今こそ投資家がすべき単純なこと

「額歴」がぐんぐん上がる経済ホットレ
3月4日〜8日の米国ダウ工業平均、S&P500、ナスダックの3指数が1週間で2%を超える下落となり昨年末から継続してきた楽観ムードが一転しました。久しぶりに投資家心理が冷え込んだかなぁと思いましたが、11日〜15日の1週間で前週の下げ幅を上回る上昇し悲観ムードは一転。ボーイング問題など悪材料をよそに年初来高値を更新し市場には再び楽観ムードに戻りました。このような楽観相場で改めて意識したい極上の名言をご紹介したいと思います。
2019.3.22

材料としては下げてもおかしくないのに

前述の通り3月11日から15日の一週間でダウは+1.57%高、S&P500は+2.89%高、ナスダックは+3.78%高と株式市場は大きく反発しました。前週のマイナス幅を完全に取り戻したことで再び市場には強気ムードが台頭しています。いつも米国市場をフォローしていない人にとってはよほど良い買い材料があったのではないかと思われたかもしれません。
しかし、実際は悪材料が目立った一週間でした。13日には航空機メーカーのボーイングの旅客機事故のにより全世界的に運行停止命令。また、英議会においてはEU離脱案が否決されブレグジットを巡る混迷が改めて浮き彫りとなりました。14日、ムニューシン米財務長官は米中首脳会談が3月中に開催されず4月への開催先送りを示唆しました。このことは、ある程度市場で予測されていましたが交渉の先行き不透明感が改めて意識されました。また、経済データにも悪材料が続いています。中国の2月鉱工業生産では予想下振れが確認され世界経済への減速が再意識されています。このように多くのネガティブな材料があったにもかかわらず市場への影響は限定的なものでした。
それどころか良い材料にだけ市場は反応しており悪材料をポジティブ材料に置き換える楽観ムードが蔓延しています。確かに13日に米国FRBのパウエル議長が現在の政策金利が適切との認識をメディアに発信したことは金利的にも良い材料です。しかし、英国がEUとの合意なき離脱をすることへの反対を賛成多数で可決したこと、米中首脳会談が4月以降に延期に対して歓迎するムードは正しい反応なのでしょうか。ここ数カ月は、米国の金融政策正常化、英国離脱問題、米中貿易問題という2019年の大問題をすべて先送りしたにしか過ぎないのに。
特に米中貿易摩擦に関する首脳会談が4月に延期(6月になるとも噂されている)され先送りになった本当の理由には注意が必要です。2017年4月に合意され大した成果を残さなかった「100日計画」を改めて確認してみましょう。今回の交渉も2017年の二の舞になるとの懸念から日米は歩み寄れないのではないかと憶測がるのも事実です。トランプ大統領は一日でも早く米朝首脳会談の失点を取り戻したいはずなのに、首脳会談の先送りをするということは会談での成果が期待できないことを示唆していおり、その結果貿易戦争が悪化すると考えるほうが無難かもしれません。

だからといって市場の声に耳を傾けないのは間違えた行動

では、今の株価の上昇は間違ったことなのでしょうか。株式市場には「市場は常に正しい」という格言があります。この言葉を信じるのであれば、弱気材料ばかりなのに相場が強い今のような状況を「相場が間違っている」と即座に判断するのはすこし危険かもしれません。一方で、著名投資家のジョージ・ソロスは「市場は常に間違えている」という名言を残しています。多くはここまでしか紹介されていませんが、市場の動きは常に間違っているという言葉の後に大事な文章が続いています。それは、「市場参加者の価値判断は常に偏っており、支配的なバイアスは価格に影響を与える」という一文です。これは、市場参加者の判断には偏りが常に生じており、最終的にはそのバイアスは修正されると指摘しています。
今のような相場を乗りこなすには、この相反する2つの格言と名言を正しく理解する必要があります。市場の動きはその瞬間のモメンタムを正しく示していることが多く逆らうのは簡単では無いけれど、いずれはそのトレンドを作り出したバイアスの掛かった市場関係者の投資判断は修正される必然性があると解釈するべきかと思います。この解釈を踏まえ我々投資家がすべき単純なことが、バフェットの言葉の中に示してありました。
「われわれがすべきことは単純だ。他人が強欲なときに臆病になり、他人が臆病な時に強欲になりさえすればいい」
株価が強く上昇している初期の市場の動きは正しい動きだといえるでしょう。しかしながらそれが長く継続するとそれに乗じて他人が強欲になり、さらに利益を追求すればするほどバイアスの掛かった投資判断を行うようになるでしょう。その結果、大事なマイナス要因を見逃し、いずれ本来の価値から大きく乖離した反動により損失を出すこと市場が間違っていることをはじめて思い知ることになります。その時に大きな損失から免れるための心構えとしてこの言葉があります。
他人が強欲になりすぎているときや臆病になるすぎているときこそバイアスの修正、つまり市場の修正に対して備えるべきです。少し冷静に保有ポジションを調整したり冷静に市場分析を行うことでこの心構えを厳守していくことが大切です。
有名アナリストやストラテジストが年初から大きく予想を外している2019年。冷静に市場に立ち向かいましょう。

渋谷 豊

ファイナンシャルアカデミー総研代表 、ファイナンシャルアカデミー取締役

シティバンク、ソシエテ・ジェネラルのプライベートバンク部門で約13年に渡り富裕層向けサービスを経験し、独立系の資産運用会社で約2年間、資産運用業務に携わる。現在は、ファイナンシャルアカデミーで取締役を務める傍ら、富裕層向けサービスと海外勤務の経験などを活かした、グルーバル経済に関する分析・情報の発信や様々なコンサルティング・アドバイスを行っている。慶応義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。
ファイナンシャルアカデミーグループ総研 http://fagri.jp/
ファイナンシャルアカデミー http://www.f-academy.jp/

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