〈竹中平蔵〉ニューエコノミーを読み解く〜お金の教養フェスティバル2020講演 〜

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2020年代は、全く新しいエコノミーになる、いわゆるニューエコノミーです。ニューエコノミーの重要な2つの観点について、竹中平蔵氏が語る。「第4次産業革命」という観点から一つ、もう一つは、サステナブルで、インクルーシブな経済社会を作るという観点からです。
2020.3.22
2020年1月ファイナンシャルアカデミー主催「お金の教養フェスティバル2020」での竹中平蔵氏の講演の一部を編集し記事化したものです。

第4時産業革命により生まれる新たな経済圏・経済活動「ニューエコノミー」

重要な点は、この平成の30年というのが、丸々デジタル化の時代であったということと、そして平成の最後の10年間にまたとんでもないことが起こってきたということです。このとんでもないことというのが、人工知能やビッグデータに代表される、第4次産業革命です。それを受けて2020年代が始まるという風に考えなければいけません。
家庭にインターネットが入ってきたのは、1995年でした。皆さんはWindows 95っていう言葉を覚えておられるでしょうか? あの瞬間が実は、家庭にインターネットが入ってきた瞬間です。1995年の流行語大賞を取ったのが「インターネット」という言葉だったんです。そこから、デジタル化というのは、まさに平成の時代にワーッと進んできたんですが。平成の最後の10年間に、第4次産業革命と言われるようなものすごいものが芽生え始めています。
第4次産業革命については、象徴的には人工知能ですよね。AI、Artificial intelligenceという意味で、人工知能そして、ロボットを組み合わせます。そして、全てのモノがインターネットでつながる、IoTという風に言います。モノのインターネットという風に言います。そして、ビッグデータです。そしてビッグデータを使った、シェアリングエコノミー。ライドシェアとかルームシェア(民泊)。そういうものが新しい産業として出てくる。人工知能、ロボット、IoT、ビッグデータ、そしてシェアリングエコノミーの出現。

そして、これと同じ時期にですね、いわゆるスマートフォンが作られていくわけですよね。

堀江貴文さんは、大変的確なことを言っておられます。「スマートフォンは、見事に国民を騙した」というのです。なぜ「騙したか」と言うと、これは電話だと思ってみんな買ったと。しかし、これは電話ではないんだ、これは小さなパソコンだ、と。つまり、少なくとも、デジタルなネットワークに入っていく入り口である。でも、デジタルなネットワークに入ろうと思って買ったわけではなくて、洒落た電話があると思ってみんな買った。しかしこれで情報交換すると、そこにビッグデータが貯まる、というわけです。

スマートフォンでモノを買うと、物事の購入のデータが貯まる。さらには、これで決済をすると、決済のデータが貯まる。どんどんどんどんビッグデータが貯まっていく。そしてそこに、データを与えることによって、どんどん自分で賢くなれる人工知能っていうのが絡んできた。

それが、今の第4次産業革命で、国家権力である出入国管理さえも、すでにAIによる顔認証で審査できています。実は、このようなことが重なると、本当に大きな社会の変化が起きます。そこで、ものすごく伸びていく企業と、今まで普通にやってきたけど、急に営業の基盤を一気になくしてしまう企業が、ものすごいどんでん返しのような形で起こってくる。その始まりが、2020年代の始まりが今だという風に考えなければいけないのだと思います。

例えば、Googleの株価は、10年弱で10倍になってるんですよね。そういう企業が、実はこれからもっともっと出てくる可能性があるということです。

2020年代は第4次産業革命の結果として、職業が消えてゆく

さあ、そういう観点から言うと、今、私たちはものすごいチャンスがあると同時に、非常に厳しい状況もあるかもしれません。

例えばですけども、マイケル・オズボーン(Michael Osborne)という人は、もう4~5年前に論文を書いて、これからビッグデータとロボットと人工知能にいろんなものが置き換えられていき、今ある職業の47%は、十数年の間に消えてなくなる。そういう予測を出しています。

その中には、人気のある職業もあります。銀行の貸付係がなくなるという項目もあります。全員なくなるわけではないんですが。銀行の貸付係というのは、財務諸表、例えば損益計算書とか、貸借対照表を見比べて、他社と比べて、それをデータを扱って、倒産確率を出して、いろんなことをして判断するわけですが。ビッグデータと人工知能があれば、別に人間が作業しなくてもいいですよね。最後の判断は、総合的な判断は人間が少しするとしても、確かに、今のような作業はもうしなくてもよいのかもしれません。

そういうことが現実に起こっていくし、マイケル・オズボーンによれば、公認会計士もほとんどいなくなる。最後にこれが適正に行われているかどうかという総合判断は、人間がするにしても、会計の細かいルールっていうのは、人工知能に覚えさせればいいし。そしてデータを当てはめれば、これは別にもう人間がやらなくてもいい。そういう社会が2020年代から始まろうとしている。

人間本来のクリエイティビティを発揮でき、経済成長するシナリオ

しかし、別の面もあります。マイケル・オズボーンは厳しい見方を出しましたが、あるシンクタンクが次のような予測を出しました。これに
よって人間は、人間が本来持っている能力、一番重要なクリエイティビティの高い、クリエイティビティを求められる仕事に専念できる、と。そうすることができれば、そういう社会シフトができれば、一気に世界の生産性は、2035年までに40%高まると。そして、個別の計算もしてるんですが、日本の成長率は、今1%ぐらいの成長率が、それが3%ぐらいになる。

その両方があり得る。オズボーンの試算も、このシンクタンクの試算も、あくまで一つの試算ではありますけれども。私たちは、進める可能性をポジティブからネガティブまで、きちっと示していることだと思います。

第4次産業革命に関して、実は今、アメリカだけがかなり特殊な動きをしています。過去5年間を見ると、日本の株価もヨーロッパの株価も両方、20%から30%上がりました。どの国もそうです。

しかし、アメリカだけが特殊なんです。60%も上がっているんです。何が違うのでしょう。導き出せる一つの答えは、アメリカの企業、特に、Google、Apple、Facebook、Amazonに象徴されるような、巨大な第4次産業革命を担っている企業は、圧倒的に、有形固定資産ではなくて、無形の資産に投資をしているということです。その投資をできる企業が、この第4次産業革命の時代には大変有利だということを示しています。

投資すべき「無形の資産」とはなにか?

無形の投資資産への投資。それは何でしょう? データベースを作っているかということです。まずは、データに対する投資。そして、技術に対する投資。まさに、研究開発ですよね、R&Dです。

そして3番目が、人間に対する投資。日本の企業は、研究開発っていうのは意外とちゃんとやってるんです。ところが、3番目のヒューマン・リソースに対する人的な投資と、もう一つは、組織を変えるための大胆な投資、これを日本の企業はできていない。アメリカの企業はそれができている。アメリカの場合は、規制が少ないということもあるでしょう。日本の企業は、バブルが崩壊してから人的な投資をしなくなっています。

皆さんが企業を見る時には、こういう無形の資産を作るためにちゃんと投資をやっているかということを、きちっと見る必要があると思います。

しかし、無形の投資、これは難しいのです。私が例えば企業経営者で、無形資産に対して人的投資をやります。と言っても、銀行はお金を貸してくれないですよね。「本当にそれ、価値あるの?」……この土地を買って、この建物を買いますと言えば、不動産の担保価値みたいなものは、銀行は測りやすいのですが、無形の価値が、なかなか測れないんですよね。

では、アメリカではどのように資金調達をしているのか? それは、銀行借り入れではなくて、投資です。デット(debt)ではなくて、エクイティ(equity)で、資金調達するマーケットがあるからだと思います。我々は賢い投資家になって、そういう企業をしっかりと見抜いていくということが、大変重要になってくるのではないかと思います。

以上が、第4次産業革命という観点からのニューエコノミーです。

ニューエコノミーの第2の目は「サスティナビリティ」

ニューエコノミーの2つ目のカテゴリは、地球の「サステナビリティ」です。そして「インクルーシブ」。全員が幸せになれる世界の実現です。所得ギャップもあまりなくて、一部の人だけではなく、みんなが包括的に幸せになる。それをインクルーシブと言います。サステナブルで、インクルーシブな経済社会を作るというのが、実は、これがもう一つのニューエコノミーなのだと思います。

サステナブル(持続可能)で、インクルーシブ(包括的)な、つまり本当の意味で、人々の幸せと結びつくような経済、それがニューエコノミーだということになると、やはり環境の問題は重要です。環境に対する配慮、つまりSDGsの観点から、この企業はどれだけ社会に貢献しているかというのは、投資家としての目線では、長期的には大変重要な尺度になっていくでしょう。

最後に、これから極めて重要になってくるのが、「健康経営」という概念だと思います。結局、企業を支えているのはヒトです。そのヒトの健康状況をどのぐらい大切にしているのか、という観点です。日本でアンケート調査を取ると、「あなたは企業でストレスを感じたことがありますか?」という質問をすれば、だいたい7割ぐらいの人が「あります」という風に答えるわけですよね。

しかし、結局、ストレスフルな企業の生産性は落ちるんです。例えば、健康じゃないのに、無理して出席している人、生産性は落ちますよね? 逆に、すごく有能な人なんだけど、病気で休んじゃう人もいます。生産性は落ちますよね?

だから、働いている人の健康管理、健康経営度合いは、実はその企業の業績にものすごく影響を与える、と。プレゼンティーイズム(presenteeism)、アブセンティーイズム(absenteeism)っていう言葉を最近よく使います。病気なのに出勤されても困るし、有能な人が欠席されたら困るし、働いている人の健康管理という問題を企業が抱えているのです。

健康経営銘柄みたいなのを、経済産業省が推奨するシステムを持ってますが、それが本当にどの程度あてになるかどうかというのも踏まえて、注視していくということが、重要なのではないかと思います。

「第4次産業革命」「サスティナビリティ」「インクルーシブ」「健康経営」このようなお話をしてきました。今後、未来や投資について考えるとき、参考にしていただければと思います。 

竹中 平蔵

東洋大学国際学部教授、 慶応義塾大学名誉教授。 1951年、和歌山県生まれ。一橋大学経済学部卒業後、1973年日本開発銀行入行。 1981年に退職後、ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを務める。2001年小泉内閣の経済財政政策担当大臣就任を皮切りに金融担当大臣、郵政民営化担当大臣、総務大臣などを歴任。 2004年参議院議員に当選。2006年参議院議員を辞職し政界を引退。 現在は様々な企業で社外取締役などを兼務。

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