欧州経済の「日本化」が進んでいる?今後最も避けたい3つの恐怖

「額歴」がぐんぐん上がる経済ホットレ
9月12日に欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が発表した総合的な金融緩和策では、欧州の低成長と低インフレの長期化を阻止するのに不十分であると市場の評価は冷ややかです。いかなる金融政策を講じても経済回復に至らない「低成長」「低インフレ」「デフレスパイラル」という日本化が本当に欧州圏で進んでいるのでしょうか。
2019.10.18

日本化する欧州経済

ここ最近の主な各国中央銀行の利下げを見てみると、7月には、オーストラリア(0.25%利下げ)、韓国(0.25%利下げ)、トルコ(4.25%利下げ)、米国(0.25%利下げ)、8月には、インド(0.35%利下げ)、フィリピン(0.25%利下げ)、9月(ユーロ圏(0.1%利下げ)、トルコ(3.25%利下げ)。このようにかなりの国で利下げが行われています。
この中で1カ月ほど前になりますが、注目はやはりECBの緩和策総合パッケージではないかと思います。ECBは政策金利のうち市中銀行から預け入れられた余剰資金に適用する「中銀預入金利」を現在のマイナス0.4%から過去最低のマイナス0.5%に引き下げることを決定しました。また、昨年末で終了していた量的緩和については、11月から月200億ユーロの資産購入規模で再開することになりました。この大きな政策転換は、日本化(Japanification)を阻止したいという並々ならぬ覚悟があるとされています。日本化を避けることは可能なのでしょうか。

1)低成長

欧州(ユーロ圏)経済は、2013年にリセッションから抜け出したとされています。それ以前の数年間は、失業率もかなり高く、さらに主要国の中でも最もリーマンショックを引きずった低成長な経済圏と悲観されていました。しかし、2013年以降、ECBの積極的な量的緩和と世界的な景気回復基調を助けにどうにか景気回復させてきました。しかし、いくら回復したといっても現実の成長率は最高で2.5%/年、しかもこの回復期を維持できたのはわずか3年程度でした。とても本格的な成長を達成できたとはいえない状況です。さらにここ数年は低成長に逆戻りし欧州経済の脆弱さを露呈してきました。今年の成長率(コンセンサス)も1.1%程度と予想され、貿易戦争やブレグジット次第ではさらなる下方修正が予測されています。
さて、欧州が恐れている「日本化」の日本経済はといえば、リーマン・ショック後の平均成長率は約1.0%。厳しいとされている欧州経済すら上回ることができないのが日本経済です。ECBは、低金利政策を20年続けても経済が本格的に回復しない日本になることを恐れています。しかし、緩和策を行っても続く欧州経済の低成長ぶりをみるにつけ、ほぼ「日本化」しているといえるかもしれません。

2)輸出依存と為替レート

欧州も日本経済と同じで主要経済国のなかでは輸出依存度が高い国です。世界的に保護主義化に傾斜する現状は、輸出国の国内経済を減速させることは明白です。つまり、ユーロ圏経済も日本同様に保護主義化により経済的なマイナスの影響を受け続けること間違いなしです。しかも、輸出国の生命線ともいえる為替レートも日欧ともに自国通貨安に至っていません。日欧ともに金融緩和策後には自国通貨安をイメージしていたはずです。実際に金融政策の変更後は自国通貨安に一時振れます。しかし、その持続性はなく、最終的には自国通貨高トレンドに戻っていきます。このように、ユーロ(欧州経済)も「日本(円)化」しているといえます。

3)低インフレーション

低成長、自国通貨安により、結果的に一番恐れている低インフレーションが定着しつつあります。ユーロ圏も日本も最悪のデフレは免れているといえますがまったく褒められたものではありません。ECBはユーロ圏物価上昇率を約2%に目標を設定していますが、17、18年にどうにか達成できたものの19年には1%程度に逆戻りしました。ほぼ低インフレーションが定着しているといえます。また、本家日本では14〜15年にかけて一時期2%程度の物価上昇率を実現できましたが15年末以降は再び0〜1%内に舞い戻ってきました。積極的な金融緩和策を受けても「低インフレーションになる」という事実は、間違いなく「日本化」しているといえます。
この3つの事実をみるにつけ欧州の「日本化」は近づいているといえそうです。またこれ以外にも、高齢化、財政出動の限界、中央銀行(ECBと日銀)のバランスシートの肥大化、増税トレンドなど日欧の共通点は多く、量的緩和により経済的な問題を解決するのは容易でないと思えます。
しかし、日欧が日本化しているあまり喜ばしくない状況にも関わらず、金融市場は主要国の量的緩和を好感し狂喜乱舞しています。

欧州の金融緩和をどう理解すればいいのか

欧州の金融緩和の影響はどのようなもがあるでしょうか。
・世界的な低金利化を加速。銀行の収益が圧迫され副作用が強まる
・金融政策だけでは経済を支えきれず過度な財政政策が行われソブリン・リスクの再燃
・預金金利などにマイナス金利が定着し、投資家にとっての「資産の負債化」が顕著化
・国債の50年、100年債券発行が定着化し異常な金融環境の定着化、債券のバブル化
・新興国も利下げ戦争に巻き込まれ通貨安に巻き込まれる
・新興国の通貨安によるリパトリエーション再開
これ以外もいくらでも懸念事項を挙げることは出来ます。しかし、ここでみなさんにお伝えしたしたいのは上記を恐れていただくことではありません。大切なのはECBやFRBの利下げや量的緩和策でマネーが市場に溢れ、行き場を失ったマネーが株式、債券、コモディティーなどありとあらゆる資産へ向かっているという事実と、そのうらで上記のような私達があまりニュースや記事で見かけないような市場リスクが量的緩和のプラス材料の裏でマイナス材料として芽吹いているということなのです。そして、金融緩和や財政出動は経済の回復や成長を本来の目的としているので、現在の世界経済はそれを必要としているあまり健全ではない状況であるということを心に留めておくことが今のような経済環境においてはとても大切になります。

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渋谷 豊

ファイナンシャルアカデミー総研代表 、ファイナンシャルアカデミー取締役

シティバンク、ソシエテ・ジェネラルのプライベートバンク部門で約13年に渡り富裕層向けサービスを経験し、独立系の資産運用会社で約2年間、資産運用業務に携わる。現在は、ファイナンシャルアカデミーで取締役を務める傍ら、富裕層向けサービスと海外勤務の経験などを活かした、グルーバル経済に関する分析・情報の発信や様々なコンサルティング・アドバイスを行っている。慶応義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。
ファイナンシャルアカデミーグループ総研 http://fagri.jp/
ファイナンシャルアカデミー http://www.f-academy.jp/

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