「お客様」である生徒に視点を向けたら学校が変わった
STAGE編集部:32歳で、お父様の急死をきっかけに、経営破綻寸前の学校法人奥田学園の3代目理事長に就任されました。
こういうこと言うと先代に申し訳ないけれど、それまでの経営の失敗は、経営陣に原因がありました。実際の数字を見て、「ああ、もう終わってるな」と思いましたね。
どう考えても、先代が金融機関に対して出していた返済計画ではよい教育はできないのが目に見えていて。だから金融機関に対して、「もしうちの立て直しに協力してもらえるのであれば、返済計画を大きく変えてほしい」と説得をしました。お金を生み出すためになんとかしようじゃなくて、生徒たちを輝かせることをやって経営を立て直すというほうに方針を転換したんですね。
それまでは、入試で名前さえ書けば全員入学できますっていうような学校だったけれど、落とすべきは落とす。それで入学者が減ったとしても耐えて、入ってくれた生徒にはとにかくとことん付き合おうぜ、と。
かっこつけた話かもしれないですけど、「お金」から「お客様」である生徒にバッと視点を向けたところから評価が変わりましたね。
STAGE編集部:その想いや情熱を先生たちと共有するのには時間がかかったのではないですか?
結構すぐにできましたね。先代の秘書的な仕事をしているときによく職員室にいたんですけど、経営陣よりも先生たちの方が、教育者として正しいんですよ。現場の先生たちは現実を分かっているし、生徒たちをこうしよう、っていうアイデアもいっぱい持っていたんです。
だから僕は、理事長の座を継ぐ前から「この学校はもしかしたら復活するんじゃないかな」っていう期待を持っていたんです。実際に、先生たちに「本当の教育をしようぜ」っていう話をすると、自分たちが食い詰めてでも「やろうやろう」みたいな反応があった。給与40%カットという荒業ができたのも、本当に現場の力、理解です。この学校を復活させたのは他の誰でもなく、そういった現場の先生たちの気概じゃないかなと思いますね。
まずは自分が身を削る姿を見せる
STAGE編集部:給与といえば、著書『ヤンチャ校長、学校を変える』の中でも「理事長の報酬が最も多い必要はない」という主旨のことを仰っていました。
企業でもそうですけど、常識的に考えて、利益が出ていないのになんで社長が一番高い給料をもらわなきゃいけないんですかね。利益が出ていなかったら、社長自らが給料をカットしなくちゃやっていられないでしょ。僕がもし部下だったら、「お前なにたくさん給料とってんの?」って思ってどんどんモチベーションが下がっちゃいますよ。まず自分が身を削る姿を見せないと絶対に人は動かないと思います。
僕が理事長になったときは、手取りで10万円ももらってなくて、嫁さんのヒモみたいな感じで何年か過ごしていたんです。まずそこを見てもらったから、「理事長がここまでやっているんだったら、理事長が掲げている理念に賛同した自分たちもやらなきゃいけないよね」って、先生たちに思ってもらえたんですよね。
STAGE編集部:現在はお金に不自由しているということはないと思いますが、今の奥田さんにとってお金とはどんな存在でしょうか。
お金っていうのは、決して目を背けてはいけない、向き合わなければいけないもの。いろんな意味で目を背けたくなるかもしれないけど、いい意味でも、悪い意味でも、向き合わなければいけないものだと思います。
福沢諭吉先生の言葉に、“金銭は独立の基本である、これを卑しむべからず”っていうのがあります。お金ってすごく危なっかしいものかもしれないけど、やはりある程度のお金がないと生きていけないというのは現実なわけですよね。
自分が主人公の人生を、どうマジで生きるか
STAGE編集部:創成館高等学校で特に熱を込めて教えていることは、どのようなことでしょうか。
ベタな言葉ですけど「主体性」です。世の中、主体的に動くことのできない人間が非常に多いなと感じていまして。どう主体性を持って生きるか。自分の人生を、自分を主人公として、どうマジで生きるか。それこそ生き方教育です。こういったことに非常に力を入れていますね。
社会に出たら特にそうですけど、自分らしくいきいき生きるっていうことこそ、楽しい人生だという持論があるんです。自分の意見をしっかり伝えることをトレーニングすることは、彼らが人生を主体的に生きられるというところに、大きなプラスの影響を与えられるのではないかと思っています。
STAGE編集部:経営破綻寸前から一転、中学生が憧れる高校で有名になりました。
楽しそうだからでしょ。「心ゆさぶれ!先輩ROCK YOU」というテレビ番組でうちが取り上げられたことがあって。MCの加藤浩次さんが最後に「人って楽しいものに集まるよね」っていうことを仰ったんですね。まさにそう。やっぱり人間って暗い雰囲気のところより、楽しそうなところに集まりたがるじゃないですか。なんかワクワクするものに。
STAGE編集部:楽しむ、といえば、生徒と一緒に学校行事を楽しむ様子が取り上げられたこともありますね。
はじめは僕も騒いじゃおう、みたいな感じでやっていただけなんですけど。子どもが一生懸命やることに対して、大人も同じように一生懸命な空気やテンションでやることって、子どもにいろんな影響をもたらすと思うんですね。
ちょうど昨日からダンス部と一緒にダンスの練習を始めたんですね。もちろんダンスなんて踊れないから一生懸命真似してついていくんですけど、2時間ぐらいしたらもう本当に汗だくになって。で、今朝、1年生の担任から声をかけられて。「自分のクラスの女子がちょっとスランプに陥っていたんだけど、昨日必死にダンスを踊っている校長の姿を見て、もう1回頑張らなきゃっていう気持ちになったらしい」って言っていたんですね。
別にその子を元気づけるためにダンスをしていたわけじゃないんだけど、大人の一生懸命な姿を子どもが見て、「あ、このおっちゃんがこのぐらい頑張っているんだから、私も頑張ってみようかな」とか、そういう些細なきっかけになれていることが、どうもたくさんあるんですよ。
STAGE編集部:これからの創成館高等学校が向かう先は。
東大に入学させたりなんたりということは全然考えてないですね。東大入りたいってやつがいればその人の夢をかなえましょう、と。でも、一流のデザイナーになりたいというやつがいてもその夢任せてください、と。そういった意味でなんでもいい、子どもたちが描いているものをめちゃめちゃ現実に近づける学校。「この学校行ったらなんとかなんじゃね?」みたいな。そういう子たちが全国から集まってくれるような学校を目指しています。
自分がどうしたら楽しいのかを、吐くぐらい考える
STAGE編集部:子育て中の読者の方もたくさんいらっしゃいます。そうした方に向けて子育てのアドバイスをいただけますか。
大人がギラギラすることです。大人がギラギラしたら子どももギラギラします。うちの学校が変わったのは、先生が変わったからですよ。
STAGE編集部:もう少し詳しく、“ギラギラ”することについて教えてください。
“ギラギラ”するとは、自分らしく、ということなんですよ。僕はよく、教育界の異端児みたいな言われ方をするんですけど、なんで異端児って呼ばれるのかよく分からないんですよね。なんでかというと、校長業にしても、経営者の振る舞いにしても、そもそもルールなんてないんですよ。
例えば、入学式のスピーチをするとき、僕は原稿を作らないんですけど、そのことをいつも多くの校長先生から注意されるんです。「奥田君、式典なんだから、ちゃんと文章をしたためて朗々と読みなさい」みたいな。「寝るだろ」みたいな(笑)。それより僕は、「ようこそ、創成館へ!!」みたいなほうが伝わるんじゃないかなと思っているんですよね。
だから僕はどんな批判をされようが自分のスタイルを貫いているし、僕はこういう生き方や自分自身が好きだし、「いかに自分らしく、自分のスタイルを貫いていくか」っていうところが“ギラギラ”につながっているんじゃないのかなと思っています。
STAGE編集部:子育てだけではなくて、社会に出ている人にも同じことがいえますね。
そう。社会人もまったく同じだと思います。「自分がどうしたら楽しいのか」ということを、それこそ吐くぐらい考えてほしい。自分では「考えています」っていうけど、「どんなことを考えてる?」って聞くと、そう考えているような答えは返ってこない。ただどうしようこうしようじゃなくって、考えすぎて頭痛くなって「オエー」ってなっちゃうぐらい、もっと本気で、「自分はどうやったら楽しいの?ハッピーなの?」っていうことを突き詰めてもらいたいです。人生は笑ったもん勝ちですから。
「お金とは、向き合わなければならないもの。(奥田修史)」