2017年12月20日 更新

〈新川 義弘〉どんな世代とも共存共栄 ~新川義弘が語る、“競争原理は不要。長期目線で人的資産を育てていく”

一軒のレストランが街の価値を向上させ“街の資産”となっているという姿を目指し、お客様、街、レストランが一緒になって、長期の目線で店作りをしていく。起業人の新川さんに、大切な人的資産の育て方などについて聞きました。

どんな世代の人もやってくる「共存共栄」の経営手法

神原
先日、HUGEの運営する代官山の「Hacienda del cielo」に行ったときに客層の広さに驚きました。デートの人もいる、家族連れの人もいるし、私たちのようなアラフォーの女子会といった人もいたんです。ターゲットやニーズを絞り込んでいるお店も多いですが、新川さんのところは、今流行りの言葉で言うとダイバーシティを実現したようなお店の雰囲気でした。

新川
特定の世代にアタッチメント(傾斜)しないというのが、今の僕の経営手法です。本当は、そもそもアタッチメントをするもしないもないというようにしたいのです。時代や世代によって価値感やプライオリティが変わってきていて、それをこちらがどう対応していくかという問題ではないかと思うからです。同じ場所でも、例えば1989年のバブルの頃ならシャンパンラウンジにして、表に出られるのは格好良い男女だけでシャンパンを開けてくれないとソファに座らせないような店も通用したと思うんです。でも今なら、そこで500円のコロナビール、そして誰もが来られる。でも若い人が「え、ちょっと。こんな格好良いところに入っていいの?」と少し怯む感じのスタイルにする、という感じですね。

神原
そのスタイルは、年齢ではなく、それが気持ち良いかどうかということがポイントになるということでしょうか。
新川
そうです。49歳の僕が家族で行っても、20歳台の人たちが少し背伸びして来ても、同じ空気を吸っているという状態もあり、という店です。
全体の雰囲気、ある程度の節度、客層への考え方といった点さえ守っていけば、共存共栄できるのではないか、というのが今のお店作りのポイントですね。
この考え方は昔と変わっていません。

運とは実力。普段のルーティンワークから手繰り寄せるもの

神原
経営者になると、数字を見ながら絵を描くようになりますね。その絵の細部が見られないと、数字を立てられない。新川さんはコンサルティングの経験もおありですが、そこでの経験も今の資産になっていらっしゃるのでしょうね。

新川
僕は以前、リンク・ワンという会社でコンサルティングをやっていて、北海道の鉄道買収案件で半年間、優秀な人と一緒に土地開発案件に携わり、物凄く濃く楽しい経験をしました。

神原
コンサルタントという仕事について、実際に経験したことが、現在の新川さんの大きな財産になっているんですね。

新川
はい、感謝ばかりです。どういうところに優秀な人が集まるのか?それは、光っていて、何かを起こしそうな人、「あの人、何だかいつも運が良い」というところにしか、人は集まってこないのだということを学びました。

神原
運は、それを引き寄せる力も必要ですね。

新川
運とは実力ですね。間違いないと思います。運は10年に1回、あるいは一生に1回の場合もあります。普段のルーティンワーク、経験の積み重ねから手繰り寄せてくるものだと思います。

資金面の苦境で培われた責任感

神原
新川さんは現在の会社は、立ち上げのときはリンク・ワンの子会社でしたが、その後MBO(マネジメント・バイアウト、経営者等による株式買戻し)を行っています。資本戦略上で考えると、一旦他人資本で作ったものを後でMBOするのは大変だったのではないですか?

新川
そうですね。コミュニケーションの問題もあったと思います。とにかく自分がやりたいお店を作るために僕は自分でお金を集めることになりました。もちろん、店もないのに銀行からお金を調達できませんから、貯めてきたお金を入れたり、自宅を売却したり、VC(ベンチャーキャピタル)にもお金を出してもらって資金の手当てをしました。

神原
当時の資金面での苦労は、今の会社の経営に影響を与えていますか?

新川
そうですね。圧倒的な違いは、責任ですね。大金を借りて、そこに連帯保証で代表者名を入れてくださいと言われてサインをしたときのことを思い出すと、今でも指先が震えます。でもその怖さが、今度は責任とやる気に変わっていきました。お陰様で当社もいまや700人の大所帯になります。すると700人の家族があるわけで、700人を道連れにしてしまったようなもの。僕がしっかりやらなければという気持ちになります。会社の資金はMBOで途中から自己資金に変わりましたが、他人資金によって責任感が育まれるという勉強をしました。

人的資産の育て方は、時間をかけ、目線を合わせてコミュニケーション

神原
グローバルダイニングでナンバー2として仕事をしている状態と、ご自身が経営者としてやっている現在との違いは何でしょうか?

新川
経営リスクがリアルにのしかかってくる点です。「当たらなかったらどうしよう」というプレッシャーが常にあります。スタンスとしては慎重にならざるを得ないのですが、一方で作品としてのお店に対しては、以前よりも細かくなったような気がします。

神原
お店づくりからサービスまで、すべて細かく見るようになったということですか。

新川
はい。そして「細かい」という意味も目線が違って来て、以前の自分は現場の長としての細かさでした。今も自分は現場の人間という気持ちは一緒ですが、一番大きな変化は、僕の与えられている最大の権限が、店長とチーフを決めることだと言う点です。この点に、ものすごく細かさを持つようになりました。以前は挙手制で、やりたい人にやらせていたことがありましたが、今は自分の納得のいく人に任せるために、目線を合わせるところまで、かなり時間をかけて細かくやるようになりました。

神原
まだ手を挙げていない人にも任せたいということを、コミュニケーションを通じて、同じ目線になるまで時間をかけて、適任者に任せるやり方になったということですね。

新川
16店舗の店長とチーフ、その30数名のマネジメントリーダーと本部のリーダーは、全員僕の目で選んでいます。多数決で決めるというのは、経営の論点から言うとあり得ないと思っています。究極の自己中心的な部分は必要です。それは勇気かもしれないし、決断力かもしれない。それを持ち合わせながら、このような形で決めていくということが、ポイントとしてあると思います。最近、僕の肩書CEOの「E」は、「チーフ・宴会・オフィサー」の「E」かな、という感じで、秘書や広報が心配になるくらい、最近宴会が多いです(笑)。必ずしも「ノミュニケーション」が良いということではありませんが、私はそういった場を通じて、新たなリーダーを発見しているのです。

神原
自分がこの人、と決めたメンバーで仕事ができるというのは、ある意味、経営者だけが実現できる最高の贅沢かもしれませんね。

サービス業というのは、人の心を読む仕事。競争原理は不要。 ここにいる人たち、1人も辞めないで、ずっと働いて欲しい

新川
サービス業というのは、人の心を読む仕事といえます。人が今、やって欲しいと思うことを察知することが必要です。場を大事にするし、空気を大事にする。こういうことができる人は、実は打たれ弱いんです。そういう人を育もうと思ったら、競争原理は入れない方が良いと思っています。
2006年、レストラン「ダズル」を立ち上げ、スパニッシュイタリアンの「リゴレット」2号店を新丸ビルに出店したときに考えたのは、「人が辞めない会社にしよう」ということでした。そのとき、私は社員に言いました。「ここにいる人たち、1人も辞めないで、ずっと働いて欲しい。皆さんに長く働いてもらって、その実績や経験が生かせる会社にしましょう。」と。そのために給料を下げない会社にしていきたい。それで飲食業にはあまりない事例だと思いますが、年間賞与を給与の2ヶ月が最低ラインという基準を定めました。年収は14ヶ月。そうすると、皆年間の収入額をイメージできますから、そこから下がらないという安心感ができて、これは大きかったかなと思います。

神原
安心して働けるという約束をしてもらっている安心感があるというのは凄く大きいことですね。HUGEは長期的視野に立って考える人材を育てている。このような考え方が、会社内に行き渡っているという実感はありますか?

新川
一つの例として、従業員持株会の話をしたいと思います。当社は従業員持株会制度を、会社設立2年目に立ち上げました。一口5千円でその拠出額に5%の奨励金をつけ、辞めるときにその金利を付けてお返しする。但し、万が一当社が倒産したときは100%お返しできるかどうかは約束できない。そのリスクも承知の上で入会してくださいと説明しました。そして現在ですが、170人弱の社員の会社で、130人が入会しています。アルバイトの人もいます。月手取り20万円くらいの人で7万円入れている人もいます。積立累計額が800万円くらいになっている人もいます。それが何を表しているかということですが、会社へのロイヤリティ、信頼があるのではないかと思います。そのような人達の仕事に対する意欲は、ちょっと違いますね。

神原
これは会社が好きでないと、そして長期で働くつもりでないと出来ないですね。

神原
そのとおりだと思います。自分の店ではなく会社で働いている、というイメージも大分浸透してきたように思います。例えばリゴレット新店舗を東京スカイツリーに出したときに、全店メールで「今、早番メンバーが足りない!」と発信すると、自発的にアルバイトの子たちが「1日なら入れます」「この日は大丈夫です」と返してきます。受け入れる側も行く側も、それを応援する雰囲気になっていて、会社全体を良くしようというカルチャーが出来ているということを感じます。

“100年品質レストラン”に向けて、店長・チーフもロングタームの お客様目線

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