西野亮廣にとってのお金とは?
STAGE編集部:個人で活動されたりクラウドファンディングでお金を集めたりされているからこそわかる、西野さんにとってお金とはなんでしょうか?
「信用」ですね。みんな言ってますけど、それでしかないですね。信用の面積を数値化したものがお金なんだから、信用の面積がないことにはお金になりませんね。お金がない人、お金をつくりにくい人は、信用がないということです。逆に信用があれば、お金はつくりやすいということです。
STAGE編集部:信用というのはどのように築いて、お金に替えていくものなのでしょうか?
ホームレス芸人の小谷(こたに)(真理(まこと))というやつがいるんですけど、そいつは自分の1日を50円で売っているんですね。今の社会で言ったら、1日50円って超ブラック企業じゃないですか。みんなぶうぶう言うじゃないですか。でも小谷は全然それでよくて何でもするんですよ、本当に。
例えば草むしりを依頼すると、小谷は朝から一生懸命草むしりをするんですね。本当に一生懸命草むしりをするので、昼頃になると小谷のことを買われた方は、さすがに最初50円で買ったけど申しわけないからって昼ご飯ぐらいごちそうされると思うんですよ。で、小谷は昼ご飯をごちそうになって、そこからまた夜まで一生懸命草をむしるんですね。さすがに朝から晩まで、30越えたおっさんを50円で買っちゃったら申しわけないって、多分夜ご飯もごちそうされると思います。
で、昼も夜も一緒にいると仲よくなっちゃって「飲みにいこうか?」みたいな話になる。昼代出しているし、夜代出しているし、飲み代出しているし、結構お金出しているんですけど、最終的に小谷を買った人の中に何が残っているかといったら、「小谷君、今日50円でこんな働いてくれて、本当にありがとうね」みたいな気持ちです。
もし入り口の設定を1万円にしていたら、ごはん代も出ていないし、それぐらいやって当たり前でしょうという関係で終わっていた。でも小谷は値段と全然合わない、もうとんでもない働きぶりをするするから、すげえ感謝されて、すげえ恩を受けて、どんどん信用の面積を広げていったわけです。
その生活をずっと続けていって、半年経ったときに名古屋で鬼ごっこの人数合わせで来てくださいという依頼があって50円で名古屋まで行ったんですよ、ヒッチハイクで(一同、笑)。
そこで鬼ごっこをして、そのとき会った女の子と結婚することになったんですよ。でも結婚式を挙げる費用がないと。1日50円だから1ヵ月マックスで働いても1,500円なんですよ! 無理ですよね。「じゃ、クラウドファンディングで結婚式の費用を集めようか?」となって、「浅草の花やしきを貸切にして、ホームレス小谷の結婚式をやります」と1口4,000円で募集したら、2、3週間で250万円ぐらい集まったんですね!
小谷はお金持ちではなかったけれど、“信用持ち”だったわけです。今、僕が一番面白いアーティストは誰ですか?と聞かれたら、間違いなく「小谷」と答えます。お金というものが生まれて、初めてお金の正体を自分の生き方で体現したんですから。こんなに面白いアートはないですよね。だからお金は信用だというのは、小谷を見たらすごくわかりやすいと思います。
信用には正しい貯め方、使い方がある
僕、生活費は全然要らないんですよ。大分前に家を買っちゃったし、そばしか食わないし、同じ服しか着ないし、ギャンブルしないし、ゴルフもしないし。飲み代ぐらいですね。だから月10万円ぐらいあったら十分過ぎるぐらい生きていける。ただ生活費は要らないですけど、制作費は欲しいんですよ。映画作るときの10億円とか欲しいですね。ディズニーを倒すって決めているんで(笑)。そうなったとき「10億円くれ」と言ったら、10億円もらえるやつになっておきたいと思うんです。それに見合うだけの信用の面積を広げておかないと、と思っています。
で、あるときから、銀行通帳みたいな感じで「信用通帳」をつけています。どこで信用を貯めて、どこで使うかというものです。
去年の夏に独演会をやったんですよ。4,500人集まるトークライブで、プロのジャズピアニストの生演奏を入れて、むちゃくちゃセットを作り込んで、照明と音響の設備を全部仕上げてやって、普通ならチケット代5、6,000円でようやくペイする規模のイベントです。
でも、小学生とか中学生とか高校生とか、ちょっとお小遣い貯めたら来られるぐらいにしておきたいなと思ったんで、チケット代を2,000円にしたんですね。チケット4,500枚全部売れたんですけど、全く元が取れなかったわけです。でもそれでよくて、お客さんはバカじゃないから2,000円で何が経験できるかというのを知っているんです。なので、このライブが2,000円のわけがないということもわかるんです。すると4,500人の人たち全員が「いいの?本当にありがとう」って言うんで「かまへんかまへん」と。
その1カ月後に絵本のクラウドファンディングをしたら、ライブに来た4,500人の人が何か恩を返さなきゃいけないと一気にバッと支援してくださって、4,600万円ぐらい集まりました。
ライブで信用の面積を貯めておいて、ここで使ったわけですね。もちろん乱暴に使わないということが大切です。お金が底を突くように、信用もやっぱり減るから。
今、誰でも本屋さんが出店できるプラットフォームを作ろうと思って、クラウドファンディングをスタートしたんですね。最初の1週間ぐらいで800万円ぐらい集まったんですよ。多分そのままやったら3,000万円も4,000万円も集められたと思うんです。でも、これは800万円でできることだったので、これ以上乱暴に集めちゃだめだということで、そこでストップしました。
信用あってのことですから、とにかくウソをつかないことが大事です。怒っているときは怒るし、ムカついたら帰る、まずいものはまずい、嫌いな人は嫌いと。ウソをつくのが一番よくない。そうしていたら、いつか10億円欲しいときに10億円もらえるんじゃないかと思っています。
STAGE編集部:預金と同じように、信用もいい使い方をしているときっと複利で増えていくんでしょうね?
確かに、そうですね。ちょっとそれいただいていいですか? 次どこかのインタビューで僕がそれ言います!(一同、笑)
お金とは、信用。(西野 亮廣)