置される基地局と比べて伝送距離が短くなり、ミリ波の直進性の影響が軽減されます。天気や建物外壁の影響はなく、電波強度が強いので建物内に死角ができにくくなります。
IoTで制御された機械が動く工場を「スマートファクトリー」と言いますが、そこの機械が5Gの通信切れでトラブルを起こし不良品を出すようなリスクが避けられるのなら、企業が工場に自前のローカル5Gを導入することは、十分に考えられます。
スーパーが、陳列する商品を全てIoTで管理してキャッシュレス決済でレジを廃止したいなら、ミリ波の死角のために商品が買われずに持ち出され、店が損失をかぶる事態を防ぐために、店舗内に基地局が設置できるローカル5Gの導入が合理的です。
建設現場に臨時のローカル5Gを導入し、現場事務所内に基地局を置いて建設機械をIoTで制御することも考えられます。
総務省はローカル5Gのためにミリ波の28GHz帯に、センチ波の4.5GHz帯より4.5倍広い帯域を用意しました。いずれ「センチ波は通信大手の5G」「ミリ波はローカル5G」というすみ分けが生まれるかもしれません。
2019年1月に韓国が「6G研究センター」を設立し、2月にはトランプ大統領が「5Gだけでなく6Gも早くアメリカにほしい」 とツイート。6月にはフィンランドのオウル大学が「6G白書」で6Gの世界を予想し、11月6日には中国政府の科学技術部が「6Gの本格的な研究を公式に開始した」と発表。同じ11月、5G基地局のトップメーカー、ファーウェイ(華為技術)の梁華会長は社内に「6G研究チーム」を発足させたと明らかにしました。5G商用化で出遅れた日本政府は2200億円の「ポスト5G基金」をつくって技術開発を推進すると報じられています。
規格も何も固まらない段階で、すでに「ポスト5G」「6G」の話題が世界中で盛り上がっていますが、2020年、ローカル5Gが健闘して5Gの普及が加速すれば、ポスト5G、6Gへの移行もスムーズに進むことでしょう。
寺尾淳(Jun Terao)

寺尾淳(Jun Terao)

本名同じ。経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、現在は「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)などネットメディアを中心に経済・経営、株式投資等に関する執筆活動を続けている。
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