〈佐々木 かをり〉知識よりも経験を大事にしてきた人生。 〜佐々木かをりがこだわる、自己投資の視点

インタビュー

多くのビジネス女性の支持を集めるコミュニティサイト「イー・ウーマン」を運営する(株)イー・ウーマンと(株)ユニカルインターナショナルの2社を経営する経営者として、また二人のお子さんを持つワーキングマザーとして、多くのキャリア女性のロールモデルでもある佐々木かをりさん。佐々木さんのこれまでの人生を振り返り、お金との付き合い方、大人気の手帳「アクションプランナー」誕生秘話、そしてご自身やご家族への投資についての考え方についてお話をお聞きしました。

母親から受け継いだ前向きで自由な発想で、新しいことにチャレンジ

神原
今年の夏で、ユニカルインターナショナルの設立から25周年だそうですね。おめでとうございます。女性が起業し、事業を続けることは今でも大変厳しい環境です。25年前といったら、ほんとうに想像もできないほど大変だったのではないかと思うのですが、起業のきっかけはなんだったのですか?

佐々木
当時は、がんばって会社を作る!という感じではなかったんですよ。いまでいうフリーランスで通訳などの仕事をしていたのですが、お客様からお支払いの口座が個人よりも法人がいいというそんな理由がきっかけでした。当時は、 “女性だから”とか、働いている女性が少ないなどという意識はなくて。女性で仕事をがんばっている人が少ないということは後から気がついたんです。それで、働く女性のネットワークの場があれば、きっとみんな活用するだろうなという気持ちで、「国際女性ビジネス会議」を始めるようになりました。

神原
なんだか自然な流れで、これまで事業を展開されてきたようですね。でも、逆に言えば、今までにないことへの挑戦ばかりだったと思います。そういった新しいアイデアが次から次に生まれて、実現していく発想力や行動力の源泉はどこにあるのでしょうか?

佐々木
自由な発想や、物事を前向きにとらえるということは、母から学びました。母方の祖父は、外国船の船長で、彼女が小学生の頃、お父さんが何ヶ月か振りに帰ってくると、カラフルなワンピースとか一杯持って帰ってきて、結構ハイカラな家庭だったみたいです。豊かな家庭だったと思うのですが、結婚後は凄く苦労したと思います。だけれども、我慢強かったですし、「占い師に、私は絶対お金には困らないって言われたのよ」などと笑い、苦しくてもいつも物事を前向きに考える人でした。

15歳のときの金銭的な自立以来、「体験」への投資は惜しまずに

神原
ほんとうに早い時期からご自身で会社を作って、仕事をしてきた佐々木さんですが、ビジネスのベースになっているのはどういった経験なのでしょうか?

佐々木
私は小学校高学年のときに、住宅供給公社に引っ越したんです。私の父は店を経営していて、繁盛していたこともあったのですが、株の投資に失敗して所有していた資産を全て無くしてしまったのです。でも、これが何を意味しているのか、当時は分からなかった。「何となく、うちにはお金がないな」と言う感じはしていたのですが・・・。
ただ、母が1万円の入った茶封筒を引き出しに入れているのを見て、それが冠婚葬祭などのときのバッファーにしているのだということに気付いて、当時もらっていた月々の小遣い3,000円くらいは自分で稼ぐ方がいいなと思いアルバイトを始めました。それが仕事始め、15歳のときです。
以降、高校の学費以外は一切、親の援助を受けませんでした。大学の入学金や授業料は、その会社でのアルバイト収入から、全部自分で捻出しましたので、15歳から今日まで、親からお金はもらっていないんです。むしろ、家を改修するといえば私が出してお風呂を直したりしているので、私の金銭的自立は15歳ということになります。

それから、世の中の人たちが全部、網目状につながっていたら、世の中もっと平和なんじゃないかなと思い、フォスタープラン(プラン・ジャパン)に毎月5,000円の寄付をしています。会社設立前からですので、もう25年以上になりますね。

神原
仕事を通じての経験はもちろんたくさんあると思いますが、ご自身で積極的に学んだこと、あるいはご自分へ投資をしてきたことはありますか?

佐々木
自分自身への投資ということでは英語、仏語、中国語など「学び」もありますが、どちらかというと知識ではなく、体験を増やすことへの投資を重視してきたと思います。トレーニングや海外での会議など「体験」への費用は惜しまないようにしました。
日本の研修は、「講座式の教えるやり方」か「対話式グループワーク」の2種類が主流だと思いますが、私自身が実際に受けたり、後にトレーナーとして提供してきたのは、「体験式」の研修です。知識習得より、自らが「気づく」ことに重きを置いているもので、自分で気づくので、汎用性があるスキルとして身についていきます。

大学時代の経験から生まれた「アクションプランナー」

神原
佐々木さんというと「手帳術」、タイムマネジメントですね。時間術や手帳術については、この数年ちょっとしたブームになっていますが、その仕掛け人のお一人でもあります。あの手帳のフォーマットは、どういうきっかけで生まれたのでしょうか?

佐々木
実は大学生のときなんです。
私の通っていた大学は授業のスケジュールが複雑だったうえに学費を自分で捻出していましたので、授業と授業の間にアルバイトをこまめに入れていかないと、授業料が払えなくて来学期受けられない。それらを整理できる手帳を探していたんだけれどもなかったんです。
そこで、自分で罫線だけの手帳を買ってきて、目盛を365日分全部振って、色分けして、祝日も分けて、朝6時から夜24時まで30分ごとに区切り、そこに授業を鉛筆で囲って、空いている時間にアルバイトを入れて時間を見えるようにしていたのです。それが発展して、アクションプランナー手帳になったんですね。自分の持っている時間が見える。やるべきことなどが時間数で確保されていると、空いている時間が分かるので、その時間を活用する、という時間の使い方が出来ます。「自分を予約する」という概念です。

家族への最大の投資は、一緒に過ごす空間と時間

神原
お子さんが二人いらっしゃいます。社長業をしながらの育児はほんとうに大変だと思いますが、お子さんと一緒に過ごす時間もしっかり確保していらっしゃいます。ご家族やお子さんに対して、これまでなにか特別な金銭的あるいは時間的な投資をしてきていますか?

佐々木
家族と過ごす時間と空間はとても重要だと思っています。
家族との過ごし方を考えて、イー・ウーマン設立より数年前、1人目の子どもが生まれたときに、中古の一戸建てを買ってリフォームをしました。母との同居も考えて、内装を全部自分でデザインして、素材選びから配置まで全部業者にかなり細かく指示して、嫌がられました(笑)。
時間と言うことで言えば、子供が小学生になった頃あたりから、毎日6時には会社を出て帰っています。夜の勉強会も、夜の会食も、殆どありません。子どもとの時間、対話が何より重要だと思っています。
食材など、日々の暮らしにもささやかな投資をしています(笑)。
食材に投資することが、健康への投資だからです。娘がいつも、私のつくる鶏の唐揚げはおいしいと言ってくれるのですが、「それは料理の腕がいいんじゃなくて、鶏肉がいいんだよ」と言っていたのですが、実感がなかったようなんですね。ところが先日、娘が作るバレンタインデーのチョコレートも友だちから「一番美味しい」と言われていたのですが、材料を変えてみたら全然美味しくなくなったことがあって「みんなに褒められて、私はお菓子づくりが上手だと思っていたんだけど、材料が良かっただけなんだ」って。娘も素材の大切さに気がついたんですね(笑)。

本人の自主性に任せることで、自分で問題解決できる人間になって欲しい

神原
以前、ご自宅へお伺いしたときに驚いたことがありました。私の中では、お子さんに対してしっかりマネジメントをするお母さんというイメージがあったのですが、佐々木さんは、お子さんの自主性に任せている、とってもおおらかなお母さんなんです。私の方が細かすぎて・・・(笑)。佐々木さんのお子さんへの教育についての考え方、お子さんへの投資について、同じ母親としてすごく興味があります。

佐々木
教育への投資ということでは、例えば小学生の子どもは塾には行かせてないし、家庭教師もつけていませんが、サマースクールに行かせたり、アメリカにいる親戚の家に1年おきに子供を連れて行って、アメリカ人の家族と暮らすといった「体験」ベースのことを大切にしています。
知識はやる気になれば何歳になっても身につける事が出来る。だから、自分でやる気をだせる人になれるかどうかが大切。人生、うまく行かないこともいっぱいあるわけだから、それをどのように解決していくのか、ということを前向きに考えて、向かっていける人になって欲しいです。周りの人がお膳立てしてあげるとやるけど、そうでないと勉強もしないし遊びもしないというのは困る、と思っています。
内側からエネルギーが出て来る人、何か問題が発生したら、それをどうやって解決しようかと考えたいと思ったり、考えたり、解決する力がある人になってほしいですね。
例えば、ゲーム機で遊ぶのは30分とか、親が決めている家庭もあると思いますが、それよりも、自分で気付いて、やめるという方が自主的でいい。私の人生じゃない。あなたの人生だからね、と、伝えています。
そういうやり方が吉と出るか凶と出るかは分かりませんが、私は本人たちの自主性を育てること、自らの道を切り開く力を育てることに力を入れています。

30歳の佐々木かをりに贈るメッセージ

神原
30歳のときの佐々木さんは、どんな感じだったのでしょうか?その当時の自分になにかアドバイスをあげるとしたら、どんなメッセージですか?

佐々木
30歳のとき、私は独身で、会社始めて4年目。ニュースステーションでレポーターの仕事も頂いて世界中飛び回っていました。でも、学校で学びたいという思いがとっても強かったことをおぼえています。よく小宮悦子さんとハーバード大学など各大学からのMBA資料取り寄せたり、いつ行こうかと相談をしていたのですが、結局行けなくて・・・。
当時は当時で、仕事が始まったばかりだから今はやめられないと思っていたのですが、今考えると、あの時1年くらい、日本にいなくても良かったのではないかと思えてきます。
だから、30歳の私には「かをり、学校行きたいなら、忙しいとか理屈こねてないで行きなさい!学びたいなら学びなさい!あなたの人生なんだからね」と言いたいですね。

神原
いつも前向きで、全力で取り組んできた佐々木さんは、「後ろめたいことがなにもない」と断言されます。ご自分やご家族に対しても、「体験」という軸を持ってしっかりとした投資をしてきた自信と、自由で自然体な女性としての魅力。素敵な先輩の存在をとても心強く感じました。本日はどうもありがとうございました。

(本記事は、2012年04月10日にファイナンシャルマガジンに掲載されたものを再掲載しています)

佐々木 かをり さん

株式会社イー・ウーマン代表取締役

横浜生まれ。上智大学外国語学部比較文化学科卒業。1987年に国際コミュニケーションのコンサルティング会社(株)ユニカルインターナショナルを設立。2000年(株)イー・ウーマンを設立、同年9月にサイト「イー・ウーマン」を開設。「自分で考え、自分で選び、自分で行動する」をキーワードに集まったスマートコンシューマを集め、企業のブランドコンサルティング、コンセプト提案、商品開発などを行っている。1996年からは毎年夏「国際女性ビジネス会議」を企画、実行委員長を務める。「自分を予約する手帳術」(ダイヤモンド社)、「自分が輝く7つの発想」(光文社智恵の森文庫)などの著書のほか、「インテル戦略転換」(七賢出版)「さよならメリルリンチ」(日経BP)などの翻訳もある。2012年4月には「必ず結果を出す人の伝える技術」 (PHPビジネス新書)も発売となる。 イー・ウーマン ewoman.jp ユニカルインターナショナル unicul.com アクションプランナー actionplanner.jp

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