本格的なAIによる投資時代の始まり

金融リテラシーで変わる社会
私たちをとりまく社会はいま、大きく変化している。大企業に新卒で採用され、定年を迎えるまで勤め上げれば定年後は安泰。そんな少し前まで当たり前だった人生はもう夢物語だ。【連載】金融リテラシーで変わる社会(第4回)
2017.3.6

ゴールドマンサックスアセットマネジメントが2月24日に新規設定したAIによる判断で運用を行う投資信託が数日で1,000億円を越える金額が販売されたことが話題になっている。「AI関連企業に投資する投資信託」は数多くあり、機関投資家向けにはAI運用の投資信託は既に存在していたが、個人向けの「AIが運用する投資信託」が1,000億円を集めたのは注目に値する。

実は「AIによる運用」と言えば最先端の投資技術の様にも聞こえるが、投資の世界では「クオンツ投資」と呼ばれ数十年前より運用がなされており、新しい技術とは言いづらい。80年代にはエキスパートシステムと呼ばれる、投資のプロのノウハウをプログラム化し、自動的に売買をさせるシステムが話題となった。これはFX等の世界でEAと呼ばれるものと同じものだ。2000年代後半には東京証券取引所がアローヘッドと呼ばれる取引の高速処理システムを導入したこと、また売買単位を小さくしたこともあり、日本においても市場を自動的に分析して、自動的に1秒に何度も売買を行うような高頻度取引や超高速取引を機関投資家が行うようになった。そして2010年代に入りAIへの脳科学の技術が導入されたことでディープラーニングと呼ばれるAIの自己学習が始まり、またビッグデータと呼ばれる大量のデータを分析する手法の確立が行われ、クオンツ投資に大きな変革をもたらした。現在、話題となっているAIによる運用については、この「ディープラーニング」と「ビッグデータ」がカギとなっており、メガバンク、特に三井住友フィナンシャルグループが力を入れ始めている。

従来のエキスパートシステムをはじめとするクオンツ投資については、運用に関するルールは人間が設定しており、高度なものであっても各種指標の数値データを取り込み計算する定量的な分析が主流となっていた。もちろんGDPや売上高、利益率といった指標は投資の上で極めて重要だ。しかしそれらは数ヵ月に一回、指標によっては1年に一回しか発表されない。一方で株価は日々動いており、日々のニュースや噂といった定性的な情報で大きく変動しているのが現実だ。これまでは定性的な分析──「このニュースで株価がどのように動くか」といった判断については、自動化が難しく、人の手によって分析を行っていた。これを自動化させたのがディープラーニングである。過去、どのようなニュースで株価がどう動いたかを分析し、その分析結果を基に、新しく出たニュース記事を分析し、将来の株価の変動を予想し投資を行う。この過去の株価の変動推移による分析と予想を常に更新し続けることで自ら精度を上げ続ける。今日より明日、明日より明後日、と分析能力が向上し続けていく。

同時にカギになっているのがビッグデータだ。前述のニュース記事だけでなく世の中にあふれる膨大な情報を一瞬で分析を行う。決算発表やアナリストレポートといった公式な情報だけでなく、投資家などによるブログやツイッター上の書き込みさえも瞬時に把握し分析して投資を行う。この膨大なデータを背景とした投資判断、注文まで1秒もかからず、情報が世の中に出た次の瞬間にはもう発注まで終わっている。人では絶対に太刀打ちできないスピードで情報収集と意思決定、発注を行うのだ。そしてその精度は常に向上し続けていく。

かつて東京茅場町には大小の証券会社が軒を連ねていたが、2010年頃の東証のシステム変更に伴い多くの株式ディーラーが職を失い、また70年近い歴史のある証券会社が証券業から撤退。株式取引の前提が大きく変わった。そして2017年、AIが膨大な情報量とその分析力で運用の世界に本格参入し始めた。人はAIに投資で勝つことができるのか、このAI運用の投資信託の運用成績が注目されると共に、これら新しいテーマで設定される投資信託等の目利きをしっかりとできる様に、金融知識を一人ひとりが身につけ、絶え間ない知識の更新をしていく必要が更に高まってきている。

岸 泰裕

金融工学MBA、大学非常勤講師

大学卒業後、Citiグループの日本における持株会社に勤務。在籍中に金融工学MBAを取得する。その後スタンダードチャータード銀行の東京支店に転職。現在は金融機関を退職し、明治大学、名古屋商科大学、龍谷大学や企業研修・セミナーなどで金融論等について各種講義を行っている。

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