落合陽一が描くニッポンの未来!2021-2050のビジョンとは?

メディアクリエイターの落合陽一氏と元東京都知事で作家の猪瀬直樹氏の対談をまとめた『ニッポン2021-2050 データから構想を生み出す教養と思考法』。テレビの討論番組で2人が共演して意見交換する姿を何度か見たことがありましたが、本書は落合氏から幅広い知見を持つ猪瀬氏にオファーする形で実現したのだそう。

2019.2.18
対談のメインテーマは「日本が向かうべき未来」。現在の私たちは2020年東京五輪というビッグイベントに向けて盛り上がりを見せていますが、そこに集中しすぎるあまり「その先」の明確なビジョン、構想を持たないまま2021年を迎えてしまうのではないか?と警鐘を鳴らし、猪瀬氏は日本の歴史的背景から、落合氏はテクノロジーの側面から日本が掲げるべき2021年以降のビジョンを示しています。
東京五輪の開催。平成から新しい年号に変わるなど「新しい時代」の到来を感じずにはいられない今、一体どのような構想を持つことが重要なのでしょうか?それでは、本書の内容に迫りたいと思います。

平成は「失われた30年」。ビジョンを持つことの重要性とは?

平成元年当時、時価総額で見た世界の大企業トップ50の中に日本企業は32社もありました。それが今や35位にトヨタが入っているだけ。1,000億ドル規模の企業も登場する中で一体なぜ、かつての日本のトップ企業は同じ成長を見せることが出来なかったのか?これを検証することが同じ轍を踏まないためにも欠かせない作業となります。
落合氏はその一因として「ビジョンが無かったこと」を挙げます。そして、これからさらに人口が減少しシビアになってゆく日本では、技術革新による時代の変化を理解して社会を構想しアップデートすることが責務だと言及します。対して猪瀬氏は、東京都知事として職員と働いた経験から「地方を肌感覚で知らなければビジョンは描けない」と指摘。お互いの知識や経験をもとに意見を交換していますが、落合氏はインターネットが「5G」の時代に起こる介護革命について、猪瀬氏は東京都知事時代のエピソードについて語るなど非常に濃い内容になっています。

「ポリテック」が変える日本の政治!

猪瀬氏が日本の行政組織が「縦割り構造」のために連携不足が起きる問題を指摘する中、落合氏はこの構造を打ち破るような“新しい概念”が必要だと言います。そのため、自民党の小泉進次郎議員と共に「ポリテック」という言葉を広めようとしているのだとか。
「ポリテック」とは、政治の課題をテクノロジーで解決する。テクノロジーの問題を政治的に解決する。そして政治とテクノロジーがそれぞれ変わっていくという考え方。小泉進次郎議員自ら「ポリティクス」と「テクノロジー」を掛け合わせて作った言葉です。
例えば介護の分野では、今も人間の力を使って解決していこうとする発想が中核にありますが、これでは制度や人員を整備する必要があり「縦割り組織」ゆえにスピードを遅らせてしまう可能性も。しかし、テクノロジーの力で人間の身体を拡張することで一気に問題解決することができるかもしれません。この先働き手が減少する日本には、抵抗感なく「ポリテック」の力を取り入れる土壌があります。しかも上手くいけば世界に技術力をアピールし、さらに新しい知見が集まってくるチャンスもあるのです。

人口減少・過疎化は危機ではない!

日本における人口減少への不安感は非常に大きく感じますが、落合氏は「人口減少そのものは危機でもなんでもない」と言います。まず、労働力の減少や人的コストの拡大はテクノロジーの進化によって防ぐことが可能です。さらに、過疎化によって土地が余るというのも考え方によっては大きなチャンスなのだとか。例えば自動車メーカー。自動運転システム導入を目指した実験をする土地が必要な場合、過疎地は人身事故という決定的なリスクを回避できます。
そしてもう一つ、落合氏が期待を寄せているのが「教育投資」です。子供は少なくなり貴重な存在になるのだから日本は人材に教育コストをかけられる国になり、子供を大切にしようという考え方も広まる。子供に投資するという考えに不満が出にくくなるという状況になるのです。
「人口減少や過疎化をいかに防ぐか?」という議論ばかり取り沙汰されている昨今ですが、テクノロジーの点から見れば必ずしもデメリットばかりではなく、むしろ恩恵も大きいと見ることができるのです。このあたりに、2021年以降の日本が世界で存在感を発揮するための秘策があるのかもしれません。
お互い認め合う2人の建設的な対談には学ぶ点が多く、少子高齢化が進む日本にもまだ可能性があることを確認できる一冊でした。
横山ケン太

横山ケン太

趣味はアウトドア、興味は財テク。フリーの作家として活動中。
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