世界一の富豪女性リリアンヌ・ベタンクールに学ぶ 女性リーダーの成功学

スーパースターのお金の流儀
世界長者番付で2013年以降女性として常にトップに輝いてるのが、「ロレアル」の総帥リリアンヌ・ベタンクール女史です。裕福ながら決して順風満帆ではなかった彼女の人生を支えたのは、尊敬する父親の教えでした。化粧品業界で世界一の企業に押し上げた女性の秘密を探ります。
2018.9.3

生い立ちと父の影響

リリアンヌ・ベタンクールはロレアルの創始者ユージェンヌ・シュラーとルイーズ・ドンシューの一人娘として1922年パリに生まれます。裕福な環境ながら5歳の時母親を病いで亡くし、企業を引っ張る父親は朝から夜中まで仕事に追われる毎日で、小さなリリアンヌに構っている余裕はありませんでした。
リリアンヌの思春期には、父親が複数の女性と付き合うのを目の当たりにしても、反感や嫌悪を抱くことなく、忠誠的なまでに父親を敬愛していました。父親は男尊女卑の傾向が強く、「女は家を守るもの」という父権主義にこだわり、リリアンヌを大学に行かせず、自社でも彼女に責任ある地位を与えることはありませんでした。
この男性至上主義の父親の影響が、後に彼女の企業への取り組みに反映し、プライベートでのスキャンダルをも招いていくことになるのです。

企業のグローバリゼーションとマルチナショナル経営の理由

世界で初めて髪の染色技術を開発・販売して成功したロレアル社で、15歳から見習いとして働いたリリアンヌは、1950年、ロレアルの幹部で政治家として活躍していたアンドレ・ベタンクール氏と結婚します。夫は第2次世界大戦中、反ユダヤ主義としてナチの協力者でありながら、戦局がフランスに傾くとレジスタンスに鞍替えしたため、夫の「風見鶏」の悪評は結婚後のリリアンヌにも付きまといました。
1957年に父親が亡くなると一人娘のリリアンヌがロレアル株など全財産を相続し、夫が外務大臣になると一躍社交界へと躍り出ます。米女優のエヴァ・ガードナー似と評判の美しく知的なリリアンヌは、ロレアルのアンバサダーとして「女性」を武器に宣伝塔の一躍を担っていきます。
戦後、ランコム、クレージュなど国内資本のみを買収してきたロレアル社ですが、1974年、同社が国有化の危機に立たされた時、外国株であるスイスのネスレ株4%を保有することで国有化を免れることができました。フランスでは100%フランス社でなければ国有化できないからです。
この時は左派の社会主義政権に自社資本を利用されることを嫌うリリアンヌが、友人のポンピドー元大統領など右派の幅広い交友関係から協力を得ることとなったのです。1986年にロレアルが世界一の化粧品会社に成長した背景には、こうした彼女の政財界のコネを巧みに駆使する社交術が躍動しているのです。
同社は2004年にネスレ社と合併し、国有化の脅威から免れるため、2009年以降マルチナショナル経営を選択していきます。

晩年のスキャンダル

リリアンヌが父親から受け継いだのは巨万の富だけでなく、「女は男に奉仕するもの」という男尊女卑の父親の教えをそのまま受け継いでいきました。その「遺産」があだとなったのが最初のスキャンダル「バルニエ事件」です。
父親の教えは彼女の中で「富は男性のために使われるもの」と解釈され、若い写真家のバルニエ氏に巨額の投資をしていたのですが、2007年リリアンヌの夫が亡くなるとその翌年、彼らの実娘が「既に始まっていたリリアンヌの認知症をバルニエ氏が利用し献金を不正操作した」と訴訟に出たのです。
「男性に貢ぐ」癖は政界スキャンダルにも及び、政治家のワース予算大臣への不正献金やサルコジー大統領の選挙資金不正献金疑惑などスキャンダルにもまれました。「有能な男性に奉仕する」という父親譲りの彼女の信念は、皮肉にも政権争いに利用された形となったのです。

未来を見据えた慈善事業

フランスには「ノブリス・オブリージュ/高貴に伴う義務」という伝統があり、地位・権力・資産を持つ者はその責任を義務として果たさなければなりません。リリアンヌは夫と共に1987年に「ベタンクール・シュラー基金」を設立し、医学の発展に寄与し、特にエイズ研究ではその活動が評価されレジオン・ドヌール勲章を受章しています。2010年にはフランス国内では最大の552億を同基金に投じています。
その他にも教育、環境、芸術など様々な分野で慈善事業を展開し、2017年彼女が逝去した後もその遺志は受け継がれ、世界的、宇宙的な視野で未来の幸福と平和に貢献しているのです。

まとめ

成功する人は得てして、不幸な要因をマイナスととらえず、負のサイクルに陥ることなく幸福へと転換させる人が多いようです。父親から譲り受けた会社を世界一に導いた、世界一の富豪女性リリアンヌ・ベタンクール女史もまた、実質的な両親不在という不幸な幼少時代や複雑な思春期を少しも「不幸」ととらえず、理不尽に思われる父親の「男尊女卑な教え」でさえ素直に自分の中で消化し活かしています。それは働き者であった父親を尊敬し、「与えられたことを忠実にこなす」という彼の教えを敬意を持って守っていたにすぎないのです。女性としての立場を賢く利用し、華やかに昇華させたベタンクール女史は、今後益々社会進出してくるであろう女性のリーダーたちに、指標となるヒントを与えてくれるでしょう。

エリカ・ド・ラ・シャルモント

フランス、パリ在住。
公職における本職の他、サイドビジネスとして翻訳・通訳・コーディネーター・ライター、
またフランスで不動産業を手掛け、フランスの雑誌編集にも携わっています。

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