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2020.4.17
新卒内定取り消しを把握できたのは58名
新型コロナウィルス肺炎の大流行で、日本経済は大打撃。入社直前の新卒者の内定取り消しが相次ぐ、というニュースを見たかもしれませんが、実際は相次いではいません。厚生労働省が全国のハローワークを通じてまとめた新卒者内定取り消し数は3月30日時点で23社、58名でした。大学・短大・専門学校生が42名、高校生が16名でした。
「取り消しになった人を受け入れます」と表明する企業も現れ、〃被害者〃の大半は4月、晴れて社会人になれたようです。
入社直前の内定取り消しは法律的にも社会的にも企業のデメリットが大きく、悪評が何年も消えず採用活動に支障をきたします。もし入社させたら人件費負担で倒産が確実など、よほどの事情がなければ踏み切れません。
入社直前の内定取り消しは法律的にも社会的にも企業のデメリットが大きく、悪評が何年も消えず採用活動に支障をきたします。もし入社させたら人件費負担で倒産が確実など、よほどの事情がなければ踏み切れません。
では、1年後の2021年春入社なら、まだ正式な内定は出していないので、採用予定を大幅に減らしても、ゼロにしても、「新型コロナ不況だからしかたない」で済まされるのでしょうか? 法律上は問題なし。他の企業も盛んに募集している段階なので就活生もあまり困りません。企業が社会的な制裁を受けることもありません。
しかし、長期的な視点でみれば、新卒採用を大幅に減らすと後で泣かされることがありえます。「後が怖いから一定の採用数を維持する」のであれば、就活生は「来春の採用は就職氷河期の再来」「自分は就職できなくなるかもしれない」などと、むやみに恐れたり、あせったりする必要はなくなります。
新卒者はますます貴重な存在になっていく
新卒採用を大幅に減らすと、なぜ企業は泣かされるのでしょうか? それは日本の人口構成と密接な関係があります。
直近の国勢調査は平成27年(2015年)に行われ、各年齢別の人口が集計されています。2020年に4年制大学を卒業して就職する人は22歳で、彼らの国政調査時17歳の人口は121万人でした。昔と違って受験浪人はだいぶ少なくなりました。
直近の国勢調査は平成27年(2015年)に行われ、各年齢別の人口が集計されています。2020年に4年制大学を卒業して就職する人は22歳で、彼らの国政調査時17歳の人口は121万人でした。昔と違って受験浪人はだいぶ少なくなりました。
1歳下の16歳人口は119万人で15歳人口も119万人ですが、14歳人口は116万人、13歳人口は115万人、12歳人口は111万人と、少なくなっていきます。国勢調査当時7歳、10年後の2030年に22歳になる人口は107万人で、10年で11.5%減少します。2036年には100万人を切るなど、少子化で22歳人口は今後、減る一方。大学進学率が現状のままだとすると、大学新卒者は年々、その数を減らして貴重な存在になっていきます。
採用を減らしても大学新卒者も減るため、かつてのような「買い手市場」になりにくい構造です。景気が回復し採用を増やそうとすると、それこそ学生の奪いあいになります。
採用を減らしても大学新卒者も減るため、かつてのような「買い手市場」になりにくい構造です。景気が回復し採用を増やそうとすると、それこそ学生の奪いあいになります。
また、2021年入社の採用を絞り込んで「採用してくれない会社」という評判が立つと、採用を復活させても採りきれず、将来の人材不足に泣かされるかもしれません。技術系などは大学の先生が内心「2021年卒のうちの学生をボロボロ落としていたくせに、いまさら泣き言なんか言うな」と反感を持ち、学生を紹介してくれなくなるかもしれません。
企業は後が怖いから新卒採用を絞りにくいのです。それを考えると「新型コロナ不況で就職氷河期が来る」とは言い切れません。
企業は後が怖いから新卒採用を絞りにくいのです。それを考えると「新型コロナ不況で就職氷河期が来る」とは言い切れません。
就職氷河期は企業内の人口構成も原因だった
新型コロナ不況で就職氷河期の再来があるかどうか探るには、「就職氷河期は、なぜあんなに就職が厳しかったのか?」を再検証する必要もあります。
就職氷河期は1993年卒から2005年卒までの期間とされています。22歳で新卒とすると2015年国勢調査時点で32~44歳になります。各年齢別人口に当てはめると147万人(2005年卒)~200万人(1995年卒)で、2020年卒の121万人の1.2~1.7倍ありました。
就職氷河期は1993年卒から2005年卒までの期間とされています。22歳で新卒とすると2015年国勢調査時点で32~44歳になります。各年齢別人口に当てはめると147万人(2005年卒)~200万人(1995年卒)で、2020年卒の121万人の1.2~1.7倍ありました。
彼らのすぐ先輩の「バブル期採用組(1988~1992年卒)」の人口は5年間で936万人で、企業内で一つのボリュームゾーンを形成していました。ボリュームゾーンはもう一つあり、それは「団塊の世代(1969~1971年卒)」です。各年200万人オーバーでわずか3年間で637万人という人のかたまり。就職氷河期には団塊の世代は44~58歳で、定年延長もあってみな現役のサラリーマンでした。
つまり、就職氷河期は企業内に「バブル期採用組」と「団塊の世代」という2つの「人間の山」ができていて、その両方の給料やボーナス、退職金準備の負担で企業は大変だったのです。そのため「新卒の採用を厳選して人件費負担を少しでも軽くしたい」というのが企業の本音でした。
時は流れて現在、団塊の世代は70~73歳でそのほとんどは定年退職して企業に残っていません。大きな山が消えました。バブル期採用組は49~54歳でまだ現役ですが、団塊の世代ほど山は高くなく、後に続くのは就職氷河期世代の「盆地」ですから、企業の人件費の負担は20~25年前と比べてかなり軽減されました。金銭の面でも今後、一定の採用数を維持できるようになっているのです。
企業内に上の世代の塊が2つもだぶついた就職氷河期と、人余りがかなり解消し少子化で新卒者の数が減る一方の現在を、同一に論じるのは無理があります。また、企業経営上、採用数が上下に変動して社員の年齢別構成に凸凹ができるのは好ましくありません。新型コロナ不況で多少の採用減はあっても氷河期並みまで落ち込むと考えにくい理由が、そこにあります。もちろん当事者である就活生はくれぐれも油断しないように……。