2017年4月2日 更新

大人のお金の教養人生を能動的に作ることのできる女性の育て方(漆紫穂子)

品川女子学院校長として教育者、経営者の一人二役をこなす漆紫穂子さん。ライフデザインをトータルに描くことでしっかりと将来のビジョンを持って行動できる生徒を育てるため、企業とのコラボレーションによる新商品開発や起業体験プログラムなどを通じ社会とのつながりを伝えるユニークな教育を実践しています。今回は漆さんに、教育から学校経営、そして子どもたちのお金に対する考え方の変化などについてお聞きしました。

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2015.3.28
品川女子学院校長として教育者、経営者の一人二役をこなす漆紫穂子さん。ライフデザインをトータルに描くことでしっかりと将来のビジョンを持って行動できる生徒を育てるため、企業とのコラボレーションによる新商品開発や起業体験プログラムなどを通じ社会とのつながりを伝えるユニークな教育を実践しています。今回は漆さんに、教育から学校経営、そして子どもたちのお金に対する考え方の変化などについてお聞きしました。

生徒に伝える、学校での勉強と社会とのつながり

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神原
漆さんが品川女子学院の校長になられて7年。7年というと、高校生だった生徒さんは社会人に、中学生だったお子さんも卒業されています。この7年の間の間にあった変化についてお聞かせいただけますか。


本校の場合、進学希望を見ていると、理系だけでなく、ビジネスを視野に入れて、商学部や経済学部、経営学部といった文系の学部への志望も増えていると感じます。
実際に商学部を選んだ生徒に聞いてみると、「ビジネスとしてマーケティングを勉強してみたい」という子もいます。数学でトップクラスの子が文系を選択することもあります。将来の進路を考えたときに、ビジネス分野で会計士などの資格も持ちながら働いてみたいというビジョンを持つと、志望先は経済学部や商学部といった文系になり、得意な数学は受験に活用するという選択をしているようです。

神原
多くの生徒さんが、自分が社会へ出たときのイメージを具体的に持っているという印象を受けますね。


本校では、学校での勉強と社会とのつながりを生徒に伝えているのですが、これは藤原和博さんの「よのなか科」を導入したのがきっかけでした。もともと本校は大正時代に「手に職をつけて、働く女性を育てる」というところからスタートしています。
子供達に社会というものを伝えていくと、今度はそこにある仕事を意識するようになります。そうなるとまず、自分を見つめるという作業と、社会を見つめるという作業の両方をやるようになります。

先日、PTAが「お母さんは小さい頃、何になりたかったか」というアンケートをとったのですが、これに対して「先生」「スチュワーデス」などが多く見られました。なぜ同じになるかというと、お母さん方は当時、いろいろな選択肢があることを知らなかったからだと思うのですね。 子供達には、社会にはいろいろな職種や学問があるのだと伝えていくことで、自分の個性と、社会の中にある仕事が結びつき、自分と社会の間にある大学選択にもバラエティが出てくるようになります。
その結果本校の特徴として、学部・学科選択が非常に多岐に渡っています。

女性としてぶつかる問題をトータルで、ライフデザインを描いて考える

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神原
28歳になったときに社会で活躍している自分を逆算で考える「28プロジェクト」について、教えていただけますか?


28歳というのは、第一子の出産を考える頃でもあり、仕事のキャリアも軌道に乗る頃で、ちょうどそれらがぶつかる時期です。では、それをどの時点で考え始めたら良いのかというと、高校1~2年生の時にする文系・理系選択の段階が起点になります。そして、一旦文理選択をすると、そこからの再選択は難しいのが現状です。
仕事で出産時期を先送りすると年齢が上がってリスクが高くなるというのが、女性の人生の現実です。そのようなことを早めに伝えたいし、子宮頸がんなどの女性の身体に起きる様々なリスクも合わせて伝えていった上で、ライフデザインを考えていく必要があると思っています。

神原
ライフデザインを考えたときに、結婚、出産、育児と同じ時期に親の介護の問題が出てきたり、お金の話と自分の体力、年齢の話などが重なってくることも考えられます。計画を立てるということが改めて大事だと思います。


本当にそうですね。自分のライフデザインもそうですし、そこに子供とか介護といった自分以外の問題も関わってきます。
子供の反抗期というのは、自分の更年期と同じ時期になることが多いですから、そのようなところまで考えておかないといけないと思います。
本校はそのようなライフデザイン教育をやっているので、逆に親御さんが影響される場合もあります。ある親御さんが「子供が通っている学校の影響を受けて、自分も再就職して自立したい」という方を採用したところ、本校の生徒の親御さんだったそうです。

神原
それはすてきです。子供を育てることで親も新しい気付きがあるということですね。この「28プロジェクト」で育った人達がお母さんになったときは非常に心強いように思えます。


それが一つ、問題があるんですよ。ある日、本校を卒業した大学生が「先生、28プロジェクト、まずいです」と言うのです。なぜかと聞いてみると、「私は今、とっても仕事がしたくて仕方がない。友達もたくさんいて、ボランティア活動もしているし、充実していて彼氏はいりません。」と言うのです。

神原
そうなるともう、彼女のお眼鏡に適う男性がいないということですね。
晩婚化の原因は男にあり、ですね。漆さん、やはり今度は男子校で男子教育をした方が良いのではないでしょうか(笑)。

企業人事からも注目される“品女”卒業生。

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ある時、国内大手化粧品メーカーの人事部長から「教育方針を教えて欲しい」と電話がかかってきたんです。理由は、2、3年連続して“光る子”が入ってきたので学歴をチェックしたら、出身高校が「品川女子学院」だったからということで。
本校出身の子は特長があると言われます。面接の一番を予約したり、内定の連絡をすると「人事採用のお仕事、この時期とても大変だと思いますが、頑張ってください。」と言った子もいたり(笑)。就職してからも「月曜日が一番好き」とか。
中高一貫で人間形成が出来る、中高での過ごし方は、本当に大事だと思います。

本校には大学はありません。しかし、卒業後のケアもきちんとするというのが私立中高の責任だと思っています。現在も、卒業した大学生を対象に、社会人になった卒業生や、大学や企業の人事部の方に来ていただき就職活動についてお話してもらっています。
ある卒業生が仕事選びの話で、「みんながいいと言う会社や、今、優良企業と思われている業界に行っても、世の中何が起こるか分からない。だから中高時代まで遡って、自分が本当は何が好きなのかということを考えていくと、自分の軸が分かるから、そうやって仕事を決めると幸せです。」という話をしていました。

神原
人気企業や新聞やテレビで話題になっている企業といった短期的なことではなく、きちんと自分軸を考えて選択するということですね。卒業生がこれをアドバイスするというのは素晴らしいことです。


彼女は自己分析をして、自分は何が好きかなと考えたときに、ぱっと浮かんだのが「お金」だったそうです。「私はお金が好きなんだ」と自分軸を確認して金融関係の会社を受け、保険の資産運用でポートフォリオを組む仕事に就いているようなのですが、お客様の資産を増やすことが楽しくて仕方がないらしいのです。増やすと喜んでもらえますから。その「ありがとう」が自分の生き甲斐だと言っていました。

チーム活動を通じて、答えのない中での最適解を求めていくやり方

神原
授業や企業とのコラボ学習などで、必ずしも正解のない問題にぶつかることもあると思います。そのときそれぞれに様々な意見がある中で、生徒たちがどう結論付けていくのか、そのバランス感覚をどのように伝えているのでしょうか。


本校の場合、チーム・集団で何かをさせるという機会が多いのです。チームとなると、メンバー内で温度差があり、意見の違いがあり、それらがぶつかり合いながらやっていく必要があります。
本校では文化祭で起業体験プログラムをやっています。
2、3年前に学校名入り文房具を販売するという企画をあるクラスがしていたのですが、ネットで安く仕入れたら、入金後に倒産して夜逃げされてしまったんです。私も青くなって文房具店を経営している友人にアドバイスをもらうなどしました。最終的に、問屋さんの協力と売り方の工夫で、無事2日間の文化祭の初日で売り切ったんです。
ところが、ほっとしたのもつかの間、また揉めている。「どうしたの?」と聞くと、2日目が機会損失になるから、同じものを仕入れて、似たシールを貼って売りたいと言う社長役の子と、せっかく赤字の危機を乗り越えたのに、またそういう心配するのは嫌だと言う子が対立している。私にどうしたら良いかと聞くので「答えはない。ただし一点だけ。言いたいことは全部言っておきなさい。」と言いました。
そうしたら、「文化祭はお客様に楽しんでもらうためのものだから、自分達の利益で考えるのは失礼だ。だから2日目はゲームとか、違う業態で出そうよ。」と提案した子がいたのです。
そのような様々な出来事や失敗を、チームでああでもないこうでもないと揉めながらやっていくことで、少なくとも絶対的な正解は存在しないということが分かったのではないかと思います。

神原
すごいですね。「先生力」もつきますね。


「先生も大変ですね。」と子供たちからも言われます(笑)。
実際このときは答えがなく、「正解」は本当に分かりませんから、「じゃあ、あとで教えてね。」と言って、その場を去りました(笑)。

神原
教えるというスタンスではなく、機会をたくさん与えるということですね。


はい。中高生は、「自分でやりたい」「親に言われるのが一番嫌」、そういった時期ですね。そのような時期に、いつまでも親の言うことを聞いていると逆に心配なので、いろいろな場を作っていくことです。
そういった場や仕組みの中で、チャレンジする文化や伝統が受け継がれていくのでしょう。口で言っても伝わらないし、消えてしまいますし、仕組み作りが大事だと思います。

手にしたお金を良き方向に用いて、世の中のためになる何かを成し遂げる

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神原
文化祭の起業体験プログラムなどで、生徒さんたちにとってお金は非常に身近で、その重要性を正しく認識していると感じます。


お金には綺麗とか汚いといった属性は無くて、あるときには夢をかなえる手段となり、あるときには自分の足をすくうものになります。
日本では、「清貧」という言葉があるように、お金は何となく汚いものという、元々の刷り込みがあると思います。でも実際の社会でお金の教養がなく、自分で稼ぐことも知らずに成長していくと、お金に足をすくわれることもあります。 江戸時代の古典に、「お金の精は、大事にする人のところに寄って来る」というものがあります。また、夏目漱石も『私の個人主義』の中で「権力は義務を伴い、金力は責任を伴う」と書いています。

神原
そもそも、お金がないと生きていけないですよね。そういった“リアルな”お金についての考え方を学習するプログラムもあるのでしょうか?


以前、竹中平蔵さんに2回ほど授業をしていただいたことがあります。
竹中さんが授業で、「朝食に食べるパンからすべて、経済につながっている」という話をされて、子供たちはそれを聞いて自分の生活と経済のつながりを理解したようです。その土台の上で、中等部から証券学習などをさせています。それで新聞を読むようになるとか、世の中の動き、自分の生活が、パンが経済につながっているのと同じように全てつながっているということが良く分かるようになります。
本校では、お金を良き方向に用いて、世の中の人のためになる何かを成し遂げるという勉強を、既に中高生の段階で実践しています。
例えば、本校とサンリオとのコラボで、本校の制服を着たキティちゃんの根付を作って、寄付金を付けて売った結果、約13,500個売れて400万円位お金が集まり、それでカンボジアに学校を設立することが出来ました。
多分、この子達はこういった体験を一度することで、大人になったときに、この得たお金を何のために使うのかということまで考える人間に育っていくのではないかなと思います。
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私が、「お金の教養」という考え方を提唱し始めたのは、 年前の2006年のことだ。その後、2008年9月に『お金の教養──みんなが知らないお金の「仕組み」』(大和書房)を上梓した。

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