世界のファッション業界が「アフリカ」に向かっている理由

経済

世界のファッション界で「アフリカ」の存在感が増し、富裕層向けラグジュアリー・ファッションでもアフリカンテイストが浸透しています。アフリカ発の優れたデザインもさることながら、ファッションの巨大市場に成長する可能性も、その背景にあります。

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2019.8.16

ファッション界の潮流はアフリカに向かう

いま、世界のファッション界で大きな潮流になっているのは「アフリカ」です。
「ヴォーグ(Vogue)」「エル(ELLE)」のような高級ファッション誌でも、ミラノ、パリ、ロンドン、ニューヨーク、東京で開催されるファッションイベントでも、「アフリカンテイスト」が最新のモードのトレンドとして幅をきかせています。
アフリカと言えば、現地の女性が身につける原色ファッションの鮮やかさは日本でもよく知られていますが、それだけではありません。
テキスタイル(布地)の分野では大胆な原色や幾何学柄だけでなく、レオパード柄(豹柄)など野生動物をイメージさせるデザイン、アフリカの大地をイメージさせるアースカラーなどもひっくるめて豊かな色彩文化に根ざしたデザインの良さが人気で、部分的にでもそれをとり入れた新作を世界の一流デザイナーが次々と発表しています。
最近の傾向として、カジュアルウェアのようなファストファッションだけでなく、富裕層など高所得層向けの「ラグジュアリー・ファッション(ハイ・ファッション)」でもアフリカンテイストが浸透してきていることがあります。かつてのアフリカにあった「貧困」「飢餓」など負のイメージは、そこにはありません。たとえばラグジュアリー・ファッションの代表格であるルイ・ヴィトン(LVMH)はガーナ系のデザイナーを大抜擢し、南アフリカなどでも若き才能を発掘しています。

「イケア」にもアフリカンテイストが登場

セネガルに本社がある100%アフリカンブランドの「トンゴロ(Tongoro)」は昨年、ファッションリーダーでもある歌手のビヨンセがイタリアでの夏のバカンス中にそれを着ていたことで、知名度が俄然アップしました。
ファッション界に影響力があるモデルのナオミ・キャンベルは「ヴォーグ」のアフリカ版を創刊するように提唱しています。ファッションの素材でも、アメリカの高級下着ブランド「ヴィクトリア・シークレット」は、ブルキナファソ産の無農薬オーガニック・コットンを採用しました。
そうした「アフリカン・インベージョン(侵略)」は、服飾の世界だけにとどまりません。日本でも人気があるスウェーデンの「イケア(IKEA)」は2019年5月31日、限定コレクション「オーヴェルアルト(ÖVERRALLT)」をリリースし、それは日本の店舗でも販売されています。
アフリカ大陸5カ国から10人のデザイナーを起用し、北欧デザインとモダンアフリカンが融合したテイストの家具や調理器具やクッションやトートバッグを企画・販売しています。「あのイケアがアフリカンデザインなのか?」と意外に思うかもしれませんが、アフリカへ、アフリカへ向かう世界の潮流は、そこまできています。

ファッションでも近未来の巨大市場アフリカ

なぜ、ファッション界はアフリカへ向かうのでしょう? 「アフリカにはすばらしいセンスのファッションクリエーターがいる」「多様性(ダイバーシティ)の時代だから」だけではありません。アフリカは21世紀後半という近未来、ファッションでも巨大な消費市場に成長する可能性があるからです。
人口が減少していく日本やヨーロッパを尻目にアフリカ大陸では人口増加が続いていて、国連の予測によれば2050年には25億人に達し、世界人口の4分の1はアフリカ人で占められる計算です。若い世代が多いので「H&M」「ZARA」「ユニクロ」などファストファッションが売れる市場のように見えますが、高水準の経済成長に伴って個人所得ではトップレベルで、ラグジュアリー・ファッションのお客さんである富裕層も増えていきます。モーリシャスに本部があるアフラシア銀行のアフリカ経済のレポートによると、アフリカ大陸の富裕層(年間収入1億ドル以上)は2024年までに53%増加し、これはアジアの48%増、ヨーロッパやアメリカの25%増をしのぐペースです。
そんな動きを先取りしようと、ラグジュアリー・ブランドの「ルイ・ヴィトン」は2000年、「ディオール」は2004年にアフリカに初上陸しました。「グッチ」や「マイケル・コース」がそれに続き、ファストファッションのブランドよりも進出が早かったぐらいでした。進出の拠点は当初モロッコでしたが、アパルトヘイト政策が終わった地域大国の南アフリカのケープタウン、さらにはいま人口が2億人に迫る若き地域大国、ナイジェリアのラゴスが浮上しています。
現在は「ケープタウン・ファッションウィーク」と「ラゴス・ファッションウィーク」がアフリカのファッション界の二大イベントになっています。22世紀が始まる頃、ケープタウンとラゴスはファッション界でパリやミラノやニューヨークと肩を並べるような重要な都市になっているかもしれません。日本はその流れに乗れるでしょうか?
寺尾淳(Jun Terao)

寺尾淳(Jun Terao)

本名同じ。経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、現在は「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)などネットメディアを中心に経済・経営、株式投資等に関する執筆活動を続けている。
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