世界の見え方はSTAGEごとに違う~『お金原論』[第12回]〜

「お金原論」という新しい学問
「お金」とは何か ── 。このシンプルな命題に、現代の視点から向き合おうというのが『お金原論』という新しい学問だ。現代において、私たちの生活とお金とは一蓮托生だ。お金の悩みから解放され、自由な時間を産み出し、心に描く夢のライフスタイルを実現したい。そんなあなたへ。
2017.12.19
『お金原論』という本の命題は、「お金とは何か」ということ。
「お金」という軸を通じて自分自身をニュートラルに見ることができれば、人生をもっともっと楽しめるようになるだろう。
これから毎回、『お金原論』の中身を少しずつ伝えていく。すべてが賛同を得られるものであるという確信はない。しかし、生活や人生と切っても切り離せない「お金」というものについて、1人でも多くの人に「お金とは何か」という議論に加わっていただければ幸いである。

世界の見え方はSTAGEごとに違う

地球上には、人間をはじめとする哺乳類、両生類、昆虫類、魚類など、さまざまな生き物が生息している。ある研究によると、同じ世界に生きていても、人間と動物、小さな生き物では見え方が大きく異なるらしい。
シマウマなどの草食動物は、眼が頭部の左右の側面についているために、パノラマ写真のような風景の世界に生きている。犬や猫から見た世界は全体的に青っぽい緑色で構成されている。蛇は眼でも熱を感知することができるため、人間にとっては真っ暗な夜でもサーモグラフィーのように景色が見えているらしい。
眼にたくさんのレンズがついている昆虫は、紫外線レンズを通したような状態で世界が見えているといわれている。たとえば、モンシロチョウは雌に比べて、雄のほうが強く紫外線を反射する。したがって、私たちの眼には雄も雌も同じように映るが、モンシロチョウの視界で見れば、雄は黒く、雌はより白く見えているというのだ。
では、人間はみな、同じヒト科に属している動物なのだから、見えている世界は同じなのだろうか。
答えは否、である。
あなたの周りに、こんな人はいないだろうか。
月曜日の朝。起きがけに「週末が終わってしまった。また今日から1週間仕事に行かなくては。嫌だなぁ」と憂鬱な気分になる。寝ぐせのついたボサボサの頭のまま、とりあえずテレビのスイッチを押す。流れてきたのは、タレントの◯◯さんが5億円の豪邸を建設中らしい、◯◯で殺人事件が起こったが原因はどうも保険金狙いらしい、といったワイドショー。それをぼーっと眺めながら、昨日の夜の残りのスナック菓子を朝食代わりに食べる。
ぐだぐだとテレビを見ていて、ふと時計に目をやると、家を出なければならない時刻が迫っている。慌ててスーツを着て、早足で駅へ。危ない、この電車を逃したら遅刻するところだった。
会社までは電車で45分ほど。やることがないので、暇つぶしにスマートフォンでキュレーションサイトを片っ端からチェック。でも、今朝はそれほど面白いネタがなかった。一通り見終わってしまったので、今度はアプリを立ち上げてゲームに熱中する。
最寄り駅に到着すると、高校生が募金活動をしている前を通り過ぎ、会社へと急ぐ。なんとかギリギリ始業時間に間に合った。
11時を回ると、お腹が急に空いてきた。考えてみたら、朝起きてからスナック菓子しか食べていない。同僚を誘って早めのランチに出かけた。同僚は、次々と雑用ばかりを言いつける課長に辟易しているらしい。同感だ。雑用ではなくて、もっと骨のある仕事を任せてくれたらいいのに、とたっぷり1時間盛り上がる。
お店を出て会社に戻る途中に、宝くじ売り場の大きな旗が目に入った。「本日大安」「当売り場から1等3億円が出ました!」……宝くじが当たったら、毎朝起きて会社に行かなくてもいいし、課長に振り回される必要もない。なんだか当たるような予感がして、衝動的に10枚を購入した。会社に戻って、机の引き出しにしまい込む。
アフター5は、大学時代のアルバイトで知り合った友人と飲み放題の居酒屋へ。お互い、仕事の愚痴を言いながらすっかりいい気分に。そのままカラオケに行って盛り上がる。
気づいたら終電ギリギリだ。慌てて駅まで走っている途中で気がついた。「あれ、スマホがない」。そういえば、さっきのカラオケに忘れてきた。探しに戻ったら、無事にスマートフォンは見つかったけれど、終電は出発した後。明日も仕事だから、背に腹は代えられないとタクシーで帰宅。手持ちのお金がなかったのでクレジットカードで決済。そういえば、このクレジットカード、ちょくちょく使っているけれど、毎月いくらぐらい引き落とされているんだろう。ちゃんと明細を見たことがないな。
結局、帰宅したのは深夜1時半。タクシーで爆睡したからか、目が冴えて眠れない。深夜バラエティーでも見ようかな。歯磨きするのも、シャワーを浴びるのもなんだか面倒。明日の朝起きてからにしよう。
そして、もう1人紹介しよう。
月曜日の朝。目覚まし代わりにセットしているFMラジオのDJの声で目覚めた。起きてすぐの日課はストレッチ。身体も頭もスッキリ目覚める気がして、かれこれ5年ほど続けている。
ランチと夕食は基本的に外食なので、朝食は野菜とフルーツを摂ると決めている。挽き立ての豆で淹れたコーヒーを片手に日本経済新聞で社会・経済の動きを追う。
シャワーを浴びた後は、身支度をしながら、予約録画しておいた経済報道番組を1.5倍速で再生。CMカット機能も使っているので、短時間で効率良く情報をインプットできた。
電車に乗るのは、朝のラッシュより1時間早く。空いている車両も研究済みなので、いつも乗る車両は決まっている。車内では一通り他の乗客や車内広告をチェック。魅力的なデザインや心に残るキャッチコピーの広告があったら、しっかりメモしておく。宣伝部門の仕事をしているわけではないのだが、企画書を作成するときに
役立つかもしれない。それが終わったら電子書籍リーダーのkindle
で読書。その日の気分で小説やビジネス書、写真集など好きな書籍を選んでいる。
会社にはいつも一番乗りか二番乗り。この、電話もメールもほとんど来ない静かな朝の時間帯に、クリエイティブな仕事に集中する。
ランチは1人で行くか、互いに刺激し合える同僚と。会社の近くにあるホテルのラウンジが穴場。ランチタイムでも行列することなく、ゆったりした空気が流れているのでお気に入りだ。
終業後のプライベートタイムは1週間の中でメリハリをつけて。食事会や習い事の予定のない日は、昼間よりも静かな会社でクリエイティブな仕事をしたり、思考を巡らせたりする時間と決めている。食事会のお店選びは、時にはちょっと背伸びをしてみる。居酒屋やファミリーレストランにはないこだわりや行き届いたサービスのお店に行くことが、自分にとっても良い刺激になっている。
帰宅後は、よほど天気が悪くない限りは軽く近所をランニング。走ることで、その日あったことを頭の中でスッキリ整理できるような気がする。心地良い疲れで、眠りも深い。
同じヒト科であっても、この2人に見えている世界は全く異なる。もちろん、色や形の話ではない。自分の思考というフィルターを通した世界の「見え方」の違いだ。これを私はSTAGEの違い、と定義づけている。同じ職場で、同じ空気を吸って働いていたとしても、人によって見えている世界は全く異なるのだ。
世界のどこがクローズアップされて見えているのかも、人によって全く異なる。外食のほとんどがファミリーレストランである人にとっては、ロイヤルホストとデニーズとジョナサンとサイゼリアの違いは、メニューや価格、ドリンクサービス、どれをとってもかなり大きいと感じるだろう。しかし、数席のカウンターしかなく、1人あたり数万円するような寿司店はどれであっても「高級な寿司店」と一括りになるはずだ。
一方、普段から外食といえば1人あたり数万円するのが当たり前、という世界に生きている人にとっては、ファミリーレストランはすべて似たり寄ったりにしか見えない。しかし、寿司店については、シャリの大きさ、硬さ、ネタの仕込み方、大将が握るペースまで、明らかに店による違いを感じるはずだ。自分が見えている世界の周りだけが、虫眼鏡を使ったようにクローズアップされて見えているのだ。
私たちは誰しも、自分の思考というフィルターを通して世界を見ている。そして、その見え方が次の行動を生み、結果を生んでいく。
同じ「競馬場にいる人」でも、馬主と、VIPルームで優雅に食事をとりながら馬券を買っている人と、缶ビールを片手に競馬新聞を読んでいる人とでは、見えている景色が全く違うだろう。自分が生きる世界は、自分の思考と行動、そしてその積み重ねによるSTAGEによってできあがっている。世界にどのようなフィルターをかけるかは自分次第なのだ。

経験がなければ違和感も生まれない

こうした、自分が見えている世界と相手が見えている世界を、段階で示すことで「見える化」しようというのが、お金の教養STAGEだ。
お金の教養STAGEは、お金の教養の7つの要素に独立して存在する。そして、その段階はSTAGE1からSTAGE5までの5つにそれぞれ分かれている。
したがって、同じ人であっても、「貯め方」と「使い方」はSTAGE3だが、「考え方」と「増やし方」はSTAGE2、「社会還元」は全くできていないからSTAGE1、といったことが起こりうるわけだ。
このように、お金の教養の7つの要素をSTAGEという5つの段階に分けて縦軸で表すことで、お金の教養のどの要素が高く、どの要素が低いのか、自分が全体の中でどの位置にいるのかが可視化できる。
私自身、このお金の教養STAGEという概念フレームワークが完成形に行き着いてから、「お金」と人の思考や行動とのかかわりがすべて明快に解明できるようになった。
同じ世界に生きていても、STAGEによって見えている世界が違うのに、私たちは「同じものが見えているはず」という先入観の下、誰かを評論したり、意見を言ったり、アドバイスを乞うたりしている。
このことが、私が感じたようなズレや違和感を数多く世の中に生み出しているのだ。私に限らず、多くの人が日常的にこうしたズレや違和感を覚えているはずなのに、なぜ今まで世の中にこのような概念フレームワークが生まれてこなかったのかが不思議なくらいだ。
(『お金原論』173〜180ページより転載)

泉 正人

ファイナンシャルアカデミーグループ代表 一般社団法人金融学習協会理事長

日本初の商標登録サイトを立ち上げた後、自らの経験から金融経済教育の必要性を感じ、2002年にファイナンシャルアカデミーを創立、代表に就任。身近な生活のお金から、会計、経済、資産運用に至るまで、独自の体系的なカリキュラムを構築。東京・大阪・ニューヨークの3つの学校運営を行い、「お金の教養」を伝えることを通じ、より多くの人に真に豊かでゆとりのある人生を送ってもらうための金融経済教育の定着をめざしている。『お金の教養』(大和書房)、『仕組み仕事術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など、著書は30冊累計130万部を超え、韓国、台湾、中国で翻訳版も発売されている。一般社団法人金融学習協会理事長。

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