「ファクトフルネス」で常識をアップデート!世界の今を正しく知る!

ネットでどんな情報にも簡単にアクセスできる時代になって久しくなりましたが、最近はその“副作用”に困っている人も多いのではないでしょうか? 例えば、拡散される「デマ情報」や、情報が正しくないのに検索上位に出てきてしまう「まとめサイト」など。無駄な情報を省いて手に入れたうえで、それが正しいのか自分でチェックする能力が必要になってきていると感じます。

2019.3.19
そんな中、世界的に「正しい」「常識だ」と思われている統計データですら、もはや使い物にならないモノが多く含まれると指摘した方がいます。名前はハンス・ロスリング氏。スウェーデン出身の医師でWHOやユニセフのアドバイザーとして活動し、「国境なき医師団」の発起人にもなった人物。実は2017年にガンで他界されているんですが、彼が出演した世界的人気のプレゼンショー『TEDカンファレンス』で披露したスピーチ「最高の統計を披露」は、統計をエンターテインメントに変えた伝説的なものだと称賛され、動画の再生数は3,700万回まで伸びています。
そんな彼が生前最後に記した『ファクトフルネス ~10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣~』の内容とは?これまで世界を知る上での前提とされてきた統計の常識をアップデートしていきましょう。

「先進国」と「途上国」の概念はもう古い!?

「世界の人口の何%が、低所得国に住んでいると思いますか?」
ハンス氏がこの質問をアメリカやスウェーデンの人々に聞いたところ、最も多かった回答は「50%以上」でした。私が聞かれても同じような回答をしただろうと予想しましたが、実際の答え…「9%」。なんとイメージと最新の統計データの間にはおよそ40%も差が開いていたのです。さらに「低所得国に暮らす女性の何割が、初等教育を修了できる?」という質問でも、実際の数値よりも大幅に少なく予想してしまう傾向があることが分かりました。
1960年代までさかのぼると「先進国」と「途上国」が2極化した統計があるそうですが、いったい何故、私たちはそんなにも昔のデータの印象を今も引きずっていたのか? その理由をハンス氏は人間には「分断本能」があるためだと分析しています。私たちは物事を、正義と悪、自国と他国、先進国と途上国という具合に2つのグループに分けて考え、しかも両者の間には埋められない溝があると思い込みがち。その結果、実際には人類の75%が中間所得層であるのに、世界は極度の貧困層と億万長者に分断されていると思い込んでしまっていたのです。彼の主張は今ようやく世界に浸透し始め、世界銀行などでは実際に「先進国」と「途上国」という言葉を使用しなくなったそうです。
ただし「先進国と途上国」と分けることはもはや意味が無いと理解しても、世界をグループ分けすることは便利だと言うのも理解できますよね? そこで、ハンス氏は今の時代に合うグループ分けの方法も提示しています。

世界は「4つのグループ」に分けて考える!

ハンス氏が世界の人口70億人の「1日当たりの所得」を調べた結果、4つのグループに分類することが効果的だという結論に至ります。それは以下の通り。
レベル1…「1日の所得が1ドル」。
5人の子供を養うために数時間かけて川に水を汲みにゆき、薪で火を焚き、おかゆを食べるような生活をしている人々。体調を崩しても抗生剤を買うお金がなく、常に命の危険にさらされている。まさに極度の貧困ですが、世界人口のうち10億人が該当します。
レベル2…「1日の所得が4ドル」。
自分で育てた作物以外にも、例えば鶏を飼って卵を食べたり、お金を貯めて子供にサンダルをプレゼントしたりすることが可能。冷蔵庫を使えるほど安定していないけど、電気も通りはじめて夜に子供たちが勉強することもできる。そんな生活をしている人々が最も多く、世界のおよそ30億人が該当します。
レベル3…「1日の所得が16ドル」。
仕事を掛け持ち、休みなく働いて収入も安定。冷蔵庫やバイクを買うことで食生活も向上し、より遠くの工場で働くことができるように。このような暮らしをしている人々が世界に20億人ほど存在します。
レベル4…「1日の所得が32ドル」。
学校には12年間通い、旅行の時には飛行機に乗る。月に一度は外食をして車を買うこともできる。世界のおよそ10億人が該当します。
多くの日本人はレベル4に該当していますが、この新しいグループ分けから知ることが出来るのは、最も多くの人々が貧困層ではなく中間層にいること。そしてこれまでザックリ「途上国」と言われてきたグループの中にも明確な差があるということ。
これはまさに新常識と言えるもので、ハンス氏はこの4つのレベルを使うことで、テロから性教育まで世界のさまざまなことを理解できるようになるとしています。さらに、マイクロソフト社のビル・ゲイツ氏もこの考えに感銘を受け、世界に広めるためにいろんな場所で言及しています。

「世界はどんどん悪くなっている」は勘違い?

はじめに、人間の分断本能について紹介しましたが、次は「ネガティブ本能」。世界はどんどん悪くなっているという思い込みについて。様々なメディアで日々、貧困に苦しむ人々や児童の労働、大気汚染などの問題が取り上げられ、悪化の一途をたどっているように感じてしまいますが、実は極度の貧困層の人々は20年前の半分に減り、児童の労働も大気汚染も着実に減っているという確かなデータが存在します。他にも…
「減り続けている“悪いこと”」
・災害による死者数
・HIV感染者数
・乳幼児の死亡数
「増え続けている“良いこと”」
・安全な飲料水(安全な飲料水を利用できる人の割合)
・自然保護(陸地の総面積に対する自然保護区域の割合)
・女性参政権
このように、ポジティブな変化を指し示す統計は世の中にたくさん存在しています。それでも「あやふやな過去の記憶」「ジャーナリストや活動家による偏った報道」「状況がまだ悪いときに、以前に比べたら良くなっていると言いづらい空気」などが原因で、人は世界はどんどん悪くなっているというネガティブな思考に陥ってしまうのです。
確かに、現在の日本でも「幼児虐待」や「あおり運転」の問題が頻繁に取り上げられていますが、ことの重大さを知り、解決への努力をすることは前提として、本当に以前より悪くなっているのか? ということは冷静に判断する必要がありそうです。

ファクトフルネスを活用しよう!

最後に、今は亡きハンス氏が人生を賭けて提唱した「ファクトフルネス」の教えの一部をご紹介。
・世界の所得レベルは徐々に上がってきている。
・世界では悪いことも起きているが、同時に様々な分野で改善している。
・本能に訴えかけようとするメディアの情報を鵜呑みにして絶望しない。
・世界は変わり続けている。死ぬまで知識と世界の見方をアップデートしなければならない。
これらはまさに情報にあふれる現代社会を正しく捉える極意のようにも思えます。ファクトフルネスを活用して正しく情報を獲得し、アップデートを続けましょう。
自身の思い込みを正し、メディアから得られる情報の活かし方をうまく見つけられるヒントが散りばめられた本と出会うことが出来ました。そして冒頭でも触れたハンス氏のスピーチ動画ですが、これも圧巻でした。
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FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣|日経BP社
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横山ケン太

横山ケン太

趣味はアウトドア、興味は財テク。フリーの作家として活動中。
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