「サラリーマンが300万円で小さな会社を買う」作戦はアリなのか?

『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』という刺激的なタイトルの新書。Web「現代ビジネス」で500万PVの人気連載に加筆した形のビジネス本です。個人で会社をM&Aできる時代になりましたが、なぜサラリーマンが? なぜ300万円で小さな会社なのか? 副業や起業ではダメなのか? タイトルを目にして色んな疑問と興味が浮かび、実際に読んでみようと思った次第です。

2018.12.4
著者の三戸政和氏は投資家、企業のコンサルタント、そして元兵庫県議会議員などの経歴の持ち主。県政に関わり社会の構造も理解したうえでのアイデアも気になる所です。さて、著者の主張とは一体どんなものなのか?その内容に迫りたいと思います。

「ゼロイチ起業」はとにかく大変!

まず、なぜ著者は起業や副業ではなく個人M&Aを勧めるのか?という理由に迫ります。その理由は第一章「だから、起業はやめておきなさい」を読み進めば一目瞭然。起業で成功をすることの難易度が“非常に高い”からにほかなりません。
著者は自身のアイデアでゼロから会社を起こす人を「ゼロイチ起業家」と呼んでいますが、彼らは会社員の何倍もハードな労働を苦も無くこなすバイタリティが必要で、しかもベンチャー企業のうち実際に投資を受けて上場にこぎつけるのは1000社のうち3社とも言われるほど競争が激しいのだそうです。
しかし、上場を目指すわけではなく「好きなことで稼ぎたい」という人なら起業もアリなのでは?とも感じたのですが、その考えもどうやら甘いのかもしれません。第2章では個人でチャレンジしたいビジネスの中でも人気上位の「飲食店経営」がどれだけ厳しい商売なのか説明されていました。

飲食店経営は超過酷!

「コーヒーが好き」「ジャズが好き」「お酒が好き」「料理が好き」。身近で触れる機会も多いだけに起業アイデアとして真っ先に浮かびそうな飲食店ですが、筆者に言わせれば「飲食店経営に手を出したら地獄が待っている」。投資家としても絶対に手を出したくないジャンルだと断言しています。
なぜそこまで強い言葉を使うのだろうとも感じましたが、それは飲食店経営にチャレンジして失敗してゆく人をたくさん目の当たりにしたからでした。飲食店は普段行くことが多いだけに身近に感じますが、実は立地の選定、人件費をはじめとした資金繰り、店舗作り、商品企画、仕入れ、マーケティング…などなど、経営学のあらゆる要素がすべて詰まっている。しかも、店舗は固定されて動かすこともできず、ライバル店の出店などどうしようもない要素にまで左右されます。総合的に考えて、とても素人が安易に始めて成功できるビジネスではないというのです。
さて、いかにゼロイチ起業が大変なのかが分かったところで、本書のテーマ「300万円で小さな会社を買う」という、個人M&Aのお話です。

オーナー社長のすすめ!

日本では起業して5年後に残る製造業の会社は半分以下の42%、10年後となると23%しかありません。改めて起業の厳しさを感じるデータですが、そこで著者は「ゼロイチ起業より、過酷な10年を生き抜いた23%の企業の“オーナー社長”になる」という提案をします。具体的には自分の知識や経験を活かせる中小企業を見つけて、個人でM&Aをして、経営を引き継ぐ…というものです。
そんな簡単にできるのか? と思う方もいるかもしれませんが、実は企業でサラリーマンとして働いている人は、知らず知らずのうちに中小企業の事業を引き継ぐ能力を身に付けている可能性が大いにあるのだそうです。

サラリーマンこそ小さな会社をM&Aすべき理由とは!?

大企業の仕事を「面白みがない」「成長しない」「やりがいがない」という人もいますが、実は大企業は競争の激しい業界を生き抜くため新しい経営システムを随時導入し、日々対応を迫られているサラリーマンは自覚のないうちにノウハウを学んでいると言えます。逆に、中小企業ではシステムの導入に経費が掛かるために断念していたり、そもそも検討すらしていない場合が多いのです。
つまり、自分が知らず知らずのうちに身に付けたサラリーマン時代の「あたりまえ」を中小企業に取り入れるだけで事業がうまく回り始め、会社の価値を高めることができるケースが非常に多いのだそうです。そして今、日本全体を見回せば370万社のうち7割もの企業が後継者探しに苦労し、中には黒字経営ができているにもかかわらず会社をたたむ決断をする社長も増えています。
そこで、そういった企業を相手に個人M&Aをして、自分のノウハウを活かしながら役員報酬も受けられる。もちろん、場合によっては成長した後で売るという判断もできるのは非常に魅力的です。昔はM&Aと言えば「ハゲタカ」のイメージがあり、会社を乗っ取る悪者のイメージでしたが、今や中小企業の事業を継承する担い手としての役割りも。
この他、M&Aに反対する社員と良好な関係を築くために、自分は専務として会社に入り社長とともに経営改革する方法や、そもそもM&Aするにふさわしい会社の探し方など、具体的な方法も様々紹介されていました。
最近、サラリーマンとして働きながら、そのメリットを活かして副業で成功をしている方の書籍も読みましたが、同じようにサラリーマンの長所を活かして人生を豊かにする作戦として個人M&Aは「アリ」なのではないでしょうか?少なくとも個人M&Aに対するネガティブなイメージは消え去りました。
横山ケン太

横山ケン太

趣味はアウトドア、興味は財テク。フリーの作家として活動中。
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