マイケル・コースがヴェルサーチェ買収 高級ブランド業界の変革

高級ブランドのヴェルサーチェが、庶民派ブランドのマイケル・コースに21億ドル(約2370億円)で買収されました。イメージも客層も格差が大きいこの2社の意外な買収劇に見る、高級ブランド業界の動向に迫ります。

2018.10.15

複合企業に買収される高級ブランド

高級ブランドも今や伝統やブランド力だけではやっていけないのでしょうか、資金力と経営力の有する複合企業の傘下に入るというケースが急増しています。 特にヨーロッパのLVMH(モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン・ジャパン)とケーリングの2社は次々と著名な高級ブランドを傘下に入れ、巨大な高級ブランド複合企業を築き、高級ブランド業界の権力を握っています。
因みに、非公開企業で、複合企業の傘下にも入らずに頑張っている高級ブランドはシャネル(仏)ぐらいではないでしょうか。今まで一度もその売上高を公開したことがないシャネルが初めて公開した2017年の売上高は100億ドル(約1兆1,000億円)。さすが、ブレないシャネル、「うちは買収など必要ない」と世間に知らしめました。

アメリカも高級ブランド買収合戦へ

実は、マイケル・コース(米)も積極的に高級ブランド複合企業としての規模を拡大しています。2017年に12億ドル(約1,340億円)で高級靴、ジミー・チュウ(英)を買収。そして、今回、ヴェルサーチェ(伊)を買収し、社名をカプリ・ホールディングスに変更しました。 また、高級バック、コーチ(米)も2015年に高級靴、スチュアート・ワイツマン(米)、そして2017年にケイト・スペード(米)を24億ドル(約2,700億円)で買収しタペストリー・インクと社名変更し高級ブランド複合企業を形成しつつあります。
今まで、アメリカでは、ヨーロッパのように高級ブランド複合企業を成功させられなかったので、この2社の高級ブランド買収合戦参入が注目されています。
なぜ、今までアメリカでは高級ブランド複合企業が成功できなかったかについて、ニューヨーク・タイムズでは下記のように指摘しています。 • アメリカは伝統の維持よりも起業を重視するビジネス慣行なので、伝統を確立した高級ブランドが少ない。その為複合企業が複数のブランドの知名度をまとめて確立させるにはコストがかかった。 • ヨーロッパの高級ブランド複合企業は、同族経営による長期的コミットメントをしている。 既に確立したブランド力を持つヨーロッパの高級ブランドを買収したマイケル・コースは今までのアメリカの複合企業とは違う結果をだせるのではないでしょうか。

ミレニアル世代の高級ブランド品需要の急増

最近は高級ブランド品に囲まれたセレバティーの生活がインスタグラムで公開されることから、ミレニアル世代やティーンの高級ブランド品への需要が急増しています。2017年の高級ブランド市場の成長の85%は18歳から35歳の消費者の寄与による、とUBSグループの調査で明らかになりました(Bloomberg)。
グッチのアレッサンドロ・ミケーレは2015年にクリエイティブ・ディレクターに就任して以来、ミレニアル世代をターゲットとした高級品をカジュアルに使いこなす「ラグジュアリーストリートスタイル」に力を入れたことから、グッチは今、最もミレニアル世代に人気のある高級ブランドになりました。
高級ブランド業界も消費者デモグラフィックスのシフトに伴い、オンラインショップやラグジュアリーストリートスタイルなど今までとは違う路線に変わっているようです。 こうしたトレンドに合わせて行くためにも、ヴェルサーチェとしては資金力のある複合企業の傘下にはいることが迫られたのかもしれません。
ボッコーニ大学のテスタ教授も「ヴェルサーチェ家にはフェラガモ家やプラダ家のように経営面や創作面で同族経営としての後継者が確定していない。」また、「利益も減っていたので、今後を考えたら道理にかなった結果ではないか」と、述べています(fashionnetwork.com)。 今回、マイケル・コースがヴェルサーチェを買収したことについて、ヴェルサーチェファンからは苦情が多かったようです。しかし、最近の高級ブランド業界の動向を考えれば、両社にとってWin-Winだったのではないでしょうか。
K. ブリーン

K. ブリーン

アメリカの某大学経済学部卒業。主に社会経済や映画の事などを書いてます。ピラティスにはまり、指導員資格を取りました。
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