米国中間選挙は貿易摩擦とドル安を引き起こすは本当なのか?

「額歴」がぐんぐん上がる経済ホットレ
米国の中間選挙と言えば、「貿易摩擦」と「ドル安」というイメージがつきものです。でも、その背景については様々な理由があるとされていますが、今日はその背景をSTAGE風に読み解きます。
2018.4.16

中間選挙とドル安

4年に一回、米国中間選挙の年のドル円相場はどうなるという話が出ていきます。そこで改めて、直近10回の中間選挙年のドル円相場を調べてみると(調べ方は、その年の年始のドル円レートから年末のドル円レートを比較しています。)、ドル安(年始より年末のドルが安い)は8回、ドル高(年始より年末のドルが高い)は2006年・2014年のたったの2回となり、やはり世間で言われている通りドル安になる傾向が強いと思います。ちなみに、2006年のドル高は約1円だったこと、2014年は歴史に残る日銀の円安サポートがあったことを考えるとさらにその感覚が強くなります。
では、このドル安はどのような理由で起こっているのでしょうか。よく新聞や記事で使われる説明としては、自動車・製造業などの米国輸出業者の大票田を得るために、人気を得る策として大統領とホワイトハウスがドル安を志向するからであるというものです。
確かにこの理由は説得力があるのですが。冷静に見ていくと、そもそも1971年から2011年までの約40年は長きに渡って360円から77円75銭まで超ドル安円高時代だったので、円高の年が多いのは当然といえば当然でもあります。

中間選挙と貿易摩擦

さて、中間選挙における人気取りはドル安志向だけには留まりません。もう一つは貿易摩擦です。トランプ大統領は、白人の労働者階級の支持を集め大統領に就任したといわれています。そのことをよく理解しているトランプ大統領は、今年は特に「米国の富をうばった外国人」=「貿易黒字国」という構図で、貿易摩擦を大義名分とした「ゆさぶり」で中間選挙に向けて支持率浮上の政治戦略にしていくことでしょうか。
では、本当に貿易摩擦、貿易戦争は激化していくのでしょうか。米商務省が2月6日に発表した2017年の貿易統計によると、モノの貿易赤字は7962億ドル(約87兆円)と前年比8.1%増え、その約半分を中国が占めるというものです。ちなみに、対中国の赤字は過去最大、対日本の赤字は横ばいでした。この記事だけを見ると、中間選挙も控えているし、益々貿易戦争が広がりそうだと思うかもしれません。
しかし、あるレポートに大変興味深い記述がありました。中国からの輸入増加が米国政治にも大きな影響を及ぼしていているというものですが、
・中国からの輸入品で競争にさらされた州(選挙区)では、保護主義を掲げる候補への支持が圧倒的に高い
・トランプ大統領が勝利した 2016 年の米大統領選において、もし中国からの輸入額が半分に収まっていれば、接戦州であった3州でトランプ大統領が敗退していた可能性が高い
と分析されています。
このようなレポートを見てふと思うことがあります。確かに「貿易黒字国たたき」の旗は必要であるから掲げるけれど、もし、強硬な通商政策により米国の赤字額減少を本当に実現できたとしましょう。そうなれば、接戦州の票がトランプ大統領に向かわないという矛盾が起こるのではないかと。だからこそ、黒字国を叩いて選挙を勝ち抜くためにパフォーマンスは必要だけど、実現してはイケないという矛盾を抱えながら、今回の米中交渉は進められているのではないかと。

貿易黒字額が減少すると円安になる?

米国から見れば日本に対しても、「貿易黒字削減」と「ドル安円高」を要求していくるでしょう。しかし、これには教科書的には矛盾があることなんです。貿易黒字である日本企業は多くの外貨を保有しており、そのほとんどは、米ドルです。企業はその外貨を設備投資、社員への給料などの企業活動に使うため、ドルを売却して円を買うという両替をしなければなりません。そうなると、貿易黒字が拡大すればするほど円高(ドル安)になるわけです。
でも、トランプ政権はドル安&貿易黒字減少を言ってくるでしょう。でも、上記の説明の通り貿易黒字の減少は、ドル売りの減少とイコールなので両立が教科書的には難しいといえます。
このように分析をしていくと、世間で言われていること以外にも事実がありそうです。
・中間選挙におけるドル安は、長年に渡るドル安の影響だけかもしれない
・中間選挙における貿易摩擦の激化はパフォーマンスで実現したらそれはそれで米国大統領が困るかもしれない
・貿易黒字削減を日本に要求すると、結果ドル高が進み、米国企業に悪影響を与えるかもしれない
ただし、このような視点は一人一異なります。この私の視点が正しいとは限りません。だからこそ、このような視点を読者のみなさんにも独自で持っていただきたいと思います。ただ「貿易戦争だ、円高だと」ニュースに煽られないで、自分なりの米国中間選挙論を作り上げましょう。

渋谷 豊

ファイナンシャルアカデミーグループ総合研究所(FAG総研) 代表、ファイナンシャルアカデミー取締役

シティバンク、ソシエテ・ジェネラルのプライベートバンク部門で約13年に渡り富裕層向けサービスを経験し、独立系の資産運用会社で約2年間、資産運用業務に携わる。現在は、ファイナンシャルアカデミーで取締役を務める傍ら、富裕層向けサービスと海外勤務の経験などを活かした、グルーバル経済に関する分析・情報の発信や様々なコンサルティング・アドバイスを行っている。慶応義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。
ファイナンシャルアカデミーグループ総合研究所 http://fagri.jp/
ファイナンシャルアカデミー http://www.f-academy.jp/

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