私たちは日々、投資ファンドへ投資している

金融リテラシーで変わる社会
私たちをとりまく社会はいま、大きく変化している。大企業に新卒で採用され、そのまま定年を迎えるまで勤め上げれば定年後は安泰。そんな少し前まで当たり前だった人生はもう夢物語だ。【連載】金融リテラシーで変わる社会(第5回)
2017.4.6

「投資ファンド」という言葉を聞くと、日本ではハゲタカもしくは詐欺のようなイメージを持つ人が多い。しかし実は私たちの周りには投資ファンドが数多く、極めて身近に存在している。

私たちに最も身近な投資ファンドがある。運用資産は約150兆円で日本の国家予算の約1.5倍もの資金を運用する世界最大の投資ファンドだ。2016年9月から12月の、たった3ヵ月間での収益は10兆5千億円、金利で計算すると3ヵ月で7.98%にも上る。この巨大投資ファンド、英語では「Government Pension Investment Fund」であり、通称GPIFと呼ばれる。そう、これは日本語でいうと私たちがよく知る「年金積立金管理運用独立行政法人」、私たちの厚生年金や国民年金を集めて運用している団体だ。私たちは厚生年金や国民年金を通じてこの世界最大の投資ファンドに、文字通りの「年金積立投資」をしている。そしてこの投資ファンドは量・質共に世界最大と言ってもよい規模を誇っている。「投資ファンド」というと自分たちとは遠い物の話だと思いがちだが、実は私たちは厚生年金や国民年金として日々投資ファンドに投資をしている。

海外では日本よりもさまざまな形で投資ファンドが日常に関わっている。日本同様に年金ではノルウェー政府年金基金も約100兆円をファンド運用している。この基金は世界の上場株式を1%以上保有している世界経済の大株主だ。また退職金についても投資ファンドで運用だ。約20兆円もの米国カリフォルニア州の公務員の年金を運用するカリフォルニア州職員退職年金基金、通称カルパースはその金額の大きさと先進的な運用手法により行動が注目されている。年金や退職金だけでなく政府自身が運用している場合もある。一時期、話題となったアラブ首長国連邦の政府系ファンドであるアブダビ投資庁やシンガポールのシンガポール政府投資公社等は日本の株式や不動産を購入したことでも話題になった。また、大学もファンドを組成している。海外ではハーバード大学の基金が有名で約4兆円を運用している。日本でも慶應義塾大学や早稲田大学等多くの大学が運用を行っているが、2008年のリーマンショックの際には駒沢大学が154億円もの損失を出したのが話題になった。

私たちにさらに身近な所では「保険」もファンドで運用されている。私たちが加入している生命保険や損害保険、これも実態としては投資ファンドだ。実は、純粋な「保険」の部分、どの様な保険金を出す際にいくらの保険料が必要かについては、統計に基づいて厚生労働省が作成し公表しており、純粋な保険部分では保険会社は利益を出せない仕組みになっている。では保険会社は何で利益を出しているのか。実は保険会社、特に生命保険会社は保険商品を利用して資金を集めて投資をするビジネスモデル、つまり投資ファンドだ。例えば日本生命は信託口を除けば、三菱UFJフィナンシャルグループの筆頭株主だ。約60兆円を運用し、2015年3月期においては1兆7700億円近い運用収益を上げている民間最大の機関投資家だ。第一生命も同様のビジネスモデルで同時期に1兆2400億円近い運用収益を上げている。

「投資ファンド」というと私たちは遠い世界のように感じるが、年金や生命保険等、実は私たちの近くに存在しており、私たちも恩恵を受けている。私たちは日常において、さまざまな金融技術に囲まれている。次回についてはより身近な金融技術について述べたい。

岸 泰裕

金融工学MBA、大学非常勤講師

大学卒業後、Citiグループの日本における持株会社に勤務。在籍中に金融工学MBAを取得する。その後スタンダードチャータード銀行の東京支店に転職。現在は金融機関を退職し、明治大学、名古屋商科大学、龍谷大学や企業研修・セミナーなどで金融論等について各種講義を行っている。

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