金価格が示す市場心理

「額歴」がぐんぐん上がる経済ホットレ
実は、あまり認識されていませんが金価格が上昇しています。2018年8月以降、徐々に値段を切り上げて約半年で約10%を超える上昇です。今回の金相場は市場の見通しと心理を示している可能性が高いため今回は分析をしてみたいと思います。
2019.2.8

市場関係者の米国の利上げ停止織り込んだ上昇

今回の金の上昇の動きからはっきり分かること。それは米国FRBの利上げ路線の変更を市場が織り込んだということです。すごいことです。たった1カ月で世界の市場は、米国が利上政策堅持から利上げ政策の変更に移行するを寛容に受け入れたことになります。通常、このような大きな金融政策の変更、しかも世界の超大国アメリカの政策変更となれば、市場は疑心暗鬼になり市場は慎重に受け入れる傾向があります。
さて、このような大きな転換は、FRBが開催した1月30日のFOMCにおいて利上げ見通しの変更と資産縮小政策を修正することが確認されたことによりなされました。では、具体的にどのような市場の動きを見ればこの政策の転換を受け入れたのかわかるのでしょうか。それは、今回のテーマである金価格の動向で確認することができました。
昨年の8月から上昇していた金価格は、今年に入り1オンス1,300米ドルの壁をなかなか超えることができませんでした。しかし、FOMCの開催後その1,300ドルの壁を抜けて1,320ドル(2月3日時点)に達しています。ではなぜ、この金価格上昇が金融政策の変更を受け入れたということなるのでしょうか。そこには米国の利下げ=金価格の上昇という投資の世界における教科書的な動きが存在するからです。
基本的に投資の世界では、米国の金利が上昇すると金の価格は下がる傾向があります。それは、米国金利上昇が米ドルの買いを誘発し、利息を生まない金から資金が米ドルへシフトするからです。つまり投資家は金を売るモチベーションが高まります。一方、金利が下落すると金の価格は上昇します。それは、金利が低下する米ドルを保有するモチベーションが低くなるからです。
このようなことから今回の金の上昇は、米国の金融政策の変更、つまり金利低下を市場が織り込んでいるということがわかっていただけたかと思います。そのためやや楽観視し過ぎな印象がありますが、米国の株式市場では金利低下をポジティブにとらえ、年初から市場を包み込んでいたネガティブな雰囲気が少し和らいでいるように感じます。
このように今年は金相場にヒントが潜んでいそうに感じます。しっかりと金相場を追っかけていきたいと思います。

でもこれでは2018年8月からの金価格上昇は説明できません

前述の通り、今年の1月末からの金価格の上昇は米国の利上げ政策の見直し、つまり、金利の据え置きもしくは低下見通しが要因となっていることがわかりました。ところが今回の金価格の上昇は、2018年の8月(1,170ドル/1オンス)からスタートしていました。
実はこの上昇期間中もFOMCでは、9月、12月と利上げを2回も行っています。このように政策金利を引き上げている局面では教科書的には金価格が下落する傾向にあります。しかし実際は金価格は上昇しています。つまり、8月以降の金価格の上昇は、金利が原因であるという説明はむずかしいことがわかりました。ちなみに、金価格と逆相関の関係にある米国の実質金利も8月以降高止まりしていることから実質金利が原因ではないこともわかります。
つまり、金利以外の要因で金価格が上昇していると判断するのが懸命なようです。そこで、改めて思い出すのが「有事の金買い」という金融格言です。有事の金買いとは、安全資産とされる金は金融市場がリスクオフ、つまり市場が不安定になった際に市場から選好され買われ価格が上昇するということから来ています。
さて、この格言と8月という時期から考えると、すわ「米中の貿易戦争」を市場が懸念したから金価格が上昇したのだろうと想像しがちではあります。しかし、改めて金価格の動向をみると、2018年1月の金の価格は1350米ドル。そこから8月までジリジリと下げて一旦底値の1170ドル。そこから切り替えして年末まで1300ドルまで上昇しています。この1月から8月までの金価格が下がっている間も、米中間の貿易摩擦は激化していましたし、それ以外にもトルコ・ショックなどもあり幾度となくスクオフになる場面はありました。それでも金価格は下がっていました。
つまり、この8月からの上昇を米中の貿易戦争や地政学リスクなどだけに理由を求めることはすこし無理がありそうです。では、その上昇の本当の原因は何であるのか?実はこれを考えることが大変重になってきます。現時点でははっきりした理由は市場では判明していません。明確な理由が見当たらないのです。
「市場ことは市場に聞け」という金融格言があります。私たち投資家は、今回の政策変更や金価格動向、株式市場や為替相場が近い将来の市場動向を暗示していることを理解できないままほっておくわけにはいけません。投資の世界で成果を上げるには、市場の動きに耳と目を傾け、昨年以降の金の動きが何を示しているのかをしっかりと確認できるまでしっかりと気持ちを引き締めて相場に望むことが大切だと改めて感じた金相場でした。

渋谷 豊

ファイナンシャルアカデミー総研代表 、ファイナンシャルアカデミー取締役

シティバンク、ソシエテ・ジェネラルのプライベートバンク部門で約13年に渡り富裕層向けサービスを経験し、独立系の資産運用会社で約2年間、資産運用業務に携わる。現在は、ファイナンシャルアカデミーで取締役を務める傍ら、富裕層向けサービスと海外勤務の経験などを活かした、グルーバル経済に関する分析・情報の発信や様々なコンサルティング・アドバイスを行っている。慶応義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。
ファイナンシャルアカデミーグループ総研 http://fagri.jp/
ファイナンシャルアカデミー http://www.f-academy.jp/

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