一番贅沢な納涼。この夏「異世界の住人」をじっくり感じてみよう。

カルチャー
毎年この時期になると、美術館に姿を現すのが「異世界のもの」、幽霊や妖怪たち。
今年も、日本各地で彼らがうごめいています。
2019.8.19

隣にいる「異世界のもの」たちを感じる

美術展だけでなく、テレビやネット界でも、夏になると急に彼らの目撃談が増えます。暑い季節、怖いものにあえて接して、鳥肌体験で涼もうという先人たちの知恵が、この現代社会にも生きているというのは、なんだか不思議で微笑ましいですね。
日本では、古事記の時代から語られている幽霊や妖怪の目撃談。「人知を超えた存在」への畏れから生まれた彼らは、中世以降、その姿が画として表現されるようになります。
同じ「異世界のもの」といっても、大きく分けると系統は2種、“幽霊”系と“妖怪”系といっていいでしょう。
“幽霊”は、ざっくり定義すると、この世に怨みや未練を残した人間の魂が見える形となったモノですね。「ああ、この気持ちわかってほしい。恨めしや」という明快な目的?をもってあの世からこの世の人間たちの前に出てくるわけで、描かれる作品も、人間の姿をとどめた恨めしさ満載のおどろおどろしい姿が多い。
対して、人、動物、鍋や傘、木や水・・・“妖怪”の姿のバリエーションたるや。
海・山など大きな自然が変化した巨大生物系やら、「長く生きたら言葉を話せるようになりました」という獣たち・日用品ツクモ神系やら、もし当時科学捜査があったら絶対に誰か捕まっていたのでは・・という謎の事件の犯人とされた怪獣系やら。
人に悪さをして成敗されるものもいますが、ただただそこにいるだけだったり、人を驚かせるだけだったり、思わず「・・・で、何?」と突っ込みたくなる存在も多いのです。
この憎み切れないひとたらし感で、畏れ愛され続けるモノたち。
古代の説話から、昭和の鬼太郎、平成のじばにゃん・・・。幽霊のいる異世界が「この世に対する“あの世”」であるのと違い、妖怪のいる“異世界”は、昔も今も、わたしたちの住む世界と、常に同じ界隈に、重なって存在しているようです。
驚かそうと後ろで待ち受けてくれていたのに「ああ、メール返信しなきゃ」「原稿書かなきゃ」と頭がいっぱいで、冷たく無視してしまっていたかも・・・!ごめんなさい。
幽霊や妖怪で納涼するには、まずは彼らを感じる事ができる心の隙間、余白が前提。実は贅沢で豊かな体験なのかもしれませんね。

東京・原宿の「異世界」を覗こう

この夏大都会の真ん中にぽっかり出現した「異世界」を一か所ご紹介しましょう。
『異世界への誘い ―妖怪・霊界・異国』展。
場所は、浮世絵コレクションで名高い、原宿の太田記念美術館です。妖怪、霊界、異国という3つのキーワードを通じて、「あっちの世界」を覗ける展覧会。こじんまりした美術館で、なんともちょうどよい異世界サイズですよ。
冒頭の画像、今回は展覧会のチラシです。
この作品は、歌川国芳『東海道五十三対 桑名 船のり徳蔵の伝』。
“桑名屋徳蔵という船乗りは、大晦日には船を出さないという決まりになっていたにも関わらず、船を出したところ、沖で巨大な海坊主に遭遇してしまいます。海坊主は自分のことが怖くはないのかと徳蔵に尋ねますが、徳蔵は世の中で生きていくことの方がよほど怖いと答えます。すると海坊主は恐れをなして消え失せてしまいました”
(太田美術館公式サイト「見どころの作品」より)
恐れをなして消え失せちゃったのですね・・・
異界のものへの畏れと、親近感の絶妙な融合。このバランスが作りだすひんやり感を、是非味わってみてください。

『異世界への誘い ―妖怪・霊界・異国』展  太田記念美術館
公式サイトhttp://www.ukiyoe-ota-muse.jp/exhibition/isekai
所在地:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-10-10

開催期間:2019年8月2日(金)~8月28日(水)
開館時間:午前10時30分~午後5時30分(入館は午後5時まで)
休館日:8月5、13、19、26日
入館料:・一般700円  ・大高生500円  ・中学生以下無料
*中学生以上の学生は学生証をご提示下さい。
*団体(10名以上)は1名さまあたり100円引き。 (一括にてお支払い願います。事前のお申し込みにご協力ください。)
*障害者手帳提示でご本人とお付き添い1名さま100円引き。
*その他各種割引についてはお問い合わせください。
*料金は消費税込み。

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かってんともこ

広告業界スタートから、美術展の世界に。美術展用映像・デジタルコンテンツ企画製作。こんなに心豊かになれる仕事が他にあるだろうか、と日々嬉しい美術展のクロコです。

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