ビジネスでプロジェクトを成功させるには「生産的な対立」が必須

ビジネスにおいて「対立」が避けられないことはよくある話です。しかし、同僚や上司との「討論」は生産性を高めるには必須であると語るのは「手ごわい問題は、対話で解決する」の著者であり、数々の紛争を分析してきたアダム・カヘン氏です。カヘン氏の主張を交え「生産的な討論」について考えます。

2019.8.16

「対立」は問題を解決する可能性を持っている

人間が生まれてこのかた、紛争や対立とは無縁であった時代はありませんでした。
それによって、不幸な戦争が行われたことも多々あります。
しかし、不和や対立というネガティブな事象は、ひっくり返せば物事にまつわるさまざまな問題を一挙に解決するという可能性も含んでいます。
そしてそれは、国家や民族などという大きな規模ではなく、職場や家庭でもそれは当てはまるのです。

「あなたの敵を愛せよ」は実現できるか

キリスト教の説教には、「あなたの敵を愛しなさい」とあります。
私たち日本人は、そんなことは最初から無理だと思うのが当たり前。
キリスト教がメジャーな西洋諸国も、「敵を愛する」ことがまったく実践できないまま現在にいたります。
しかし、哲学者のニーチェはこの格言について、敵を愛することによって自身の最良の資質を引き出せるからだと語っています。
まったく気が合わない商談相手や同僚、あるいは上司と、いやでも協力してなにかを成し遂げなくてはならないことは、社会の中では毎日のように発生します。
意見が合わない、あるいは肌合いが異なる人々と、どうすればプロジェクトを完遂できるのでしょうか。

プロジェクトに必要なのは「紛争」ではなく「討論」

紛争は、相手の意見に耳を傾ける余裕がないために、交渉決裂という結果になる可能性を含んでいます。「戦争」や「離婚」が、そうした決裂の結果といえるでしょう。
いっぽう、「討論」はコラボレーションのためには必須であると語るのは、数々の紛争を分析してきたアダム・カヘン氏です。
同じ意見を持つ者同士が一つの目標に向かって進む。
それはまさに理想です。
ところが、そのような理想的なことが起こる確率は、現実には非常に少ないのです
チームやプロジェクトの状況が、一定の条件の下で制御されていれば目的達成は難しくありません。
いっぽう、チーム内のそれぞれの視点や利益に相違があり、コントロールが効かない場合には、平和な話し合いではなく意見を戦わせる討論が有効であるというのが、カヘン氏の主張なのです。

「敵」の存在をメリットに変える

よくよく考えてみると、「敵に塩を送る」とか「昨日の敵は今日の友」などなど、対立する人たちに関する奥の深い格言が、日本にも存在するのです。
世界中のあらゆる紛争にかかわってきたカヘン氏は、一見すれば調和がとれたチームワークは、実はそれほど生産的とはいえないと断言しています。
まさに「雨が降って地が固まる」。
さまざまな問題を乗り越えてこそ、豊かな実りを手に入れることができるというわけですね。

「すべての人は平等」はチーム内では不可能

それでは、各々の意見すべてに正当性を与えることはチームの原動力になるのでしょうか。
答えは、ノーです。
すべての人の意見を優先する、これは不可能なこと。
いくつかの意見は採用し、その他は排除しなくてはゴールは見えてきません。
多様性とは、すべての意見や人々を平等に受け入れることではないのです。
そして私たちは、将来の予見ができません。プロジェクト発足前に、その目的が達成できるのか否か、その経路を予測したり制御したりすることはできないのです。
ということは、さまざまな意見を交差させながらゆっくりと一歩ずつ進むほかに道はないということになります。
他者の意見に耳を傾け、自分の意見をもう一度考え直す。
この作業を煩わしいと感じる人も多いはずです。
自分の意見を変えたり、相手が正しいと思うことは決して愉快なことではないからです。

多様性を抱合したプロジェクト、進め方の極意

具体的に、意見がまちまちで対立することが多い場合のプロジェクトの進行方法を、カヘン氏は次のように述べています。
① まずすべての意見をチーム内に集める。他者の意見を、最後まで「傾聴」する。
② 客観性をもって、すべての意見に目を通す。
③ 相手の意見を理解する努力を持って、対話を行う。
④ 目的は共有しているという意識をもって、相手を説得する。

「流動性」の大切さ

ソーシャルの普及によって、個々が声を上げやすくなってきた社会。
それだけに、自分の意見に責任を持つ重要性にも目が向けられつつあります。
同じ意見を持つもの同士だけが固まり、相反する意見を持つ人を攻撃する。
こうした傾向を、カヘン氏は非常に憂えています。 社会とは、水と同じ。
流れていなくては、よどんで腐ってしまいます。
意見も人間関係も流動性を有していれば、まさに「昨日の敵は今日の友」が現実的になる可能性あるのですね。

最後に

ヒロイックでドラマチックな事象は、映画やドラマでは通用します。
しかし、現実では退路を断って自分をおし通すようなドラマは、周囲をも危険に巻き込みます。
抜け穴、近道、まわり道、あらゆる道を用意することが、プロジェクト完遂のカギと言えるかもしれませんね。
井澤 佐知子

井澤 佐知子

イタリア在住十数年、美術と食をこよなく愛す。眼下にローマを見下ろす山の町で、イタリアのニュースを発信中。
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