世界が景気後退に陥るまでは、円高は進まないだろう

世界経済が減速し円が買われやすい地合いのなかで、ここ数か月の円相場は107円台~110円台で落ち着いた動きを継続しています。これまでのようにリスク回避の円高が起きないのは、主に2つの需給要因が海外の投機筋による円買いを防いでいるからです。実のところ、円相場の中長期的な動向に影響する需給要因が、夏場あたりから円安方向へ強く作用しているようです。

世界経済が減速し円が買われやすい地合いのなかで、ここ数か月の円相場は107円台~110円台で落ち着いた動きを継続しています。これまでのようにリスク回避の円高が起きないのは、主に2つの需給要因が海外の投機筋による円買いを防いでいるからです。実のところ、円相場の中長期的な動向に影響する需給要因が、夏場あたりから円安方向へ強く作用しているようです。

円高を防ぐ要因1【日本の貿易赤字】

まず1つめの要因は、日本の貿易赤字が円高を防いでいるということです。2019年の前半は輸入額と輸出額がほぼ均衡する状態にあったのですが、7月以降は輸出額の落ち込みのほうが大きく、3カ月連続で輸入額が輸出額を上回るかたちとなっています。2019年度上半期(4月~9月)の貿易統計によれば、輸出額は38兆2,332億円と前年同期比で5.3%減、2期連続の減少となっているのです。

日本の輸出額が減少したのは、中国への輸出が7兆2337億円と9.1%減、中国を含めたアジア全体への輸出額が20兆4648億円と8.4%減だったことが影響しています。その結果として、2019年上半期の貿易収支は8480億円の赤字に陥っているのです。企業は海外から商品を輸入する際に、必要なドルを得るために円を売ることになるため、貿易赤字は円安へ振れる要因になるというわけです。

中国の2019年7-9月期のGDP成長率は6.0%の伸びにとどまり、2四半期連続で減速しています。比較が可能な1992年以降では、最低の水準を更新しているのです。中国経済の減速が続くかぎり、アジアの国々の減速も続くことになるため、2019年のうちに日本の輸出が回復するという見込みは立てることができません。米国の経済も減速傾向にあり、2020年に入っても貿易赤字が定着する可能性を視野に入れておくべきでしょう。

円高を防ぐ要因2【日本の外国債券投資の活発化】

2つめの要因は、日本国内の機関投資家が外債投資を活発化させているということです。財務省の統計によれば、日本から海外への中長期債の投資による買い越し額は、2019年の9月の時点で2016年以来3年ぶりの高水準に達しています。2019年に入って再び外債投資が増えてきたのは、世界各国で金融緩和へといっせいに舵を切っているからです。国内の機関投資家は日本国債に投資しても妙味が薄いので、プラスの利回りを得られる米国債市場への投資を加速しているのです。

国内の主要な生命保険10社の2019年度の運用方針では、国内債券への投資額は1兆円程度の減少となる一方で、外国債券への投資額は2.5兆円程度の増加になるとのことです。そのうえ、2018年度は外債投資2.2兆円のうち、為替変動の影響を避けるヘッジ取引を組み合わせた投資が1.7兆円と8割弱を占めていましたが、2019年度は対照的に外債投資2.5兆円のうち、ヘッジのない投資が1.7兆円程度と7割弱に増える見通しだということです。

ヘッジのない投資が増えているのは、米国の2015年からの利上げの継続によって、ヘッジにかかる費用が増えていたためです。ヘッジしない米国債投資であれば、為替リスクを負うことになっても利回りは確保できるため、生保の機関投資家のあいだでは108円台でも米国債を積み増したいとの声が多いということです。当然のことながら、ヘッジのない米国債投資は実需の円売りを伴うので、円安ドル高の要因になります。

円相場は年内は安定か

以上の2つの需給要因から、円高が進む環境はしばらく訪れないだろうと見ています。今後100円に迫るような円高が起こるとすれば、世界経済が不況になるという見通しのもと円買い需要が強烈に強まるか、あるいは、米国や中国の企業債務を発火点とした危機が起きるか、といったケースでしょう。ですから、円相場は少なくとも年内は安心して見ていられる環境にあると思われます。

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