2018.8.1
職場の孤独感とその悪影響
職場の人間関係は、働く人々に大きな影響を与えます。特に職場での孤立は仕事を辞める理由としては十分。職場で孤立しないよう嫌われそうな言動を直すべし、「ありがとう」などの声かけを増やすべし、といったアドバイスもよく聞かれます。
もちろん、職場で「一人で過ごす」ことは決して悪いことではありません。仕事に集中したり昼寝をしたり、ただそうしたいからという理由で主体的に「ぼっち」を選ぶのは問題ありません。そうではなく、「人とつながりたいのにつながれない」という孤独感が問題なのです。職場での孤独感は、従業員のモチベーションを下げ、健康に悪影響を与え、生産性も低下など良いことなし。
孤独感をもつ人が増えていることは1980年代から指摘されており、2005年になるとOECD(経済協力開発機構)の報告書にも「孤独」についての調査が加わりました。職場での孤独が注目され、従業員同士が「親睦を深める」ために社内交流イベントを実施する会社も多く見られます。中には、イベント成功させるべく「全員参加」を強調する会社さえあるのだとか。
社内イベントがコミュニケーションを促進?
「職場の孤独」と題する特集を行った『ハーバード・ビジネス・レビュー』2018年6月号では、孤独がもたらすデメリットと孤独を和らげる方法が多く紹介されました。
その中で、ノースウェスタン大学の経営大学院准教授のアダム・ウェイツは社内イベントの参加者が犯しがちな過ちを指摘。すなわち、「異なる関係性の混合」——「共同的関係」と「交換的関係」をごちゃまぜにしてしまうこと——です。
「共同的関係」とは、家族や友人との関係のように、見返りを求めずに要求に応えるような関係。「交換的関係」は、いわゆるギブ・アンド・テイクを期待する関係。「今度その仕事手伝うから、このプロジェクトを助けてくれない?」という、同僚との間などで成り立つ関係です。
社内イベントでは、普段は交換的関係にある人が突然共同的関係を持ち出すことがあります。たとえばプライベートの悩み相談や突然の打ち明け話、悪くすれば交際の申し込み・・・コミュニケーション促進どころではない、気まずい空気が流れることは想像に難くありません。
他にも、人は共通の話題がない人とは話しにくいこと、自分と違う傾向にある人を敬遠する傾向があることなどを挙げ、社内交流イベントも結局は馴染みの顔同士が集まってワイワイするだけになってしまうと指摘しています。
従業員の孤独を和らげるには
やろうと思えばネタの尽きない社内イベントですが、企画・開催する際は何を目的に行われるのか、そのイベントで本当に目的が達成されるのかを見失ってはいけません。
それには、参加者がやりがちな失敗だけでなく、社内イベントの開催自体が従業員の孤独を深める可能性にも目を向ける必要があります。社内イベントに参加するということは、家族や友人と過ごす時間や、趣味に興じる時間を奪われるということ。休日開催なんて、休めるはずの日に休めないしプライベートの付き合いができないしで、メリットはほとんどなし。社員旅行は慣れない相手と数日間同室で眠ることが苦手な人にはつらいものですし、恋人や愛する家族と触れ合えないことを苦痛に感じる人もいます。
多くの人が楽しめることを重視したイベントは、逆に少数の人は楽しめなくても仕方がないことを容認するイベントでもあるかもしれません。けれども、その「少数の人」こそ、実は職場で孤独感を深めている人かもしれないのです。ビジネスにおいてペルソナを設計するのと同じように、どういう人たちのために社内イベントを行うのかを意識することが重要。休日を設けて従業員をそっとしてくことがベストなケースも含めて、社内イベントの方針を考える必要があるということです。
【参考】
アダム・ウェイツ(飯野由美子訳)「つながりを構築できない原因は何か 社内交流イベントの負の効果」、『ハーバード・ビジネス・レビュー』 2018年6月号、pp.52-55
河合薫「孤独という病」は伝染し、職場を壊す:日経ビジネスオンライン
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/061100163/