草刈:そんな中『Shall we ダンス?』に出演して、私の名前も広まって観客動員が一気に増えました。バレエ団の公演以外でも、私を使って企画を立ててくれる人が増えて、バレエの仕事が充実し始めたんです。このおかげで私は、日本国内でもプロフェッショナルの道を開拓していくことができたのです。演目を決めたり、ギャラの金額についての判断をしたり。その他にも、雑誌、テレビなど様々な仕事を通していろいろな角度から「仕事とは?」ということを覚えることができました。
STAGE編集部:バレリーナは、まさに身一つで稼ぐ仕事
草刈:踊りというのは言葉もなく、「どれだけ表現できるか?」ということに尽きます。
その価値がどれだけの稼ぎにつながるかという非常にわかりやすい仕事です。ウソがつけないシンプルな職業なのではないでしょうか。
その価値がどれだけの稼ぎにつながるかという非常にわかりやすい仕事です。ウソがつけないシンプルな職業なのではないでしょうか。
STAGE編集部:自分で稼ぐ。「本当のプロフェッショナル」になって変化した事とは?
草刈:自分で稼いだお金を思うように使えるようになって、自分を向上させるためのあらゆる工夫にお金をかけられたことが良かったです。体の維持や、さらなる向上を目指すために、治療やトレーニングは欠かせませんでしたし、時間が空いたときには、海外の先生にレッスンをしてもらいに行くこともありました。英語の勉強もしましたしね。何事も良い先生、良いコーチにつけば結果は出ます。でも、それにはお金がかかります。そこに制限をかけず、納得いくまできたことが良かったです。
結局、自分自身を向上させていくには、あらゆる方向からの工夫が必要で、そこにお金をかける必要があるのです。私の場合も振り返ってみれば、バレエの先生も、トレーニングのコーチも、治療の先生も、より高いレベルの人を求めていきました。
プロのアスリートをみればわかりますが、やはり実力のある人は稼ぎも大きい。アスリートに限らず、楽器演奏者、オペラ歌手など、身体的技術を磨いていく必要がある分野では、力がある人ほど良いコーチがついています。良いコーチは当然報酬も高い。教えて下さる方々も、当然レッスン料を払ってレッスンをして来られたはずで、レッスン料は教えてくださる方の、才能、それまでの時間や労力、全てに対する対価です。
この感覚はワールドスタンダードとも言える、プロフェッショナルの世界での了解ごとのような気がします。こういうことを理解できたことが、「対価」に対しての自分なりの基準につながっていったと思います。バレリーナの活動を通して身につけられたことは、プロフェッショナルな視点です。それが今の仕事にもつながっているし、自分の生き方の軸になっていると思います。
STAGE編集部:旧ソ連やルーマニアでの公演を成功させ、2005年には『愛・地球博』の野外公演もプロデュースするなど日本を代表するプリマに。そして2009年、35年にも及ぶバレエ人生に終止符を打った。
草刈:あの時期でやめたのは、自分でこれ以上踊るのは無理だと思ったから。やはり引き際は明確にしたかった。引退公演は自分でプロデュースをしました。単に私の最後の公演というだけでなく、日本初演の演目も紹介できましたし、最後まで新たな試みができたことが良かったと思っています。