富裕層向けビジネスに注意?金融機関に丸投げはリスキー

富裕層向けビジネスが注目されています。これから、富裕層向けサービスを利用してみたいと考える方もいるでしょう。様々な金融機関などが富裕層向けビジネスに乗り出していますが、注意すべきことも少なくありません。自己防衛のために、資産運用の勉強を先にした方が賢いのかも知れません。

2019.4.4

日本のお金持ちは富裕層向けビジネスの格好のターゲット?

富裕層向けビジネスを考える際、世界でも指折りの世帯数・資産保有高を誇る日本の富裕層は、良くも悪くも格好のターゲットです。各種メディアを眺めれば、旅行代理店による豪華客船を利用したクルーズツアーの企画、高級ホテルチェーンによるエグゼクティブフロアやリムジン送迎の提供、クレジットカード会社による特典付きプラチナカード・ブラックカードの発行など、多様な富裕層向け商品・サービスが目白押しです。銀行や証券会社など金融機関も同様で、富裕層向けビジネスに注力しています。
資産家向けの金融商品や保険商品の企画・販売に加え、事業承継や相続のためのコンサルティングサービスなども提供されます。日本の場合、資産家に占める地主さんの比率が比較的高いことが特徴で、それ故にアパート・マンション経営や駐車場経営など、所有地の有効活用を促すことも、富裕層向けビジネスの一つと看做して良いでしょう。日本では富裕層が資産運用などを相談する相手は、これら金融機関であることが圧倒的に多くなる訳ですが、ここには大きなリスクが内在していて、要注意なのです。
言わずもがな、各社は決してニュートラルな立場ではなく、飽く迄も営利目的の私企業です。相談してきた富裕層の資産を、相手に多少の不利益が生じたとしても自社の利益を優先し、自らの取扱商品や得意分野に誘導することは、ビジネスである以上当然のことだと言えます。加えて、保有する情報量は圧倒的に企業側が有利です(情報の非対称性)。ここに、各自が予め金融商品や資産運用などの勉強をし、金融リテラシーを一定以上にしておくべき決定的理由がある訳ですね。

富裕層向けビジネスの定番、海外投資には注意?

注意すべき富裕層向けビジネスの典型は、海外投資です。富裕層の間では、日本国内の超低金利、日本円のみで金融資産を持つことのリスク、節税効果などのため、相変わらず海外投資が人気です。確かに、海外の金融商品の中には、魅力的な表面利回りのものも珍しくありませんから、日本の富裕層が思わず目を見開くのは理解できるところですね。 ところが、海外投資には、カントリーリスクなど金融機関が触れたがらない多くの陥穽が待ち受けていることも事実です。
一例を挙げれば、為替差益(差損)の存在です。為替マーケットが、投資時よりも円高方向に振れれば、言わずもがな外貨建て資産は目減りすることになります。1USD=110JPYの時に海外投資を行ったとします。マーケットが円高方向に振れ、1USD=90JPYになったとすれば、いきなり18%強も外貨建て資産が目減りしてしまうのです。仮に、利回りが10%や15%ある金融商品であったとしても、為替差損をカバーすることは到底不可能です(マーケットが運良く円安方向に振れれば、逆に外貨建て資産は増加)。
加えて、為替手数料の高さも、海外投資など富裕層向けビジネスの注意点です。金融機関により違いはあるのですが、一般的には1USD当たり1JPY程の手数料負担を強いられることはザラです。この事実だけで、既にその金融商品の利回りが実質1%近くマイナスになることになります。さらには、投資資金を海外送金する際の送金手数料の負担も小さくありません。最悪のケースでは、現地の金融関係の法律が急に改変され、せっかく海外で運用した資金を日本に戻せなくなる、というリスクすら存在するのです(中国や、その他開発途上国など)。

富裕層向けビジネス注目の「ラップ口座」にも注意?

金融機関の富裕層向けビジネスとして、最近脚光を浴びているものに、「ラップ口座」があります。こちらは、資産を一纏めにして金融機関に預け、様々な運用対象で管理・運用を行うというサービスです。取り扱い金融機関は主に信託銀行や証券会社などであり、1,000万円超など纏まった資金を預け入れる必要があります。口座名義人は都度売買手数料を負担する必要がない代わりに、運用資産の残高に応じて手数料を課される仕組みなのですね。
そもそものお話、金融機関がラップ口座を勧めてくるのは、投資信託を次々に乗り換えさせて手数料を稼ぐという従来の営業手法に対して、金融庁の監視の目が厳しくなってきたためです。発端からして、顧客視点で考えて登場した富裕層向けビジネスではないのですね。ラップ口座の性格からしても疑問点があり、資産運用を特定の金融機関に丸投げして良いのか、負担する手数料は妥当なのかなど、富裕層向けビジネスの利用者側にも金融リテラシーが求められます。
ラップ口座について、金融機関サイドは、ビジネスなどで多忙な富裕層にとり、資産運用をプロの専門家に任せることが可能なので、管理工数がかからずに安心感を得られる、という主旨の売り口上を使うケースが多いようです。手が掛からずラクであるのは事実ですが、必ずしも安心感を得られるかは別問題ですね。実際問題、マーケットの大きな暴落が起これば、言わずもがなラップ口座も損失を計上することになります。
Kenneth S

Kenneth S

総合商社のIT戦略担当からIT系ベンチャー企業の経営補佐などを経て、現在は海外在住の個人投資業。時折、物書きもしている。
]]>