海外で活躍するには日本の伝統文化は必須の教養

海外で活躍する国際人になるために必要なのは、日本の伝統文化を説明できることであると、国際交流にたずさわる人がよく口にします。その理由や、どんな知識をどこで身につければ良いか解説します。

2019.3.15

日本の伝統文化は「国際人必須の教養」?

国際交流にたずさわる人がよく口にするのが「世界で通用する『国際人』になるには、日本の伝統文化をよく知って、それを外国人に説明できるようになりなさい」という言葉です。その裏には、語学力があり外国文化の知識が豊富でも、それだけでは不十分だというニュアンスが含まれているようです。
外国人の立場に立って考えれば、「日本の文化について、日本人から直接聞きたい」と思うのも、ある意味当然です。「自分の国について聞かれたら話すから、自分が関心を持っている日本の文化について教えてほしい」というギブ・アンド・テイクの関係です。
海外に行っても、訪日外国人を迎える時も、国際交流はそんなところから始まります。日本文化の知識は「国際人必須の教養」というよりも、異文化コミュニケーションを円滑に行えるようにしてくれるツール(道具)です。
しかし、日本の文化、それも外国人の多くが関心を持つ伝統文化について、自分はどれだけ知識があるのかと言われたら、ちょっと心もとないという人が大部分でしょう。和食や相撲についてはうまく答えられても、茶道や能楽について聞かれたらもうお手上げ、という人もいるでしょう。
では、日本の伝統文化は、何をどこでどうやって学べばいいのでしょうか?

求められているのは伝統文化の広く浅い知識

外国人が関心を持つ日本の伝統文化はさまざまで、レベルもまちまちです。「ニンジャ」が好きな少年も、「きれいな着物」に憧れる若い女性も、「浮世絵」の版画を集めている人も、「禅」について本格的に学びたい知的水準の高い人もいます。
それらを全てカバーするのは大変ですが、つまみ食いのように「広く、浅い」知識を持っていたら、何を質問されても臨機応変に対応しやすくなります。
たとえば、外国人からいきなり「禅問答とは何か?」と聞かれたら、知識がなくて答えられなくても、鈴木大拙という仏教学者が英語で著した禅の解説書を紹介して「これを買って読んでみてはいかがですか?」と言えたら、それでいいのです。質問に備えて禅問答の修行までする必要はありません。「禅はとても難しいので、現代のふつうの日本人にはなじみが薄い」と付け加えれば、その外国人は納得してくれるでしょう。
同様に、能楽や歌舞伎や和楽器も、茶道や華道や書道や俳句も、日本建築や日本庭園や古美術も、神社や寺院の祭礼や年中行事も、知識の基本の部分だけをおさえた紹介ができ、もっと詳しく知りたければ「この博物館や美術館に行けばいい」とか「この本を読めばいい」と案内ができれば、それで外国人とのコミュニケーションは成立します。「この日本人は何も知らない」と失望されることはありません。もちろん、それらを詳しく知っているに越したことはありません。
「一芸に秀でた人は違う」とよく言われますが、一芸を深く極めるには家元制度などもあって費用もそれなりにかかります。日本の伝統文化を外国人に伝えるにはむしろ百芸を広く浅く知っているほうが有利と言えます。なぜなら何を聞かれるか、わからないからです。

日本の伝統文化を学べる場は意外に多い

「日本伝統文化伝承師」というNPO法人の職業技能専門教育研究機構が認定する民間資格があります。スクールで所定のカリキュラムを修了すると認定されるというものですが、「衣食住」「芸能」「芸道」「伝統行事」の4つのカテゴリーにわたって幅広く学び、最終的に誰かに教えられるようになることを目指します。これも広く浅い知識が求められていて、たとえば戦国武将や幕末や忍者に詳しいだけの歴史マニアの人では取れないような資格です。資格取得の対象として、文化庁開催の伝統文化親子教室のような場で青少年の教育にたずさわるような人や、通訳、観光ガイド、日本語教師のような外国人に接するような人を想定しています。
総合的な日本伝統文化伝承師の養成コースは50万円近い費用がかかりますが、大学や自治体やカルチャースクール、博物館や美術館、神社や寺院などが開いている個々の伝統文化の講座なら、費用もリーズナブルです。探してみれば意外に多くの教室があります。NHKや放送大学などのテレビ、ラジオの講座や、eラーニングの講座もあります。
「歌舞伎の見方」「浮世絵の鑑賞法」「○○焼の歴史」のような初心者向きのライトなものでも、外国人に日本の伝統文化を紹介する時には役に立つでしょう。その道の師範や専門家を目指すわけではないので、知識は「広く、浅く」身につけることがポイントです。
寺尾淳(Jun Terao)

寺尾淳(Jun Terao)

本名同じ。経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、現在は「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)などネットメディアを中心に経済・経営、株式投資等に関する執筆活動を続けている。
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