糸井重里の考える働くとは これからの「ほぼ日」

これまで、どこかのシーンで「ほぼ日手帳」を手に取った学生や社会人は数多くいることでしょう。実際に「ほぼ日手帳」を使わずとも、「ほぼ日」や糸井重里の存在を知らない日本人は、もはや皆無といっても言い過ぎではなさそうです。 川島蓉子・糸井重里著『すいません、ほぼ日の経営。』 より、「ほぼ日」という企業がずっと続けてきたことと新たに始めたことをご紹介します。

2019.5.1

株式上場した「ほぼ日」とは

ほぼ日という会社が、次々とおもしろい企画を発信していることに興味を抱くのと同時に、なぜ株式上場したのかということにも、ずっと疑問を抱いていた。
4ページより引用
本著は、聞き手として川島蓉子氏が、語り手として糸井重里氏が、タイトル通り「ほぼ日」の経営について語りあった一冊です。
株式会社東京糸井重里事務所は、2016年12月に株式会社ほぼ日に社名が変更され、2017年3月には東京証券取引所のジャスダック市場に上場しました。当時、まだ上場していなかったこと自体に意外性を感じた人も多くいたことでしょう。
「ほぼ日刊イトイ新聞」は、糸井氏が主宰するウェブサイトで、暮らしや生活周りのさまざまな物事に関わる読み物が掲載されています。そして、巻頭には、一日も休むことなく「今日のダーリン」と称された糸井氏のコラムが掲載されています。
関連商品を販売する「ほぼ日ストア」では、「ほぼ日」がオリジナルで作ったものが扱われていて、雑貨、洋服、食品など幅広いラインアップが揃っています。
東京と京都にある「TOBICHI」という空間では、多くのイベントが開催。他にも、「生活のたのしみ展」「ほぼ日の学校」など、わくわくするコンテンツが、次から次へと生み出されています。
いうまでもなく、糸井氏はもともとフリーのコピーライターであり、組織に身を置いたことはないのだといいます。活動の幅を広げる過程で事務所を立ち上げつつ、企業へと成長させていきました。
一方、聞き手の川島氏は、伊藤忠ファッションシステムに入社して35年。根っからの組織人である川島氏の視点から、「ほぼ日」の経営に切り込んだ一冊となっています。

経済人ではなく生活人である

ほぼ日手帳は、もう手帳という言葉だけでは定義できなくなってきています。単に予定を記録するだけのスケジュール帳ではないし、ダイアリーでもない。ノートでもない。これはなんだと思ったら、みんなの「LIFE」が書かれているということでした。
36ページより引用
「ほぼ日手帳」は、当初、「ほぼ日」の中だけで販売していたのだといいます。
やがて、ロフトでの販売がスタート。今では14年連続で、ロフトの文具における売上高ナンバーワンを獲得しているのだとか。社員がたくさんの意見を出し合い、一年がかりで次の年の手帳を作成する中で、その時々のアイデアを練り込みつつ、進化させてきました。
「ほぼ日手帳」は、既に手帳という範疇を超えて、「LIFEのBOOK」であると糸井氏はいいます。一日一ページに書かれたことが積み重なっていくと、それはやがて「LIFE=人生」になる。自叙伝にもなり、やがてBOOKにもなり得ることでしょう。
手帳に書かれた物事は、積み重なればLIFEであるという考え方はよくわかります。
糸井氏は、株式上場したことから経済系メディアの取材を受けたとき、経済人としてのコメントを求められている中にあっても、生活人として話そうとしているのだとか。
なぜならば「ほぼ日」は、買い物の場であり、それを楽しむ街だから。人が幸福に暮らしている状態や場を作るために「ほぼ日」をやってきたのだと糸井氏はいいます。
そこに、「ほぼ日」が現在に至る、一貫したコンセプトが通っていることがわかります。

質のいいアイデアを生み出すための働き方改革

「ほぼ日」では、2018年から働き方改革を始めました。
一般的な企業の労働時間は一日8時間ですが、「ほぼ日」は7時間に短縮。そして、毎週金曜日をインディペンデントデーとして、一人で考えたり自由に使ったりする時間に充てています。労働時間を減らしながら、給料のベースを上げることにしたのだというのです。
漠然と集まって話していても、何も生まれてこない。一人で考える時間が基礎であるということを、もっと前面に出してくのだと糸井氏はいいます。
そして、企業の風土を決めるのは、「なにがかっこいいか」ということ。「ほぼ日」でいえば、「人が羨ましがるようないい考えを出して、実行する」こと。それは、社長が決めるのではなく、みんなが作るのだといいます。
質のいいアイデアをたくさん生み出すための働き方改革。こんな新しい試みにも、「ほぼ日」という企業の経営スタイルが見えてくるようです。
すいません、ほぼ日の経営。 | 川島蓉子, 糸井重里 |本 | 通販 | Amazon (36789)

タイトル: すいません、ほぼ日の経営。
著者: 川島蓉子・糸井重里
発行: 日経BP社
定価: 1,620円(税込)
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(株)FILAGE(フィラージュ)代表。書評家/絵本作家/ブックコーディネーター 。元・銀行員であり図書館司書。現在は、女性のキャリア・ライフスタイルを中心とした書評と絵本の執筆、選書を行っている。「働く女性のための選書サービス」“季節の本屋さん”を運営中。
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