外貨取引サービスを提供するマネーパートナーズグループの代表取締役社長、奥山泰全氏にビジネス成功の秘訣をお聞きします。まずは、同社社長就任以前のキャリアから、振り返っていただきました。
お金って、仕事って? 悩んだ末に行き着いたのが「投資」
STAGE編集部:金融に興味を持たれたのは、いつごろからですか?
浪人生時代に日本史を専攻していたんですが、直近の近代史が好きだったんです。たった1人で鉄道王国を作った東急の五島昇さん、西武鉄道や西武デパートを作った堤康次郎さん。当時、まったく知識がないなかで大成功した人たちを知って「すごい」と冠名を受けました。
特に影響を受けたのが、国際興業グループの創設者、小佐野賢治さんの言葉です。「貧乏人が金持ちになるための日本で数少ない手段のひとつは資本の仕組みを理解することだ」という彼の言葉に触れて、そうか、日本は資本主義だから資本のことをわかっていないと、成功できないんだと思ったのが金融に興味を持ったきっかけです。
当時僕は、卒業したら8割くらいが就職していくような田舎の高校に通っていました。ビリから数えたほうが早いような成績でしたが、1日22時間、死ぬほど勉強して、2年がかりで慶応義塾大学に入ったんです。
入学したまではいいのですが、慶応にはお坊ちゃまやお嬢ちゃまが多くて、持つ者と持たざる者の差を露骨に感じました。あるとき、友だちから蕎麦屋に「車でいこう」って誘われたんです。それが、親父にプレゼントされという1,000万円以上する外車で。普段、僕は牛丼300円とかで昼飯を済ませてたんです。周りと同じようにキャンパスライフを送っていたら一生勝てない。スタートダッシュするしかないと思って、大学1年の夏前に、ビジネスをはじめました。
いろんなことをしましたね。モデルエージェンシー、下着メーカーの社長、日本テレコムの営業代理店、化粧品販売やビジネススクール。ソニープラザにテディベアを卸していたこともあります。
STAGE編集部:その後、個人投資家となられるわけですが、投資を始めるきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?
ビジネスをする中で、お金って、仕事って何だろうと悩んだ時期があったんです。原価が3万円でも3万円でやると儲からないですよね。自分がお金持ちになるには、4〜5万円で売らなければならない。でも、「3万円で仕入れられるなら3万円で売ってあげればいいじゃん」っていう思いをぬぐい去れなくて。
そんなときに、投資なら、どれだけお金を稼いでも後ろめたくないと思ったんです。買う人も売る人も「この株はこれから上がる、いや、下がる」と一生懸命考えた末に意思決定をするわけです。あなたも僕もリスクとっていた、という点でフェア。だから、まだ大学生でしたが、投資家としての道を極めたいと思いました。
僕の投資の師匠は、石田衣良さんの小説「波うえの魔術師」に出てくるじいさんのモデルとなった林輝太郎さんです。彼に習うことで、投資ってシンプルなんだと気付きました。安く買って高く売り、高く売って安く買えばいい。海でいうと、波がどのくらい高くなるか低くなるか、どんな波が押し寄せるかは分からない。でも、自分の泳ぎ方次第なんです。
求められることに応える姿勢が、マネーパートナーズを上場に導いた
STAGE編集部:どのような経緯で個人投資家から、マネーパートナーズの社長になられたのですか?
ある金融機関で、システムを直すのを手伝ったことがきっかけです。直し終わったら、社長に「奥山さん、何かやりたいことありますか」と聞かれて。そこで日経平均のオンライン取引システムを作ることになったんです。それが出来上がったのが2002年。SBI証券(当時のイー・トレード証券)やマネックス証券からそのシステムを使わせてほしいという依頼をいただいて、貸し始めました。 当時は、日経平均を取引する個人投資家のほぼ100%が僕の作ったシステムから発注していましたね。
2005年にはその会社が上場したので、僕は個人投資家に戻ろうと思っていたのですが、「業績が傾いている会社があるから面倒を見てもらえないか」と声をかけていただいて。それがマネーパートナーズです。2006年7月に顧問に着任して、1〜2ヵ月で黒字化しました。そしたら、次は「上場させてほしい」と。お客さんのためにできることをしっかり取り組める環境を作ってもらえるなら受ける、という条件で2006年8月に社長になりました。それから10ヵ月で上場させ、10年が経ちます。
STAGE編集部:どうやって、1〜2ヵ月という短期間で黒字に戻したのですか?
売上は1億円なのに、1億5000万円の経費がかかっていたんです。そのうちほとんどが広告、つまり外に出ているお金でした。1億円の売上は、自社で取引してくれているお客さんたちが作ってくれているのに、新しいお客さんのために広告を打って赤字になっている。ここに矛盾を感じて、広告宣伝費をカットしたんですよ。反対されても、とにかくゼロにした。すると1億円が残るわけです。
さらに、FX業界の国内大手では初めて手数料をゼロにしました。かなり議論はしましたが、広告費で5000万円の赤字を出すぐらいなら、3000万円をお客さんに還元するべきだと。すると、翌月からもどんどん経常利益が出て、半年で10億円。既存のお客さんたちの声に応えようという姿勢が、お客さんに響いたんだと思います。
遠回りでも、歩みは遅くても、止まらず進めばたどり着く
STAGE編集部:「お客さんのために」ということを常に重視されていますよね。
そうですね。サブプライムショックで損を出したお客さんに「100万円入金してくれたら1万円をプレゼントします」というキャンペーンを実施したことがあります。入金目的ではなくて「サブプライム、大変でしたね」というねぎらいを伝えたかったので、新規で口座を作る方は対象外。
数十万円、数百万円を損した人が1万円をもらっても、本当は焼け石に水なんです。砂漠でペットボトルの水を1本もらったところで、すぐになくなる。でも、荒涼とした砂漠の中で「あのときになけなしの水、ペットボトル1本だったけど、もらったな」って、僕なら覚えているなと思ったんです。
なかには、がめつく1万円だけもらってすぐに出金する人もいましたが、結果的にはどこの会社よりも早く売上が回復しました。
今、お客さんはどう思っているだろう。喜んでいるのか、悲しんでいるのか。どうすれば笑顔にできるだろう。そんなことを考えながら取り組むことが、ここまでの道のりに、プラスになっています。
STAGE編集部:イノベーションを起こすってとても大変だと思うのですが。
ビジネスって、予定調和でうまくいくものじゃないですよね。でも、どこがだめだったんだろうって考えて直していくと、少なくとも前よりよくなります。またうまくいかなくなって、また直して、またよくなる。直し続けると、よくなり続けるんです。止めると次はないですよね。最初から成功する人なんていない。今できることのすべてを、やり続けていけば必ずいい結果が手に入ります。
STAGE編集部:社是「Don’t stop」にも共通しそうですね。
これは「shouldn’t stop」でも「wouldn’t stop」でも「won’t stop」でもない。「never」でもなく、「Don’t」です。「進め進め」じゃなく、「止まらない」っていう社是です。
リーマンショックや東日本大震災など、今までたくさん「諦めなきゃいけないのかな」と思う瞬間がありました。でも 時速1キロでもいい。進んでさえいれば、必ずいつかゴールにたどり着けます。やめたり、止まることが一番ダメだと思います。シンプルだけど、「Don’t stop」っていう社是に込めた想いは強いですね。
ビジネスはとにかく速く、と言われますよね。でも、即断即決が必ずしも正しいわけではない気もするんです。熟慮して判断しなければならないときもある。とくに、管理職や経営層やマネージメント層は、スピードより、いかに英断をするかだと思っています。
「お金より大事なものがある」と誰もが胸を張れる社会へ
STAGE編集部:これまで個人投資家として、金融機関のトップとして過ごしてきた中で、ズバリ「お金」とは何だと思いますか?
お金がすべてではないですよ、世の中。お金より大事なものなんて山ほどあります。ただ、満足にご飯が食べられない、住む家がない、子供の養育費用が用意できない状況で「お金がすべてじゃない」とは言えないですよね。お金の話をするのは下賤なことだという人もいますけど、生きていく上で基本となるのがお金なんです。
お金はただの紙切れだけど、その紙切れにプライドを乗せなきゃいけない。自分の力で、社会に胸を張れる状態で、フェアにお金を稼げて、お金に困らない状態を作り出せている。そうなってはじめて「お金より大事なものはいっぱいある」と言えるのではないでしょうか。
だから、自分の力で、自己責任で稼いで豊かになる人が、ひとりでも多く育ってくれたらというのが僕の願いです。資産運用を通じて、日本人全員が自己責任の感覚をきちんと持つ。この文化が根付けば、社会はとてもよくなると思っています。