2017年12月6日 更新

「僕としては、こうなるきっかけをずっと求めていた」第10章[第18話]

元銀行員の男が起業をして、一時は成功の夢をつかみかけたが失敗する。男はなぜ自分が失敗したのか、その理由を、ジョーカーと名乗る怪しげな老人から教わっていく。"ファイナンシャルアカデミー代表"泉正人が贈る、お金と人間の再生の物語。

 飲食業はテイクアウト型かサービス提供型に分かれます。テイクアウト型は陳列ケースと対面販売できるスペースさえあれば、やっていけます。つまり人件費も家賃もおさえられる。サービス提供型は、店内で飲食をしてもらうための給仕を伴ったサービスです。これは、大きなスペースを必要とし、さらには、初期投資がずいぶんとかかります。
 ここまで考えておにぎり屋を提案していたのかわかりませんが、大谷の考えていたビジネスモデルは最小の開店資金でできる点で理にかなったものでした。
 その頃、僕と大谷は毎日のように顔を合わせるようになりました。
「この準備期間が僕らの未来を決める!」
 大谷は自分以上に熱心に業界研究にいそしむ僕の姿を見て、ほくそ笑んでいたのかもしれません。自分の人を見る目に間違いはない、と僕をことあるごとに褒めていました。ただ、僕としては、こうなるきっかけをずっと求めていたから、大谷に利用されているとは感じませんでした。
 むしろ、僕はついていると思っていました。あいつみたいな世慣れたやつと一緒に起業ができると思うと、成功に対するビジョンの色の濃さが違います。まだ一個ずつピースを集めている段階でしたが、その確信めいた思いはだんだんと強くなっていきました。
 問題は、やはり家族のことでした。妻になんと話したら、よいだろうか?
 僕が銀行を辞めると伝えたとき、妻はもちろん猛反対しました。身体の弱い子どもを抱えて、何を考えているのか? 銀行を辞めないで欲しいというのが妻の言い分でした。でも、そこから何力月もかけて、じっくりと説得しました。
 しかし、結局のところ、妻は最後まで納得しなかったように思います。最後は、僕に根気負けしたようです。だけど、絶対、自己資金はその五〇〇万円以上は使わないことを約束させられました。五〇〇万円は僕名義の口座に入っているお金のすべてでしたから。それは当たり前だと言ったら、彼女は少しは安心したようです。
 誤解がないように言っておきますが、妻と娘の存在は、僕にとって支えでした。彼女たちを今よりも楽をさせたいから、僕は一歩踏み出そうと考えていたんです。娘は先天的に内臓に異常がありました。だから、せっかく入った小学校も休みがちで、入院もたまにしていたのです。そういう事情があったから、妻は普通以上に心配していたかもしれません。娘を心配する気持ちは僕も同じでした。だから、私たち親に、もしものことがあっても、娘の愛子が困らないだけのお金を稼いで残したいと真剣に考えていました。その気持ちは今も変わりません。
(毎週金曜、7時更新)
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泉正人 | ファイナンシャルアカデミー 泉正人 | ファイナンシャルアカデミー
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