困っていることを見つけてきて解決し、それが喜びになる 企業の基点は全てソーシャルビジネス
神原
女性の就労の問題などについて、国や行政に文句や不平・不満ばかり言うのではなく、自分達で創意工夫しながらライフデザインを考えて、国に条件をその中に入れ込んでしまえば、もっと建設的に発言や行動ができますね。
漆
本校は曾祖母が創設したのですが、女性の参政権が無い時代に女子校として設立しています。
人に文句を言うのではなく、手に職を持ち、チームを作って能動的に行動しようというところから学校が発展しています。
今、これをさらに発展させたいと思って現在進行形で進めているのが、ソーシャルビジネス教育です。
去年、ムハマド・ユヌス(ノーベル平和賞受賞、グラミン銀行創設者)さんに学校で講演をしてもらい、こういう生き方があるんだと、私も子どもたちも大きなインパクトを受けました。
それで本校では今年から、企業コラボにプラスして「ソーシャルビジネスのケース・スタディを入れています。前半にデザインの授業をやって、世の中にある不便なことを見つけてきて、それを解決するようなデザインや企画を立てます。後半に、ソーシャルビジネスのケース・スタディをし、最後に、企業とのコラボレーションで、その考え方をビジネスに生かしていくという流れです。
それで企業もそもそもは皆、ソーシャルビジネスだったということに改めて気づいたのです。
神原
不便を良くしようとか、困っていることを見つけてきて、それを解決することから、ビジネスが生まれる。
漆
そうですね。子供たちには企業で働くにしても、起業するにしても、最初は「みんなのため」というところからのスタートで、それが喜びになるということを教えてあげたいなと思っています。人が幸せになるのを見て幸せになる人は、一生幸せですよね。そういう種を蒔いておいてあげたいと思うのです。
女性の就労の問題などについて、国や行政に文句や不平・不満ばかり言うのではなく、自分達で創意工夫しながらライフデザインを考えて、国に条件をその中に入れ込んでしまえば、もっと建設的に発言や行動ができますね。
漆
本校は曾祖母が創設したのですが、女性の参政権が無い時代に女子校として設立しています。
人に文句を言うのではなく、手に職を持ち、チームを作って能動的に行動しようというところから学校が発展しています。
今、これをさらに発展させたいと思って現在進行形で進めているのが、ソーシャルビジネス教育です。
去年、ムハマド・ユヌス(ノーベル平和賞受賞、グラミン銀行創設者)さんに学校で講演をしてもらい、こういう生き方があるんだと、私も子どもたちも大きなインパクトを受けました。
それで本校では今年から、企業コラボにプラスして「ソーシャルビジネスのケース・スタディを入れています。前半にデザインの授業をやって、世の中にある不便なことを見つけてきて、それを解決するようなデザインや企画を立てます。後半に、ソーシャルビジネスのケース・スタディをし、最後に、企業とのコラボレーションで、その考え方をビジネスに生かしていくという流れです。
それで企業もそもそもは皆、ソーシャルビジネスだったということに改めて気づいたのです。
神原
不便を良くしようとか、困っていることを見つけてきて、それを解決することから、ビジネスが生まれる。
漆
そうですね。子供たちには企業で働くにしても、起業するにしても、最初は「みんなのため」というところからのスタートで、それが喜びになるということを教えてあげたいなと思っています。人が幸せになるのを見て幸せになる人は、一生幸せですよね。そういう種を蒔いておいてあげたいと思うのです。
在校生に対する教育と、卒業生のため母校を守るという二つの軸
神原
漆さんは教育者であると同時に経営者でもあります。学校を継ぐとき、大変な状況だったと思うのですが、経営者としてのお考えをお聞かせいただけますか?
漆
校長の位置付けを考えてみると、イギリスでは、校長は経営者です。教員とは別の教育を受けて、学校経営者としてその地位にいます。日本の学校は、校長も教員の勉強をして、教員として昇って行って校長になる方式です。
教員が校長になって、ある日突然経営者になるという感じですね。理事長=校長というところですと、教員と経営を両方やる必要が出て来ます。アメリカでは株式会社立の学校もありますが、そのようないろいろな波が、グローバル社会の中で入ってくると思います。企業買収のニュースなどを見る度に、あのようなことが学校に起こる時代もあるのではと思ってしまいます。
今後、私立学校が少子化の中でやっていくためには、お互い助け合っていかないといけないのではないかと思っています。
神原
少子化の中で教育の質をキープしようと思うと、積極的に様々なことをやっていかないといけないかもしれませんね。
漆
私は、私学経営を二軸で考えています。
在校生達が大人になったときに社会に貢献するようにという、これが教育軸で一つ目の軸です。
次に87年前に建てた学校ですから、現在卒業生が2万人以上います。学校はこの2万人の卒業生の第二の実家と思っていて、その母校を守りたいというのが2つめの軸です。
この2つの軸をきちんと考えて運営していくことが経営だと思っています。この2つが成り立って私立学校は存続の意義があると思っていますが、後者は意外と忘れ去られがちです。
神原
卒業生が、母校で過ごした時代が良かったことをPRしてくれることで、次の世代の子が入って来るということにもつながりますね。
漆
はい。特に本校のような一貫校ですと、振り返ったときに母校というとどうしても中高が浮かびます。長い旅行に行こうと思うときも、この時代の友達とになります。
人格形成期に一緒に過ごすということで、一生の友達もできるし、逆境にもぶれない自分軸がここで育ちます。
90歳代の卒業生の方が私にいつもおっしゃって下さいます。「もう90にもなると、周囲に殆ど同年代がいない。戦争も経験して実家も焼けて、自分には故郷がない。だけど母校がある。死ぬまで、這ってでも来るから、いつまでも守って欲しい。」と。
そのような、いつまでも続く実家のような存在でありたいなと思っていて、そのために経営というのは大切だと思いますね。
神原
漆先生ご自身は、リタイアについてどのようにお考えですか?
漆
私が多くの経営者にお会いしてきて、「これは気をつけないといけないな」と思っているのは、組織のために良かれと思って引退を伸ばして、リタイアするタイミングを逃してしまうという点です。
個人と組織、曲線が2つあって、個人の能力が衰えてくる地点よりも、組織はもう少し先まで伸びるように感じます。そこを勘違いしてしまって、リタイアするタイミングを逃す人が多いのではないかなと感じています。
今まで私は学校運営に関する様々な決断を早め早めにやってきまして、その決断のタイミングは振り返ると「あと2年できる」と皆が言う時点でした。ですから、あと2年くらいできるというところで止めるのが、一番よいのではないかと思っています。
かつて、私は校長がやっていることを副校長として横で見ていたのですが、いざ自分が校長になってみたら、大変なストレスでした。
トップと次位の間は非常に離れています。
ですから、やっていることを見せるよりも早く代わって、自分は見ているという方がよいと思っています。
神原
自分のピークを把握して、早めに後任に任せて後ろから見るということですね。
漆
はい。卒業して社会人となった女性のサポートなど、交代後は外側から力になりたいと考えています。
神原
本日は学校教育のこと、経営のこと、お金のこと、そして漆さんご自身のことについて大変有用なお話をお伺いできました。社会の中で活躍する品川女子学院の卒業生とどこかで会えることを楽しみにしています。ありがとうございました。
(本記事は、2012年10月10日にファイナンシャルマガジンに掲載されたものを再掲載しています)
漆さんは教育者であると同時に経営者でもあります。学校を継ぐとき、大変な状況だったと思うのですが、経営者としてのお考えをお聞かせいただけますか?
漆
校長の位置付けを考えてみると、イギリスでは、校長は経営者です。教員とは別の教育を受けて、学校経営者としてその地位にいます。日本の学校は、校長も教員の勉強をして、教員として昇って行って校長になる方式です。
教員が校長になって、ある日突然経営者になるという感じですね。理事長=校長というところですと、教員と経営を両方やる必要が出て来ます。アメリカでは株式会社立の学校もありますが、そのようないろいろな波が、グローバル社会の中で入ってくると思います。企業買収のニュースなどを見る度に、あのようなことが学校に起こる時代もあるのではと思ってしまいます。
今後、私立学校が少子化の中でやっていくためには、お互い助け合っていかないといけないのではないかと思っています。
神原
少子化の中で教育の質をキープしようと思うと、積極的に様々なことをやっていかないといけないかもしれませんね。
漆
私は、私学経営を二軸で考えています。
在校生達が大人になったときに社会に貢献するようにという、これが教育軸で一つ目の軸です。
次に87年前に建てた学校ですから、現在卒業生が2万人以上います。学校はこの2万人の卒業生の第二の実家と思っていて、その母校を守りたいというのが2つめの軸です。
この2つの軸をきちんと考えて運営していくことが経営だと思っています。この2つが成り立って私立学校は存続の意義があると思っていますが、後者は意外と忘れ去られがちです。
神原
卒業生が、母校で過ごした時代が良かったことをPRしてくれることで、次の世代の子が入って来るということにもつながりますね。
漆
はい。特に本校のような一貫校ですと、振り返ったときに母校というとどうしても中高が浮かびます。長い旅行に行こうと思うときも、この時代の友達とになります。
人格形成期に一緒に過ごすということで、一生の友達もできるし、逆境にもぶれない自分軸がここで育ちます。
90歳代の卒業生の方が私にいつもおっしゃって下さいます。「もう90にもなると、周囲に殆ど同年代がいない。戦争も経験して実家も焼けて、自分には故郷がない。だけど母校がある。死ぬまで、這ってでも来るから、いつまでも守って欲しい。」と。
そのような、いつまでも続く実家のような存在でありたいなと思っていて、そのために経営というのは大切だと思いますね。
神原
漆先生ご自身は、リタイアについてどのようにお考えですか?
漆
私が多くの経営者にお会いしてきて、「これは気をつけないといけないな」と思っているのは、組織のために良かれと思って引退を伸ばして、リタイアするタイミングを逃してしまうという点です。
個人と組織、曲線が2つあって、個人の能力が衰えてくる地点よりも、組織はもう少し先まで伸びるように感じます。そこを勘違いしてしまって、リタイアするタイミングを逃す人が多いのではないかなと感じています。
今まで私は学校運営に関する様々な決断を早め早めにやってきまして、その決断のタイミングは振り返ると「あと2年できる」と皆が言う時点でした。ですから、あと2年くらいできるというところで止めるのが、一番よいのではないかと思っています。
かつて、私は校長がやっていることを副校長として横で見ていたのですが、いざ自分が校長になってみたら、大変なストレスでした。
トップと次位の間は非常に離れています。
ですから、やっていることを見せるよりも早く代わって、自分は見ているという方がよいと思っています。
神原
自分のピークを把握して、早めに後任に任せて後ろから見るということですね。
漆
はい。卒業して社会人となった女性のサポートなど、交代後は外側から力になりたいと考えています。
神原
本日は学校教育のこと、経営のこと、お金のこと、そして漆さんご自身のことについて大変有用なお話をお伺いできました。社会の中で活躍する品川女子学院の卒業生とどこかで会えることを楽しみにしています。ありがとうございました。
(本記事は、2012年10月10日にファイナンシャルマガジンに掲載されたものを再掲載しています)
漆紫穂子さん 品川女子学院校長
品川女子学院校長。都立日比谷高校、中央大学文学部卒業、早稲田大学国語国文学専攻科修了。都内私立中高一貫校の国語教師を経て、品川女子学院へ。2006年から現職。「28プロジェクト~28歳になったときに社会で活躍する女性の育成」を教育の柱に、社会と生徒を直接結ぶ教育により、従来の役割を超えた学校作りを実践している。趣味はトライアスロン。2012年国際トライアスロン連合(ITU)世界選手権スペイン年齢別部門16位
著書 『女の子が幸せになる子育て』(かんき出版) 『女の子が幸せになる授業』(小学館) 品川女子学院のウェブサイトで「校長日記」をほぼ毎日更新
http://diary.shinagawajoshigakuin.jp/fromPrincipal/